3人
所変わって俺たちの教室。俺はあの後すぐに「この子に制服着せるから~」と学園長室から追い出されてしまっていた。俺は少し不安もあったが結局教室に来る他なかった。教室に入り顔馴染みに挨拶をした後、俺は席につくと今後どうなるのかを考えることにした。まず第一の問題として、フレイはどの様な扱いになるのかである。実技試験などにおいて彼女は俺の契約精霊として召喚獣と同等の扱いになるのか、それとも彼女はその様な試験への参加を認められないのか。一般生徒と同じ扱いなのかそれとも他に特別な扱いがあるのか。転入することになったらその費用についてはやはりこちらが負担するのか。考えることは山積みだった。
しばらくして担任が教室に入って来る。メガネをかけた痩身の、なんの特徴もない男性教諭だ。しかし人柄の良さから生徒からはわりと人気がある。最初は普通にどこにでもいるサラリーマンに見え過ぎるが故に付けられた「リーマン先生」も今となっては愛称のようになっていた。
「はい、皆さんおはようございます。今日は重大な連絡があります。なんとこのクラスに転入生が来ることになりました」
それを聞いて生徒たちは少しざわつくがすぐに収まる。転入生というのは一般的には確かに珍しい。しかしここの生徒から見れば珍し過ぎるということはないのだ。魔法を教えれる学校は数自体が少なく、引っ越せば大体一つの転入先しか選択肢がない。それ故に転入生は年に数人、多い時は10人を超えることもある。ざわついた理由は転入生の存在よりも、なぜ他クラスより人数が若干多いうちのクラスに転入してくるのか、というようなことだ。俺はその理由に関して想像することは容易だった。確実に転入生というのはフレイのことだろう。どの様に紹介されるのかという疑問はあるが誰か分かってしまう分他の生徒よりは驚きが少ない。
「しかも3人です」
しかし告げられた人数によって俺にも疑問が生じた。他の生徒たちも驚きクラスが一気に騒がしくなる。何しろ同じクラスに3人も転入生が来るなんて普通じゃない。
「まず一人目に入って来てもらいます。櫻さんどうぞー」
リーマン先生が呼ぶと一人の女子生徒が入って来る。黒い髪を肩よりも少し下程度まで伸ばした、気の強そうな少女だった。少女は教卓の前に来て一つ礼をすると自己紹介を始める。
「今日からここでみんなと一緒に勉強することになった櫻 楓よ。前の学校では生徒会長をやってたわ。これから一年間、級友としてよろしくお願いするわ」
少女がもう一度礼をするとクラスから拍手が起こる。そのままどこかへ座るかと思いきや彼女はもう一度口を開く。
「もう1人も身内だから紹介するわね。エス、入って来て」
エスと呼ばれた少女は廊下から教室の中へと入って来る。その容姿にクラスの生徒のほとんどが息を飲む。それほどまでに転入生、エスの姿は美しかったのだ。薄い水色の髪が肩に触れない程度まで伸びていて目も髪と同じ様な薄い水色。その姿は氷を連想させた。氷のような冷たさと儚さ。そんなものを彼女は持ち合わせていた。
「・・・エスです。よろしくお願いします」
エスはそれだけ言うと頭を下げることはせずに櫻の後ろに隠れた。
「私たちについて何か質問はあるかしら?」
櫻はエスと自分の分をまとめて質疑応答をしようとしてなのかそう言う。
「はいはい!身内って言ってましたけど二人はどういう間柄なんですか?」
質問をしたのを綾香だった。
「エスは私の契約精霊よ」
櫻は堂々と言い放った。他の生徒はポカンとしていた。そして俺は呆然としていた。これはどういうことなのだろう。まさか他にも契約精霊を持つ生徒が同じクラスに転入してくるなんてそんな偶然があるのだろうか。しかもよりによって今日。あの学園長がわざと同じクラスにまとめたのだろうか。
「・・・あの、契約精霊ってなんですか?」
他の生徒から質問が飛ぶ。生徒たちの中には疑問のほかにも何を言ってるんだという馬鹿にしたような雰囲気もあった。
「あれ?契約精霊を知らないの?この学校にも精霊と契約した人間がいるって聞いていたんだけど。まあいいわ。簡単に言えば高位の契約召喚獣よ。特徴的には人型をしていることと、基本的に魔法の扱いに長けていることね」
櫻が朗々と説明しているのを聞いて俺はこんなベラベラ喋って何を考えているんだと思うと同時に自分が説明する手間が省けたとも思った。皆のあまり良くわかっていない反応を見てため息を吐くと言った。
「放課後、今言ったことがどういうことか見せてあげるから訓練棟まで見に来なさい。もちろん来たくない人は来なくても構わないわよ」
それだけ言うと他に質問がないか確認して桜とエスは後ろの方の空席に並んで腰掛けた。
それからリーマン先生は思い出したようにフレイを中に呼ぶ。フレイは初めて来る場所なのに物怖じしないような雰囲気で不安は無いようだった。そしてその姿にはエスが教室に入ってきた時と同じように皆の視線を集めた。理由は明白だった。まず容姿が整ってるというのはもちろんなのだが何よりその紅蓮の炎のように真っ赤な髪の毛が人の目を引いたのだ。
「今日からここで共に学ぶことになったフレイだ。よろしく頼む」
フレイは凛とした声で簡潔に言い放つ。それにしても制服がよく似合っている。黒いブレザーに真っ赤な髪がよく映えるのだ。フレイは質問があるかを聞かなかったためリーマン先生が代わりにないか聞く。今度はまだ名前も覚えてない今年からの級友が手を挙げた。
「朝更間くんと一緒に歩いているのを見たんですけど、二人は知り合いなんですか?」
どうやら朝見られてしまっていたようだ。確かに人通りの多い時間に登校したのだからクラスメイトに見られていてもおかしくはない。その質問に対してフレイは間髪いれずに答える。
「私は紫縁の契約精霊だ」
フレイは何も偽ることなくありのままを伝えた。なんの躊躇いもなく。
「「「えーっ!」」」
クラスメイト全員が驚いたように声を挙げた。当たり前だ。本日2度目の契約精霊登場の上にその契約者が学年1の落ちこぼれだったのだから。
「契約精霊って、今日転入してきたエスさんと同じっていうことですか?」
「ああ、そういえば他にも転入生がいたのだったな。エス、というのはそこに座っている水色の髪の少女のことだろう?それなら彼女と私は同じ契約精霊だ」
クラスは衝撃の事実に今日一番のざわめきを見せる。去年からのクラスメイトの2人からの視線が背中に刺さっているのを感じながら俺は別の方向からの視線に目をやると転校生の櫻が品定めするようにこちらを見ていた。そして立ち上がると俺の方を指差し宣言した。
「決めたわ!契約精霊の力を見せるための相手はあなたよ!」
「・・・はい?」
しばらくしてから俺は間抜けな声を出していた。どうやら今日から俺は予想以上に落着けない生活を送ることになるらしい。そう思うと思わずため息がこぼれた。