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特別クラス生とのいざこざ

 俺は学校までの道のりを歩きながら今日の予定を考える。意外なことに魔法学園は家の近くにあったのだ。入学式の日はこんなところに学校があったのかと驚いたものだ。入り組んだところにあるのも理由の一つかも知れないが、人除けの結界の影響で魔力に適性の無い者はこの周辺に近づこうという意識そのものがなくなっているのだ。なくなっている、というよりは阻害されているの方が正しいかも知れないが。

 新学期が始まってすぐの時間割と言えば普通は始業式である。しかしこの学校にそんなものは存在しない。集会を行うには全校生徒の数が多過ぎるのだ。まあ特にする理由がないというのもあるかもしれないが。そのため俺たち生徒は普通に新学期初日から授業を行う。この学校の時間割は基本的に午前が一般教科、午後が魔法教科というように分かれている。一般教科については将来的に魔法職につくと既に決めている人のほとんどが聞いていない。折角手にした魔法の力なのだ。今更魔法を使わない生活に戻ろうなどとは大部分の生徒は思わない。それにどんなに魔法を使えなくても、日本の魔法使いの数は他国に比べてかなり少ないため希望すれば魔法関係の事務職を学校から斡旋される。ちなみに魔法関係以外の進路に関しても学校側が用意もしてくれる。好き勝手に進路を決められるより、ある一定の範囲から職を選んでもらった方が有事の際に楽だからだ。つまり一般的な教科はなくても将来的には困らないのだ。そのおかげもあってほとんど皆が魔法について自学自習するための時間になっている。かく言う俺もその一人だ。どうしても出来るだけ早く契約召喚獣の召喚に成功したいのだ。

 今日は、かつて契約召喚獣の召喚成功までに時間がかかったと言う偉人をピックアップしてその人物に関する文献を漁る予定だ。どのようにして契約召喚獣の召喚にまで辿り着けたのか、それを調べるためだ。同じ方法でうまくいくとは限らないがそれでもやってみる価値はあると思うのだ。

 新しいクラスに入りしばらく談笑していると始業のベルが鳴り授業が始まる。それから集中してページをめくっていると突然の衝撃が後頭部を襲った。

「っ!?」

俺は急いで振り返ると一年の時からのクラスメイトの綾香がニヤニヤしていてその隣の席の同じく去年からのクラスメイトの誠司が呆れていた。綾香たちの席と俺の席はある程度の距離がある。おそらくやってきたことは魔力で空気の塊を飛ばす基本魔法だろう。基本魔法は学科に関わらず全員が学ぶ専門的ではない魔法だ。これは別名「空気砲」と呼ばれるもので生徒の間ではイタズラのための必須魔法となっていた。

授業が終わると俺は二人の席のところへ行って笑ながら綾香に文句を言う。

「授業中に空気砲はやめろよ」

「ゴメンゴメン。集中してる人見るとつい、ね」

「それはタチが悪過ぎるぞ」

誠司も咎めるようなことを言っているが笑っていた。

「そう言えば今日の午後の魔法の授業ってどうなってるんだっけ?」

俺が聞くと誠司が答える。

「今日の午後は魔法練習だから好きな魔法の練習ができる日だ。ちゃんと聞いとけよ紫縁」

「いつ言ってたんだよ?」

「終業式の日」

「覚えてねーよっ!」

 そんな感じで午前は過ぎて行き午後になった。午後になるとすぐに俺は校舎の裏に行き自身の召喚器である分厚い本を開く。この本はうちの家系に伝わるものらしいが、最近は召喚術師が現れず埃を被っていたものだ。内容は白紙で、なんでも自分で考え実行するための器に過ぎない本には中身など必要ない、ということらしい。どんなに魔力を込めようと、詠唱を行おうと、召喚は一向に成功しない。それどころか召喚のための魔法陣すら浮かび上がらないのだ。一息ついて一部の生徒が魔法戦の練習をしている訓練棟へと向かう。訓練棟の中では二人の生徒が20m程度の距離を開けて召喚獣を戦わせていた。そういった訓練をしているのが他にも6組ほどいるようだ。そのうちの1組の様子がおかしいことに気づきそちらへ向かう。どうやら口論になったようだった。2人は互いの召喚獣を激しくぶつかり合わせている。周りには少しずつ人が集まってきていて騒ぎが少し大きくなってきていた。2人の生徒を見ると一人は優秀者クラスである1組の生徒でだ。学科ごとに4クラスあるうちの1組が特別クラス、残りの3クラスが普通クラスなのだ。もう一人は一般生徒のようだからおそらくは1組の生徒が練習場所を使いたいからどけろと一般生徒の方に言ったのだろう。それに反発した一般生徒が文句を言って喧嘩になったといったところだろうか。

 勝負の結果はすぐに分かった。当然かもしれないが優秀者クラスの生徒の契約召喚獣である巨大な狼がが致命傷を負わせ、普通クラスの生徒はすぐに自身のハリネズミによく似た契約召喚獣を自らの魔力に還元させた。その時に召喚獣の傷を治すために大量の魔力が消費され生徒は悔しそうに膝をついた。その様子を見た1組の男は鼻で笑うと見ていた生徒たちに高らかに告げた。

「これで見ていたお前らも格の違いが分かっただろう!コイツの召喚獣は致命傷を負ったがこちらは無傷だ!これに懲りたら凡人共が俺ら1組に逆らおうなんて考えないことだな!」

俺はその悪役っぷりと傲慢さに思わずぶっと吹き出してしまった。

「誰だ?今笑った奴は!」

どうやら聞こえてしまったらしい。だがこれだけ人がいるのだから俺だとバレはしないだろう、そう思った矢先のことだった。俺の周りにいた人が俺を差し出す様にさささーっと離れて行ったのだ。とばっちりを喰らったら堪らないということなのだろう。どうしよう、かなりまずい状態だ。このまま勝負になったりしたらまず勝ち目はない。何しろこちらには召喚出来るものがないのだ。

「なんだお前かよ。落ちこぼれのくせによく笑えたな」

「あまりの悪役っぷりについね」

俺は余裕がある様に装うが実際は状況をどう打開するか考えるのに忙しかった。

「ハハッ、余裕みたいじゃねぇか。じゃあ俺と勝負しろよ。手加減くらいしてやるからよ」

ニヤニヤと笑いながら勝負しろと言ってくる。断りたいという気持ちで一杯だったが一方的に嬲りたいだけの男相手にはどうやっても無駄だということは分かっている。

「召喚獣のない俺が戦うのは無理があると思うんだけど」

「召喚獣なんてなくてもテメェが戦えばいい話だろうが」

ささやかな抵抗を試みるが無駄であった。俺はカバンから木刀を取り出し構える。

「そんなちゃっちい棒切れでやり合う気かよ?まあ安心しな。契約召喚獣は使わないでおいてやるよ」

そう言うと相手は簡易召喚獣の小型狼を召喚して攻撃の準備を整える。

「狼が本当に好きみたいだな」

「契約召喚獣に合わせただけさ。行くぞ!」

声に合わせて狼が襲いかかってくる。俺はそれを避けながら反撃の機会を伺う。木刀で防御すれば折られる可能性がある以上、木刀は攻撃にしか使えない。

「さっきまでの余裕はどうしたんだよ?避けてばっかじゃ話にならないぞ!」

挑発をしてくるのに合わせて大振りの一撃が自分に迫ってくる。それを好機と見た俺は最小限の動きで躱し加速魔法をかけて音速で木刀を振るう。その一撃は見事に狼にヒットして吹っ飛ばす。5m以上離れた処にドサリと落ちるとそのまま魔力へと還り消滅する。攻撃の衝撃で木刀にも割れ目が入っていた。これでも一応魔力の込められた木刀だったのだが。それを見ていた1組の生徒は驚愕に目を瞠っている。当たり前だ。簡易とはいえ召喚獣を相手に生身で戦って勝てる召喚術学科の生徒は殆どいないのだから。俺が勝てた理由は簡単だった。1年の中頃から魔法武術科の生徒と教師に協力してもらいずっと稽古をしてきたのだ。魔法武術科は本来召喚獣や魔物、同じ魔法武術の使い手と戦うことを前提にした学科だ。そこで手ほどきを少なからず受けていれば簡易召喚獣くらいなら相手にはできる。相手が油断して簡易召喚獣などを使って来たが故の勝利だった。

 しかし、それがまずかったようだ。1組としての誇りを踏みにじられたと感じたのであろう生徒は契約召喚獣を呼び出していた。

「調子に、乗るなっ!」

すぐに契約召喚獣の巨大な狼が襲いかかってくる。俺は数発をなんとか躱したものの、素早さに全くついていけそうに無かった。このままじゃジリ貧だ。そう思い攻勢に出る。勝負は一瞬。相手の隙を突くように拳を加速させ自己強化も加えて突き出す。しかしそれが届く前に狼の前足に殴り飛ばされ俺は意識を失った。


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