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青春ラプソディー

作者: 詩音

ありがちネタですが、よろしければどうぞ。



 放課後の体育館裏。もし辞書でその意味を調べられたら、ありがちな告白場所って出ると思う。

「私、入学したときから周防(スオウ)君のこと……好きだったの」

 頬を真っ赤に染めて、真面目で純粋そうな女の子は想いを告げた。緊張してるのか、手が僅かに震えていた。

「悪いけど俺、今そーゆーの興味ないから」

 あっさり、もしくはばっさりと切り捨てた男子生徒は面倒臭そうに目を細めた。告白した女の子は瞳に涙を溜めて小さく謝った後、その場を走り去る。

「あーあ。また冷たい言い方して……」

 サイテー。と呟いた私に男子生徒改め周防瑞希(スオウミズキ)は睨みを効かせて口を開いた。

「人の告白現場見てる方がサイテーだと思うけど?」

「それとこれは別」

 偶然遭遇しちゃったんだもん。ずっと見てたけど私は悪くないよ、たぶん。

「それより何で断ったの? 結構可愛い子だったじゃん」

宮永(ミヤナガ)、人の話聞いてた?」

「ん?」

 僅かに首を傾げる私を見て瑞希はため息を吐いた。

「今はそーゆーの興味ねぇんだよ」

「あーそういえばそんなこと言ってたね」

 ホントはちゃんと聞こえてたけど、知らなかったフリした。

「もうすぐ試合近いのに、レンアイなんかやってられるかっての」

 クラスメイトであり私の隣の席である彼は一言で言えば野球馬鹿だ。中学から始めた野球が好きで好きでたまらないらしい。

「あんま恋愛を馬鹿にしちゃダメだから。そこらにいるカップルから非難浴びまくるよ?」

「別にいーよ」

 ぐっと背伸びをする瑞希の背中を見る。

 女の私よりは大きいけど、高校一年にしては小さめの身長。本人も気にしてるみたいでいつもお昼は牛乳を飲んでいた。


「何見てんの」

「別に」

「あっそ。んじゃ俺部活行くから」

 スポーツバックを肩にかけて私に視線を向けた。

「せいぜい頑張んなさいよ」

「……お前ってホント可愛くねぇ性格だな」

 わかってるよ、そんなの。

 胸にグサリとトゲが刺さったまま、私も部室へ向かった。




「はい、というわけで今月の特集は野球部に決定しました!」

 六人にしては大きな歓声と拍手。私以外の新聞部の部員は嬉しそうだ。

「じゃあ早速分担決めまーす!」

 ノリノリな部長はホワイトボードに分担を書いていく。

「あたし記事書く!」

「じゃあ私インタビューする!」

「えー、ずるいよ!!」

 すぐさま先輩方が立ち上がって挙手した。当てはめるならバーゲンシーズン最終日。

「ねぇねぇ、野球部ってそんな人気なの? 今年一年生が入らなかったら廃部って聞いたけど……」

 隣に座っていた唯一同じ一年生の田牧優里(タマキユリ)に尋ねる。

「勿論! 今年から新しく入った一年が皆上手いらしくてさ、野球部ってかっこいい人集まってるし、今人気急上昇中なんだよ!」

「はあ……」

 同じ女だけどたまに勢いについていけないときがある。ぼんやり皆の会話に耳を傾けていると。

「写真は紗月(サツキ)ちゃんで決まりでしょ。あとはじゃんけんね!」

 ……はい?

「部長、今私の名前呼びました?」

「あれ? 聞こえてなかった?」

 思いっ切り呼んだけど。そう言われれば私の聞き間違いではない――つまり。

「私が写真撮るんですか!?」

「当たり前じゃん。紗月ちゃんの写真、皆が褒めてるんだから!」

 中学から始めた写真で賞をもらったことも一度あった。褒めてもらえるのは嬉しいし、写真には自信があるけど、ね?




「何」

「……別に」

 瑞希(コイツ)の写真まで撮るなんて……絶対下手とか文句言われるよ。

 当の本人は何も知らないらしく、大きな目を瞬かせていた。

「宮永、今日から野球部の特集なんだって?」

 私の前に座る野球部の一人、清水(シミズ)が話しかけてきた。色素の抜けた茶髪は所々跳ねている。

 コイツのニヤニヤした笑い方も不愉快極まりない。

「野球部の?」

「そーそー」

 瑞希がぴくりと反応を見せる。

 清水ってば余計なこと言ってくれちゃってこの馬鹿!

「お前が写真撮るんだろ?」

「……よくご存じですこと」

 嫌味たっぷりで清水に言ってやった。これが私なりの精一杯の反撃。

「部長が嬉しそうに話してるの盗み聞きしたからな!」

「威張って言う台詞か?」

 瑞希の冷たい突っ込みを聞いて清水は肩を落としたまま、前を向いてしまった。

「あーあ、また冷たい言い方して……」

「特集ってホントにやんの?」

 呆れる私を無視して聞いてくる瑞希。

「そうだよ、今月は野球部に決まったから」

「ふーん」

 どうでもよさそうな瑞希の返事に私は少し複雑な気分になった。






「さぁ行こう! 野球部のいるグランドへ!!」

「おーっ!」

「……はぁ」

 盛り上がる六人の新聞部部員。役割争奪戦をしたものの、決着がつかずに全員で押し掛けることになった。

 何でそんなに元気なんだろう。

 私は遠くを見つめてそんなことを思った。

「紗月も早く行こ?」

 走り出す先輩達にやや遅れて優里がぐいぐい私の腕を引く。

「そんな急がなくても……」

「だって清水君のインタビューしたいんだもん!」

 どうやら早い者勝ちになったらしい。

「……ちょっと待って、清水って言った?」

「え、言ってた?」

「普通に丸聞こえですけど」

「うっわー!」

 顔を赤く染めて涙目で私に優里の視線が向けられる。

「絶対にっ、内緒だからね!」

「は、はい……」

 勢いに負けて頷いたものの、好奇心旺盛な私は再度口を開いた。


「ねぇ、清水ってうちのクラスのだよね?」

「あぁもう! 内緒って言ったばっかなのに……」

「ごめん。でも……何で?」

 あのお調子者のどこらへんを好きになったの?

 ややヘタレの清水に恋。私には有り得ないかも。

「何でって……笑顔が、かっこいいから」

 自分で言った瞬間、優里の顔は茹でたタコ並に真っ赤になった。それを見た私は、妙に納得してふと思う。

 恋してる顔だ。

「頑張ってね」

「応援してくれるの?」

「当たり前じゃん」

 自然と笑みが浮かぶ。優里も笑って私の手をつかんだ。

「じゃあ急ごう!」

「だからわかったってば!」




「今日はよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ」

 にっこり微笑むうちの部長。野球部部長も緊張気味にひくりと笑った。

「では早速軽いインタビューをさせて頂いてよろしいですか?」

「あ、はいモチロ……」

「瑞希君、あっちで話聞かせてくれる?」

「は……」

「ダメ! あたしが先なんだから!」

 私と優里以外の部員は瑞希に絡み始めた。話をろくに聞いてもらえなかった野球部部長はポカンとしている。

「コラ新聞部!」

 やっぱり部長だ。流石にバランスを考えるかと思ったら。

「瑞希君は部長に譲りなさい」

「部長! 公私混同しないでくださいよ」

 呆れたのは私だけでなく、大半の野球部部員もらしい。

 これは、もしかしてもしかする?

「アイツってモテるの?」

「そうだねぇ、顔が可愛いから上級生にも人気あるし」

 優里に聞けば、何度も頷いて答えてくれた。瑞希に目を向ければ未だに新聞部の先輩方に囲まれている。

「あの毒舌のどこが良いんだろ」

「そりゃギャップだろ」

 誰にも聞こえないくらいの声で呟いたつもりだったのに。

 背後からの声に私と優里が振り返る。

「し、清水君……!」

「ちーっす」

 優里は顔を真っ赤にしてうつ向いてしまった。

 泥まみれの顔をユニフォームの袖で拭っていたせいでそれに気付かない清水。やっぱりヘタレだ。

「清水は誰かにインタビュー誘われた?」

「……聞くな」

 あ、凹んでる。

 誰からもインタビューされてないのがわかって私は優里を肘で小突いた。

「じゃ、じゃあ、インタビューしても良いですか?」

「あ、うん」

 どーぞどーぞと清水は微笑んだ。優里は何度も頭を下げていた。

 清水は頭を下げるような人間なのか? まぁいいか。優里がそうしたいなら。

「あっちの日陰でやんなよ。ここじゃ暑いじゃん」

「宮永は?」

「私適当に写真撮ってるから」

 そう言って私はデジカメを見せた。流石に優里の邪魔は出来ないしね。

「俺の写真は?」

「気が向いたら撮ってあげるからインタビューされてなさいよ」

「じゃあ行ってくるね、紗月」

「あ、優里。ちょっと……」

 手招きして優里を呼んだ。不思議そうな表情を浮かべる耳にぽつりと一言。

「告白しとけば?」

「ばっ、馬鹿!」

 耳まで赤くして怒鳴る姿は可愛いとしか言えなくて。慌てた優里は意味のわかってない清水の腕を引っ張って日陰に移動してしまった。

 面白いなぁ……。

「さて、私も仕事しますか」

 不人気を嘆き、練習を再開した野球部部員に私はデジカメを構えた。






「うん、大体わかった」

 打席と守備のどっちが得意かくらいは理解したかった。私の本番は一週間後の公式試合だから、今日は下準備しておくだけで良かったんだ。

「一応部員さんの写真は撮ってみたし」

 皆が写真見て何て言うかはどうでもいいや。

 気付けば太陽がオレンジ色に染まっていて、珍しく綺麗だと思ってしまった。




「宮永?」

「……びっくりした」

「は?」

 唐突な私の言葉に瑞希が首を傾げる。

「だって急にいるから」

「さっきからいたけど」

「嘘だよ」

「こんなんで嘘吐いてどうすんだよ……。まぁいいや」

 瑞希と並んでフェンスの向こう側にある夕日を見た。他の野球部部員は続々と部室に戻ったらしい。新聞部の皆もいつの間にかいなくなってた。

「ん」

 瑞希が私に見せるのは缶ジュース。右手には炭酸、左手にはお茶があった。

「何?」

「いらねぇの?」

「え、くれるの?」

「見てわかんねぇ?」

 偉そうな口調に言い返そうかと思ったけど、有り難くお茶を受け取ることにした。

「ありがと」

「別に」

 美味しそうに喉を鳴らして瑞希は炭酸を飲む。自然とそれに見入ってしまった。


「なぁ」

「な、何?」

「俺の写真撮った?」

 急に目がこっちに向いたからびっくりした。

 それなのに気の抜けるような質問をされてため息を吐く。

「……インタビュー攻めだったじゃん。撮るヒマなかったよ」

「新聞部の人に言っといて。インタビューは一人に絞ってって」

「うーん……」

 そんなこと下っ端の私に言えると思う? 絶対に無理だから。

 このときの私は先輩達に告げるつもりはなかった。

「明日も来んの?」

「……迷惑?」

 結局瑞希は三十分くらいしか練習に参加出来てなかった。試合前にこの調子じゃ確かに良くないと今更ながら思う。

「めーわくではない」

「……言ってみるよ、インタビューは大体出来たはずだから人数減らしてもらえるように」

「頼むわ」

 困ったような笑顔に戸惑ってしまった。普段とは違う表情にこっちが困る。

「やっぱ試合は勝ちてぇからさ」

「うん」

「先輩の最後の試合かもしんないし」

「……うん」

 コイツなりに、部活のことちゃんと考えてるんだ。

 私はそのあと、部の皆に人数削減の話をした。

「そうだよねぇ……うちらちょっと考えなしだったね」

「紗月ちゃんから謝っといてもらえる?」

「わかりました」

 理解ある先輩方に囲まれて良かった。

 でも謝罪の言葉を、瑞希はたぶん求めてはないとも思った。

「じゃあ明日は一人か二人で行こう! インタビューあれば休憩中にしようね!」

「はーい」

 納得してくれた皆はそれぞれのインタビュー内容を持ち寄って記事を形作ろうとしていた。


「紗月ちゃん」

「はい」

「写真撮った?」

「一応……」

 デジカメの中に入った写真を回し見してもらった。問題は特に無し、だったものの……。

「瑞希君は!?」

「や、だって皆さんで占領してたじゃないですか」

 私の一言は予想外だったらしい。うなだれる先輩達は見ててなかなか面白かった。






「うーん……」

「何、紗月どーしたの?」

「撮れない」

「……へ?」

「アイツの写真が撮れないの」

 嘆くような私の台詞に優里は目をパチパチさせた。先輩達は次の新聞に向けての記事を探しに行ってて部室には二人だけ。

「何で撮れないの?」

「わかんない……」

 自分でも何でかわかんないんだよ……。

 私は自分が撮った写真を優里に見せた。

「何だ撮れてるじゃん」

「撮れたよ? 撮れたんだけど……何か違う」

「あー、見比べればいつもの紗月の写真じゃないね」

 言われた通りだと思うと私は何も言えなかった。

 凹む私を見て優里は励ましてくれるものの、私の中で納得は出来なかった。






「宮永?」

「……何だ、清水か」

「えー、俺じゃ不満?」

「常に不満だけど」

「ヒドッ!!」

 清水をいじるのははっきり言って面白い。わかりやすい反応が返ってくるから。

「で、何?」

「……次移動教室」

「あー、そっか」

 忘れてた、と呟いて机の中をあさっていると清水が隣の席――瑞希の席に座った。

「宮永さ、何か考え事してる?」

「……なんで」

 わかるのまでは言う必要がなかった。両手を自分の後頭部に回して清水は口を開く。

「だって授業中唸ってたから」

「はは……」

 何て自分はわかりやすい人間なんだろう。

 私はなんだか情けなくなって乾いた笑いが出た。

「どうしたのさ、言ってみ?」

  制服のスカートの上で拳を作り、私は息を吸い込んだ。

「……清水は私の撮った写真見たことある?」

「うん、前に一回」

「見てどう思った?」

「どうって……」

 清水は少し考えるそぶりを見せてポツリと呟いた。

「写真なのに、生きてるみたいだった」

「……うん。皆そう言ってくれてるし、私自身そう撮れると思ってる」

「じゃあ何で……」

「瑞希の写真だけ撮れないの」

「……え?」

 ポカンとした表情の清水。私は拳を更に強く握り締めた。

「部活中ずっとカメラ向けたのに、一瞬の表情(カオ)撮り逃すの」

 何も言わない清水に私は続ける。

「こんなん初めてだよ。おかしくなったのかな、私」

「瑞希だけ、か」

「うん……」

 清水はチャイムが鳴ったのに真剣に考えてくれた。私は初めて授業をサボったけど、結局答えは出てこなかった。




「サボりの宮永と清水」

「二人でサボったの?」

 クラスメイトの冷やかしと質問攻めに小さくため息を吐き。

「馬鹿、悩み相談だよ!」

 処理は全部清水に任せることにした。二人で否定したらもっと面倒なことになると思ったから。

「アイツに何相談したわけ?」

 横から瑞希に話しかけられた。

「ちょっとね」

 瑞希のこと、なんて言えない。

 いぶかしげに私を見る瑞希から逃げるように、窓の外へ視線を移した。


「宮永」

「……何」

「今日も部活来んの?」

「行くよ」

 ちゃんと瑞希の写真撮れるようになりたい。

 目を反らしたまま、私は答えた。

「あっそ」

 瑞希はそれだけ言って寝る体制に入った。

 バレてない内に、なんとかしなきゃ。




「ライト行ったぞー!」

「オッケーです!」

 野球部はノックの真っ最中。必死にボールを追い掛ける姿は素直にかっこいいと思う。

 私はデジカメを構えた。

「瑞希行くぞー!」

「はいっ!」

 金属音がグランドに響く。サードの位置にいる瑞希は前屈みになってボールを捕えた。

 凄い……頑張ってんじゃん。

 帽子を取って汗を拭う姿がカメラ越しに見えてふと気付く。

「あー、また撮れなかった……」

 そんな私の呟きから少し離れた場所で騒ぎ声が聞こえた。


「瑞希君ボール捕ったよ!」

「やっぱかっこいいねぇ」

「あとで何か差し入れしようよ!」

 女の子数人が瑞希の話をしていた。かっこいいとか可愛いとか言ってる。

 差し入れとか、ちゃんとやるんだ……。

 よく考えれば、私は瑞希に差し入れをしたことがない。逆にもらうこともあるくらいだ。

「……暑」

 なんだか急にドッと疲れが襲った。日差しを浴び続けるのはインドア派の私には少しきつい。

 そうこうしてる間に野球部は休憩時間になったらしい。横の女の子達が必死に瑞希を呼ぶ声がぼんやり聞こえる。

「瑞希君お疲れ様!」

「ジュース飲まない?」

「タオルあるよー」

 元気だな。同級生なのに若く見えるよ。

 女の子達の声が一層上がった。何かと思えば瑞希がこちらに向かってきている。

「え、どーしよ、こっち来てる!」

「瑞希君ー!」

 やばい、目眩する……。

 本気で熱にやられてしまったらしい。私はフェンスにしがみついた。


「馬鹿か、お前は」

「は……?」

 瑞希の声と同時に頭に何かが降ってきた。手でそれをゆっくりつかむ。

「……タオル?」

「濡らしてきて」

「な、んで私が……」

 命令されなきゃいけないの、と言う前に瑞希は言葉を発した。

「その状態でここにいられてもめーわくだから。少し日陰いたら?」

「う、ん……」

 とは言ったものの、身体が思うように動かない。

 瑞希は呆れた顔で盛大にため息を吐き出すと私の腕をつかんだ。

「来いよ」

 周りの声なんか聞こえなかった。ただわかるのは、自分の頬に全部の熱が集まったこと。




「信じらんねぇ」

「……すいません」

 瑞希によると、私は熱射病の一歩手前だったらしい。

「ほら」

「……ども」

 濡れタオルを額に乗せている間に、買ってきてくれたらしきスポーツドリンクを渡された。

 喉に冷たい感触が通って気持ち良かった。

「何でこんなになるまでいたんだ?」

「それ、は……」

 写真が撮れないから、そう言ったら瑞希は何て言うんだろう。

「清水が気になんの?」

「……は?」

 予想外の展開に目を見開く。

「仲良いもんな、お前ら」

「違っ……」

「今更隠す必要ねぇよ」

 静かに笑う瑞希。私の目を見ずに話を続けた。

「今日のサボりも、清水に誘われたんだろ?」

「違うってば……!」

「じゃあ何?」

 冷め切った瞳。今までそんな風に見られたことがなかったから、咄嗟に言葉が出なかった。

「俺もう戻るから」

「まっ……!」

 待ってなんて言えない。私と瑞希はただの友達なんだから。

 それでも、他の女の子より私のとこに来てくれたのは、すごく嬉しかった。






「紗月? やっぱそうだ。何やってるのこんな暑いところで」

「……優里」

 優里を見て妙に安心した。タオルが膝に落ちるのも気にせずに、私は優里に抱きついた。

 珍しい行動にバタバタと慌てた後。

「と、とりあえず部室行こ?」

「ん……」

 優里に連れられて部室に向かった。




「なるほどねぇ」

「どーしよう優里、私怒らせたのかな」

 すぐに私は瑞希とのことを話した。

「周防君が怒ってるかはわかんないけど、一つわかったことがあるよ」

「何?」

 もう藁にすがるような気持ちだった。

「周防君の写真って撮るべき一瞬はわかるの?」

「まぁ一応は……」

「考えたんだけど、紗月がその一瞬を撮れないのは見とれてるんじゃない?」

「……私が?」

「そう。瑞希君に」

 見とれるなんて言われたの初めてだ。

 そんなつもりはなかったものの、優里の指摘に否定も出来ない。

「好きでしょ?」

「……っ」

 優里の問いに視線が彷徨う。それとほぼ同時に、瑞希の顔が浮かんだ。

 ムカつくけど、なんだかんだいって優しいし。一緒にいて楽しい。

「好き、かもしれない」

「それちゃんと周防君に言いなよ。取られちゃうよ?」

 瑞希を応援してた女の子達が頭によぎる。

 取られたくない。

「行こ」

「……へ?」

「優里もちゃんと言おうよ」

「で、でも……」

「今私に言ったのは嘘だったの?」

 せっかくだから巻き込んでやる!

「……わかった。行く、から」

「よしっ」

 私は気乗りしてない優里の手を引いてグランドに向かった。






「あれ、宮永と優里ちゃん」

「清水」

「し、清水君……!」

 爆発寸前の優里は私の後ろに慌てて隠れた。清水は首を傾げている。

「約束、したでしょ?」

「わ、わかってる……!」

 顔を赤くしながら優里は唇を固く結んだ。

「ねぇ清水、瑞希どこにいるかわかる?」

「瑞希? たぶんグランド整備してるとこだと思うけど」

「ありがと!」

「ちょっ、宮永!?」

 優里を置いて私は走った。後ろを振り返ったら、決意を固めた友達がいて。

「頑張れ優里」

 なんだか無性に応援したくなった。






 丁度グランドには瑞希しかいなかった。息を整えて瑞希に近付く。

「みず……」

「写真、撮って」

「は?」

 私が話しかける前に瑞希が振り返った。唐突な言葉に私の頭は固まる。

「聞こえなかった?」

「いや、聞こえたけど……急に何?」

「撮んの、撮んないの?」

「と、撮ります」

 どうなってんの?

 予想外のことに頭が上手く働かない。とにかく私は瑞希の写真を撮ることになった。

「どこ撮れば良いの?」

「宮永の言う通りに動く」

「えっと……じゃあ素振りして」




 誰もいないグランドに、バットを振る音が響く。

「撮んないの?」

「と、撮るってば……」

 慌ててカメラを構える私。正直撮れる自信がない。

「いつまで、素振りさせんだよ……っ!」

 文句を言いつつも瑞希が素振りを止めることはしなかった。

「だっ、て……」

「そんな恐いか? 俺だけ写真が撮れないって」

「清水が言ったの?」

「俺が無理矢理聞いた」

 バットを放り投げて瑞希は私に近寄る。後退りそうになった私の腕をつかんだ。

「やっぱ悔しいじゃん。好きなヤツに頼られないって」

「……へ?」

 顔を上げようとしたら目の前が暗くなった。頭に触れた生暖かい感触に瑞希の帽子だとわかった。

「絶対動くなよ。そのまま答えろ」

「う、うん……」

 視界が暗いのは不安になる。手探りで瑞希のユニフォームの裾を握った。

「清水と二人でサボったとき、俺ケッコー苛ついた」

 何とも言えずにただ黙る。

「頼るなら俺を頼ってほしいんだけど」

「み、瑞希のことだったから……」

 仕方ないじゃん。そう言いたかった。

「写真のだけどさ、俺嬉しいんだよね」

「は?」

「自分だけ特別だと思えたから」

「俺は宮永が好きだよ」

「えっと、あの」

「宮永は?」

「……好き、です」

 帽子被ってて良かった。

 頬の紅潮は止まらずにどんどん熱を上げていく。

「よし」

 帽子を取られて、ほんのり顔の赤い瑞希が見えた。

「試合の写真、楽しみにしてるからな」

 偉そうな微笑み。いつもの瑞希だ。

「……私、絶対撮るから」

 私はデジカメをきつく握り締めた。

「当たり前だ馬鹿」

「ばっ……!?」






 沸き上がる歓声や吹奏楽部の演奏が球場を占めている。

 私と優里は試合の見やすい席をもらって並んで座っていた。

「あ、清水君!」

 優里の声とともに、我が校の野球部メンバーがマウンドに現れた。

「見といてねっ、優里ちゃーん!」

 ラブオーラ全開で優里に手を振る清水。

 見てて暑苦しい。

「あ……」

 清水を叱ってる瑞希が目に入った。カメラを握る手が強まる。

 新しく一眼レフのカメラを買った。貯金残高をゼロにしても、新しい気持ちにしたかった。

 偶然か必然か、瑞希と目が合う。無表情からふっと笑みを溢し口ぱくで一言。

『撮れよ』

 私は小さく頷きながら、ボールを必死に追い掛ける彼をカメラで追った。







いかがでしたか?

久々の短編は新鮮ですね、書いてて楽しかったです。


紗月はちゃんと瑞希の写真を撮れるようになってるはずです。青春っていいですねー。


ここまで読んでくださりありがとうございました。また機会があれば他の小説も読んでみてください。


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