何の冗談?-5-
何かが違う、と。
一片の疑いも孕まずに、さも当然と自分を見つめてくるその真っ直ぐな瞳に、和歌は違和感を覚える。
何かが違う。明らかに、何かが間違っている。
そう確信するのに、それが何であるのか、まだ形にならない。それが、和歌にとってはとても気持ちが悪い。
胸の中に湧いた黒い小さなもやは、しかし、優雅な歩みで尚且つチーター並みの素早さで階段を登ってきたウィリウスに手を取られて、綺麗に霧散してしまった。
「カズ」
「な……何……?」
あまりにも澄んだ瞳に至近距離から見つけられて、カズこと和歌は不覚にもドキドキしてしまう。
「頼む」
生まれながらにして王子だった彼は、きっと、誰からも跪かれる存在だったのだろう。だからこそ、彼が紡ぐその言葉には、確かな力があった。
「我が民を、護ってくれ」
心からのものである事はわかった。真っ直ぐに見つめてくるウィリウスの瞳は、こんなにも真剣で、何処までも澄んでいる。
それでも。
「………」
和歌は、すっと彼の手から逃れた。一歩、後ろに下がる。
「カズ?」
神話の国の王の訝しげな視線から逃げるように、和歌は視線を逸らす。もう一歩下がろうとして、けれど、階段にぶつかって叶わなかった。
些かバランスを崩すも、そこは空手全国大会準優勝の意地。転ぶという無様な姿は見せずに済んだ。背後を振り返って階段を確かめてから、一段、上る。
「あたしは……」
――あたしに、何ができるというの?
「あたしは、ただの女子高生だよ」
顔を上げると、さっきまで見上げていたウィリウスの瞳が、目の前にあった。
「皆を護れるのは、君だよ」
逃げているという自覚はあった。でも、間違っているとは思わない。
だから、笑顔を向けた先で、落胆の表情を見せた彼の理由がわからなかった。
「陛下」
落ちた沈黙を消すように、頭上から降ってくる声があった。
「乙女殿は、まだ混乱されているご様子。城下町を、ご案内してさしあげては如何でしょう?」
貫禄たっぷりの老臣の声は、広い空間にも朗々と響き渡る。
その声を聞いた若き王は、ぱっと顔を輝かせた。
「そうだな。それがいい」
「………ッ!」
入口に立っているラフォットを見ていたら、また手を握られた。
「カズ。参ろう」
「……は?」
何がどうなっているのか、理解する前にウィリアスは階段を上っていく。手を握られたままの和歌も当然のように進むしかなくて、半ば引きずられるようにして祭場を出た。扉を出ていく時、振り返った先で老獪の臣下のウィンクを貰ったことは内緒だ。
意外な茶目っけ振りを発揮してくれたラフォットの見送りも知らずに、ウィリウスは先へ先へと進んでいく。綺麗なアーチを描く窓から差し込んでくる光は薄暗い廊下に幾つもの幾何学模様を描いて、それが先まで続いていく光景は感覚を狂わせる。無駄のない美が無限に続いていくかのような錯覚の中で、繋いだ手から伝わる温もりだけが鮮やかだった。
まるで、万華鏡のようだ。