何の冗談?-3-
「今、この世界は未だかつてない戦火に見舞われようとしている」
そんな和歌の心情など知る由もないフィルチチェ二世は、緩やかに大理石の階段を降りていく音を伴いながら話を続ける。
「父王が崩御なされてから二年、我が国は醜い王位争いをしてきた。私が王座に就くまで、醜い争いが繰り広げられたのだ。城下町も常に戦場になり、無関係の民の血も、どれ程流されたことか」
和歌からは彼の広い背中しか見えない。それでも、聞こえてくるその声音から、深い悔恨の念は読み取れた。
「内戦によって、我が国は疲弊した。他国との貿易によって、何よりも民の力強き心によって、活気は取り戻してきてはいるが、列強に並ぶ程の兵力は、我が国にはない。本格的な戦争が始まれば、私は、民を護ることが出来ぬ」
それでも、テレビのニュースを見ている感覚とそう変わらないのは、己の身で戦場を体験していないからなのだろう。
だから、硬く拳を握り締めるその背に、和歌が掛けられる言葉は、なかった。
「私は……カズ?」
ただ、己を傷付けても何にもならない事はわかる。
階段を下り、彼の隣に立った和歌は彼の固く握り締められた拳をそっと包み込んだ。驚いたように見下ろしてきた銀色の瞳を正面から見つめて、笑ってみせる。
「自分で自分を傷付けるのは感心しない」