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王様のプロポーズ大作戦*1

その日は、朝から城下町が異様な雰囲気に包まれていた。


王家の紋章が入った荷馬車が何台も列なり、町中を通り過ぎて行く。


そのあまりの多さに何事かと、町民達は窓から顔を出して馬車の行く先を見つめた。


――その先は町外れのある一軒家。

花学者見習いの少女が住む、小さなこじんまりとした可愛らしい家だった。


「どうしたのイリア、今日は来るのが早いね…………………って、なにこれ!?」


フィーナは白衣の袖を捲りながら幼馴染みの少年を出迎え、家の前に広がる光景に目を見開いた。


「おはようフィーナ、今日は君に贈り物を持ってきたんだ。」


「おはよう………え、これ全部っ?」


「ああ、王都の最高級品ばかりの宝石とドレスだよ。」


その言葉にフィーナは少年の後ろに並ぶ馬車達を見やる。

目算しただけでも二十台は軽く超すであろうそれらに、少女はぽかんと口をあけた。


「………………なんで?」


「別に、贈りたかったから持ってきただけだ。それとフィーナ、結婚しよう。」


「……………えっ?」


さらっと言われた言葉に少女は驚きながら、そんな流れだったかと首を傾げた。


「だから、結婚しよう。」


しかし対する少年はこれが当たり前の流れだというように自信まんまんの顔をしている。


なんだか自分がおかしいのかと思ってきてしまうけど、たぶん自分は間違ってないはず。


「……イリア、私それは断ったでしょう。将来は花学者になるから――」


「いいや、俺は諦めないことにしたんだ。絶対に、フィーナを振り向かせてみせるよ。」


強くどこか熱っぽい眼差しを向けられて、フィーナはきょとんと少年を見返す。


「何言ってるの」


「そういうことだ!」


ふん!これでどうだ、とイリアは鼻を鳴らしながら胸を張った。


この列なった馬車に積んでるものは、本当に貴族達が欲しがるような最高級なものばかりである。


国王の力をこんな風に使ってしまったのは初めてだけど……、すべてはフィーナにプロポーズを受けてもらう為なのだ。


「あっ、宝石とかをあげる変わりに結婚しろとか、脅迫してるわけじゃ無いからな!」


「それは分かってるけど……あのねイリア、こんなにいっぱい貰っても、家に入りきらないよ。」


「あ………そっか?」


そういえばと見れば、この家は少女が一人で住めるほどの大きさである。

部屋も、居間の他には研究部屋と寝室があるだけの、本当に小さいけれど少女にとってはぴったりの家。


「それに宝石もドレスも、私いらないよ。」


そしてついでに聞こえてきた言葉に、イリアは一瞬置いて反応した。


「……………えっ」


「あ!町の女の子達はそういうの好きって言ってたから、その子達にあげたら?」


「えっ?違う!これはフィーナの為に集めたもので、」


「うん、いらないよ。」


「…………………っ!?」


興味が無いとは思ってたけど、こんなにあっさりと突っぱねられるとは思っていなかった。


まったく受け取ってくれる様子が無いので、そのまま馬車たちを撤収させる。

……本気でもう町の者にでも配ってしまおうかとちらっと考えたが、そんなわけにもいかないのである。


何てことだ、プロポーズには宝石を贈るものじゃなかったのか。

威厳たっぷりの王様であるはずの少年は、計画の失敗にがっくりとうなだれた。


「どうしたの急に?今まであんなの持ってきたことなかったのに。」


家に通されたイリアは、昨日も、というか長年毎日飲んでる不思議色のお茶をすすりながら、同じくお茶を飲んでいる少女を眉をしかめながら見た。


「……今のままじゃいけないみたいだからな。」


「え、なにが?」


「別に。…今日は何の研究をしてたんだ?」


さりげなく話をそらせば、フィーナはぱっと顔を輝かせて席を立った。

おや、と思ってると、研究部屋から何か大きなビンを持ってきた。


「見て!見てイリア!これ……よいしょ。」


どん、とテーブルに置かれたそれを見ると、ふわりといい香りが部屋に漂う。


「これは?」


「あのね、昨日ラーマの花薬に失敗しちゃったでしょう?それにテトから貰った花材を加えてやり直したら、なんだかいい感じになってるの!」


「……………ふうん、」


テト。それは昨日この家にやって来た、ひょろりとした青年の名前だったか。

面白くない。まったく面白くない。


そういえば、さりげなくフィーナに好意を寄せているとか言ってた気がする。


青年は氷山の一角に過ぎないてあろう。

きっと研究所にはうじゃうじゃと、少女に想いを寄せる奴らがいるかもしれない。


「本当に、なんで今まで余裕こいてたんだ俺…………。」


「どうしたのイリア?なんかこの頃変だよ。」


首を傾げながら問われて、それは絶対おまえのせいだ!と怒鳴りたくなった。

けれど少女の小さな手のひらが少年の頬を撫でたのに気付いて、びくりと固まる。


「何か落ち込む事があった?」


「…………。」


少年が何も言わないのを肯定ととったのか、少女は近くに生けてあった花を一輪取って、少年の目の前に掲げた。


「………?」


「そういう時はね、お花を見てたら暗い気分なんかなくなっちゃうのよ。ほら、すっごくいい香り。」


「……それはフィーナの場合だけじゃないか?」


少年が困ったように苦笑すると、幸せそうな顔をしていた少女が再び首を傾げる。


「元気、出なかった?」


ちょっと悲しそうに眉を下げたので、イリアは少し慌てて訂正する。


「いや、フィーナの幸せそうな顔を見たら、元気でたよ。ありがとう。」


今度は少年が少女の頭を撫でてやる。

少年の言葉にきょとんとしていたフィーナは、意味が分かっていなかったようだけど、暫くすると嬉しそうに微笑んだ。


「よかった!やっぱりお花はみんなを幸せにするのね。」


やっぱり分かっていないけど、少女が嬉しそうだからそのままにしておく。


「フィーナの頭は花のことでいっぱいだなあ……。」


自分で言った言葉にぐさりと刺されながら、遠い目をしていると、少年はぴたりとある考えが思い浮かんできた。


「ーーーーーーあ、」


そうか、そうだ、この手があったか。


「………………分かった!」


「えっ?」


何でもっと早くに思い付かなかったんだろう!

こんなに分かりやすい簡単な答えだったのに!


「フィーナ、ごめん、今日は帰る!」


「え?え?イリア、どうしちゃったの?」


心底不思議そうな顔をするフィーナの前でぐびぐびっとお茶を飲み干すと、ごちそうさま!と言って少女の家を飛び出した。


「ユリウス!ユリウス!」


どこか近くに潜んでいるであろう護衛兼侍従の男の名前を呼ぶと、木の陰からすっと細長い青年が出てきた。


「本日はもう宜しいのですか、陛下。いつもはもっとゆっくりと仕事をおサボりになられますのに……。」


さらりと嫌味を言われたけれど、この男はいつもこうなので、今はそんなのにかまってる暇はない。


「ユリウス、それより馬を用意してくれ。今から至急アーランタの花畑に行くぞ!」


「………はい?」


不思議そうな、というかまったく意味が分からないぞ何言ってんだこいつという目で見てくる侍従に、イリアは心から楽しそうに声を上げた。


「フィーナにありったけの、花束をプレゼントするんだ!」




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