月夜の求婚*
月夜に浮かぶ満月。
侍女達に用意させた美しい花々。
サンヒューダ王国の若き王であるイリア・トキ・サンヒューダは、王宮にある四阿で、想い人の少女と一緒にいた。
フィーナ・カミュ。
幼馴染みのその少女は今、綺麗なの銀色の髪を月光に照らされながら、一生懸命本を読んでいる。
白い頬に長い睫毛の陰が落ちていて、誘うような小さな桃色の唇は、何が楽しいのか、口角が上がっている。
彼女が楽しいのならそれでいい、が、今夜だけはそうじゃない。
この美しい花に囲まれた四阿は、今日の為に作らせたのだ。
花が好きで満月の夜が好きだという彼女に、一世一代であろうたった一言を言う為に。
「フィーナ。」
名前を呼ぶと、本を読んでいたにも関わらず、ぱっと顔をあげてくれた。
吸い込まれそうな藍色の瞳をこちらに向けることが出来て、小さな優越感を感じる。
「なあに?イリア。」
微笑みながら首を傾げる姿がとても愛らし……じゃなくて、今は伝えなければならないことがあるのだった。
見とれている場合じゃない。
ぶんぶんと首をふって、きりっと気を引き締める。
少年が真剣な眼差しを向けていることに気づいたらしい少女は、真面目な話なのだろうかと背筋を伸ばした。
「フィーナ。」
「はい。」
「…………………。」
心臓がばくばくなっている。
いつも大勢の国民の前で演説をしたり、公務でいろんな国のえらい奴等と話したり、そんな時でさえ冷静である自分のはずなのに。
たった一人のこの少女に、たった一言を言おうとするだけでこんなになってしまうなんて……。
俺はまだまだだと思い直しながら、それと同時にこれは惚れた弱味なのだと自覚する少年は、不思議そうに見つめてくる少女に気づき、気をとりなおす。
「………フィーナ。」
もう言うしかない。
ここで言わなかったら男じゃないぞ。
そう言い聞かせて、拳をぎゅっと握る。
そしてこの舞台を用意してくれた部下たちに感謝しながら、少年は口を開いた―――。
「好きだ。結婚してくれ。」