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~助立部英雄伝~  作者: 銀蝶 ことぶき 黒猫
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第三話 依頼解決!



とまぁ、色々あった次の日。



まだ登校時刻には若干早い早朝、新聞部室には助立部の三人が集まっていた。

新聞部恒例の会議に出欠するためである。



要沢大学付属高校の新聞部は、毎週一回校内新聞を発行している。

内容的にはかなりポピュラーなものから、マニアックな話まで様々だが、新聞を読まない高校・大学生が多い現代において、この学校は購読量がかなり高い。



まぁ残念ながら、助立部の三人は一度も読んだことはなかったが。




「ったく!!お手伝いさせてくれって言って来たくせに読んだことないってんのはどういう了見よ!?」



その事実を知った部長の水無林檎は怒りを露にしたが、副部長である『由梨ぽん大魔王』(←後に優太が命名)星波由梨は大して気にしてないようであった。



「別に、読む読まないは人それぞれですから気になさらずに。一応バックナンバーは全部残しているので読み返したかったらご自由におとりください」



と、新聞の保管室まで教えてくれた。



どうやら、野宮陰刻の言う通りであるようだ。


“利用するだけ利用する”という性悪女ではないらしい。


まだ断定はできないが、部長の林檎よりも遥か親切だ。



「むっ……由梨が言うなら別にいいけど……」



口を尖らせて林檎はパイプ椅子に座り込む。



新聞部の会議室は、部室内に大きいスペースをとり、白いテーブルにパイプ椅子といった、至ってシンプルな会議室である。まぁ、高校の部活にしてはやはり本格的だ。



「では、会議を始めたいと思います―――――海也くん」


由梨の鋭い声音に何処から飛び出したのか海也がホワイトボードをガラガラと運んできた。



「では、始めましょう」


「あ、あの~?」



恐る恐る春が手をあげる。

「何でしょうか、桜井さん」


「会議をするのは良く分かりました。でも、何を話し合えば……」


「あぁ、その事ですか」


「桜井春!そんなの簡単な話よ!!」


林檎が勢い良く立ち上がる。


「今日の会議は明後日出す新聞の担当決めよ!一面と二面、三面とかね―――――まぁあんたらは四面ぐらいがちょうどt「いえ、皆さんには二面を担当してもらいます」



「は、はぁ!?」


「What!!?」



林檎と海也がピッタリと同じタイミングで驚いた。勿論助立部の三人には何の事だか分からない。



「こんなド素人に二面なん「貴女だって素人でしょう?」


「で、でもやっぱり無理なんじゃ……「海也くんに言えることじゃないでしょう」



「「うっ………」」



ことごとく由梨に斬られる元気っ子二人組。



由梨ぽん大魔王の渾名は、あながち間違っていない。


「素人といえど、四隅を任せるとは言いません。この人数の少なさを埋めるだけではなくきちんとした仕事をしていただきます。


それぐらいやっていただかないと―――――『宣伝』ではなく大見出しに恥をかかせますよ」





「……手厳しいな」



晶がボツりと呟くと由梨が反応してきた。



「当然です。この新聞部は伝統がありますから私達の代で手の抜いたことはできません」




では、定例会議を始めましょう―――――――――――とこうして、早朝の会議は、始まったのである。




###




大学の講堂にて。





昨日と似た黒い服に身を包む男、桜井哀人は右脇に教科書やノートを持ち込み、講堂の中をゆったりとした歩きで歩いていた。


今日は珍しく周りの五月蝿い連中がいない。


一体何故あの連中が一人もいないのか哀人には不思議だったが、特に気にする話でもないと判断し、一人で行動していた。



彼桜井哀人は、本人は全く気付いていないが、絶世の美貌を持った男である。


母親も父親も一般的な顔立ちだったのだが、彼の顔立ちだけは別人のように美しかった。


その為――――――時たまこんなことが起きる。




「あ、あの~……」



振り返ると制服を着た女子高生が一人立っていた。


いや一人ではない、少し離れた所に友人だろうか三人の女子高生が耳打ちをし合いつつ好奇な目でこちらを見つめている。



「何だ」


哀人が尋ねると、女子高生はピクリと体を動かした。

そして頬を赤くする。



「そ、その……えっ……と………」



言葉を詰まらせながら、ソワソワと体を唸らせる女子高生。


哀人は静かに溜め息をつき、白く細い指をそっと女子高生の髪に添えた。


キャーと黄色い声が遠くから聞こえる。



「な、………ななな」



「すまないが――――――――」



哀人は、ポツリと呟く。



「私は忙しい。用があるならまた今度にしてくれ」


「えっ」



女子高生がまた何かを言い始める前に、哀人は手を離し、さっさとその場から離れていった。


ポカーンとアホみたいな口を開けた女子高生達を残して。




―――――このように、彼の美貌に惚れた女子高生がよく彼に告白してくるのだ。



大学付属といっても、高校生も自由に大学を行き来できるせいで、桜井哀人ファン倶楽部などと、訳の分からない倶楽部がある程、彼の人気は高い。


哀人にとっては、迷惑以外の何物でもないのだが。





「お~い、哀人~」


何処からか声が聞こえ、哀人は嫌そうに眉を寄せ振り向いた。


今日はよく人に呼び止められる。とそんな事を思いつつ、走ってくる『友人』と呼びたくない知人を出迎えた。



「何のようだ、空気」


「朝から酷い一言やっぱりきたぜ☆」



いつものうざいテンポに苛々し、哀人は冷たく睨んだ後、小さく溜め息をついた。




何度も言うが、この男顔は整っているのに服装がよれよれ過ぎてただの放浪者にしか成り下がってしまっている残念な男である。



もう少しきちんとした服装で来れば間違いなく女子にモテるのであろう。


詳しいことはしらないが、前陰刻に聞いた時、



“あー、モテんじゃね?”


などと言っていたから、事実そうなのであろうと思う。




「そういやさっき見てたぜぇ?女子高生から告られんなんて、モテんなぁお前」


ケッケッケと空が意地汚く笑う。



「五月蝿い。こちらは色々迷惑してるんだ。そして今も迷惑している」



「現在進行形かよ、おい」


と突っ込まれたが、気にせず哀人は話を変えた。



「………それにしても何のようだ、空。私は数分後に講義を受けなければならない。用件があるなら手短に言え」



「おぉ、怖っ!


ま、用件って程じゃねぇんだけど………言いてぇことがあってさぁ」



「……まさかお前まで告白してくるじゃないだろうな」



「おいおい、俺にそんな趣味はねぇよ」



哀人の冗談(正直何年も付き合っているか、人の表情を読むのが得意な人でなければ冗談か本気か判断がつきにくい)に苦笑を浮かべた空は、哀人の肩に右腕を置き、歩き始めた。どうやら人に聞かれたくない話らしい。




「空。」


「あ゛?んだよ」


「何故移動しなければならんのだ」


「あー、後でハ○ジのジジイにでも聞いとけ」



空は足早に視界のよい大学の広間から抜け、建物の間にある淀んだ空間へと移動していく。


肩に腕を乗せられた哀人は空に合わせなければならなく、面倒臭そうに歩幅を合わせた。




「―――で、なんだ?誘拐罪で訴えていいのか?」



「ば~か、これが誘拐に入るかよ」



今は、やっと離れてくれた空が哀人の正面に立っていた。

その姿を冷然な目付きで見つめる。



「誘拐とかじゃなくてな……ま、聞きてぇことがあってさ」


「聞きたいこと?」



空からこんなに改まって質問されるのは珍しい。



―――大体質問の内容は予想できるが。



「そう、聞きたいこと」



何だか哀人はこの状況に焦れったくなって語尾を強くして聞き返した。



「なら早く言え」――と。


早く講義に行かなければ、と何故か焦ってくる。







「………お前」





空の声がゆったりと哀人に響いていく。



「まだ『我慢』してんのか」



「―――…………」



沈黙が流れる。




きっと空は誰かに頼まれて自分に聞きに来たのだろうと思う。

この話を空はあまり持ち出さないからだ。



祐輝辺りか―――たぬきじじい共か―――



誰だ、とは判断がつきにくい。



まぁ、判断する必要もないが。




「大丈夫だ」



哀人は、自分に言い聞かせるように、答え始めた。




「私は大丈夫だ。大して心配事もな「嘘ついたら、泥棒の始まり」




哀人がバッと顔を上げ、空を凝視した。

目の前にいる彼は―――――口元を歪めて、



笑っていた。




「止めろよな嘘なんてよ」



哀人は思った。



この男は、確かに笑ってはいるが――心の底では怒っているのだと。


その怒りが、自分に向けられているのだと。



哀人はまた溜め息をついた。


これ以上、空と一緒にいればたがが外れる、自分の隠している思いが溢れでてしまう。


気分が悪くなってきた。


ダメだ。



こんな所で、倒れてはダメだ。




そうなれば、また――――――。





「……すまない空。講義に遅れてしまう。話はまた今度にしてくれ」



そう吐き捨てると哀人は足早にその場を立ち去った。

惨めにその場から立ち去った。






残された空は、がしがしと頭を掻いて、微苦笑を浮かべる。




「はぁー、やっぱダメだな………俺」




悔しさに溢れた言葉は、春の心地よい風と共に塵となって消えていった。








###




朝の会議から数時間後。



四時限目の授業を終え、晶はお弁当の包みを片手に持ち屋上へやってきた。

両隣にはそれぞれ友人の明と武将が各々のお弁当を持って歩いている。



「あぁー、今日の現社意味分かったかぁ?晶~。あんなの覚えろって言われたって覚えらんねーよ俺」



「そうか?明なら大丈夫だと思うぞ?」


「いやいや、女子のアド覚えろってんなら覚えられんだけどさ~」



「…………」



基本、この三人の会話はというと殆ど明と晶が喋っていることが多い。


ヤクザの息子である彼武将の口数が少ないからである。


しかし、武将はきちんと二人の会話を聞いているので口数が少なくとも、会話にはきちんと混ざっている。




「ホント何かこの学校って授業のスピードの落差が激しいよな。

現国やけに早いくせして理科超遅ぇし」



「現社はやけに予習が多いしな」



「………予習……明日……現社がある……」



「おっ、じゃあ予習やんないとな?後で出るとこ教えるよ」



「……ありがとう……」



別段よく目立つという訳ではないが、彼らの仲はクラスメート以外にも知れ渡っている有名な三人組だ。



大体目にすると、三人で一緒の姿が目撃されたりするからだが最大の理由は、やはり三人の容姿である。



三人が三人共、違うタイプだが顔立ちが整っており、隣の高校にもファンがいる………という噂が立っている程だ。



その事にまったく気付いていない鈍感三人は、まばらに集まる屋上の一番端まで歩いていきお弁当を広げ始めた。




「今日も相変わらずスゲーなタケの弁当は………晶、お前少なすぎ」



晶のお弁当を覗きつつ、突っ込む明。


晶のお弁当は、小学生低学年が持ち歩いていそうな両脇を止めるタイプ(しかも小さい)である。


一方の武将は、花見に使われる数人用の玉手箱のようなお弁当にぎっしりとおかずというおかずが詰め込められていた。


同じ高校生としては明らかに量が違う。


武将の食事量は、超人並なのだ。




「俺にしては多いほうだぞ。武将が多いだけだ」




「大丈夫。流石に俺でも落差ぐらい分かってるから」


と言いつつも、どうにも突っ込まずにはいられない明。


今時、こんな少食の高校生なんて滅多にいない。



「そういや、初仕事って新聞部なんだっけ?どんな依頼されたんだ?」



「あぁ。“来週に出る新聞の二面に飾るネタを出せ”だそうだ。

おかしなネタを出したら大見出しに恥をかかせると脅された」



「うわっ!!厳しいなぁ、新聞部。………んでネタ決まったのか??」



「それが………」



晶がおかずの少ないお弁当から、綺麗に足が跳ねたタコさんウインナーを箸でつまみ、口に運ぶ。





「全く見つからない」




「…………ダメじゃんそれ」




###



そして、更に数時間たった放課後。



終礼が終わり、春はクラスメートと共に掃除場所に向かった。

この学校は基本終礼が終わってから掃除が始まる。


四月の掃除場所は玄関だ。


「あの~」



「…………あ、はい?」


掃除に気をとられていた春は、急に声をかけられたため一拍置いてから返事をしてしまった。


間抜けな声だ。


羞恥で春は顔を赤らませる。



「す、すいません!驚かしちゃって……」


「いえいえ、大丈夫ですよ――――それで私に何かようですか?」



春に声をかけた女子高生は、肩までの髪にウェーブがかかったどちらかというと大人しいめな印象を持つ少女だった。


春を目の前にして、キョロキョロと視線を動かしどうも落ち着く様子がない。


何だろうかと不安に思ったが、どうやら春に頼み事があるらしい。


その証拠に大人し目な少女はやっとこう切り出した。


「……はい……実は今日助立部の皆さんに依頼を頼みたくて……」


「…依頼、ですか……」



ふぅむと春は手を顎に添える。



依頼がくるのは喜ばしい事だが、何せ今進行中の依頼は新聞部の依頼だ。


あの副部長のことを考えると、この少女の依頼と同時進行でやれるほど簡単ではないはずである。


だが、卑下に扱えば助立部の信用に関わってくるだろう。



数秒の間に春は脳を活発に動かし、悩みに悩んで結論を出した。



「……あの…」



「―――では一応話だけでも聞きましょうか。では助立部の部室へ」



掃除中だがさっさと話をつけてしまおう。

すぐ終わるのであれば先に一人で片付けておけばいい。


―――と春は思ったのだが………



「いえ、掃除中ですけどここで話させてください」



「……えっ?」


春はまた間抜けな声を大きく出してしまった。





###



帰りの掃除を終わらせた晶はさっさと身支度を整え、教室を勢い良く飛び出した。


今からでは遅いかもしれないが、新聞のネタを探さなければならないのである。


大体大幅な内容は決まっているが、これがさて二面を飾る記事になるのかと聞かれれば、どうもしっくりこない。


一先ず晶は助立部部室へ向かっていく。





「天宿くん」




向かっている最中で、自分の名前が呼び止められた。

はや歩きで歩いている足を止め、振り向く。



そこには桜井春が息を荒くしながら今まさに走ってやってきた……という風貌で立っていた。


何か自分に用があるらしい。


どうした?と一応聞いてみる。



「えぇ、実は新聞部の依頼の件なのですが……」


「ああ。今俺もそれで困っていた所だ。考えてはいるが、コレだと思えるようなネタが見つからない」



「思い付くだけ充分だと思いますよ?」


春がニコリと笑いつつ、そう言ってきた。

そんなもんなのだろうか、と晶は首をかしげる。



「まぁそれでご相談があるんです。



一か八かの大勝負―――――もしかしたら依頼解決出来ないかもしれない、賭け事なんですけど……やりますか?」



春の言葉は比喩的表現が多く、何の話しなのかまったく理解できない。


どうやら本人も説明するのが難しいらしく手振りを交えながら、説明してくる。


「あ、あの……つまりはですね。―――………スイマセン………あまり他言無用するなと言われて、しかも時間もないので、詳しくはお話できないんです……………」




まるで意味が分からないが、とりあえずこの場で会話するのも時間が勿体無いと(簡単には言えばそうなのだろうが)いうことなのだろう。



「因みに聞くが―――もし桜井が言う『一か八かの大勝負』に勝ったら、依頼は解決するんだな?」



春がキョトンとした表情を見せる。



「だっ、大丈夫なんですか?」


「あぁ。


もう時間がない―――――――無理だったら、先輩達に聞けばいいだろう」


「………それだけは困りますよ、天宿くん」


「…………嫌だったら、勝てばいい」




###








助立部の部室にて。



「タバスコアメがひと~つタバスコアメがふた~つ」


タバスコアメを数えてる少年Yがいた。





「お~い、少年優太何現実逃避してんだ」


そこに溜め息をつく少年の双子であり兄である颯太。


「だぁてぇ~、はるるん全然来ないし、しょーさは由梨ポン大魔王に拐われちゃうし~僕何すればいいのさぁ~」



「しょうがねぇだろ、お前が全然ネタ持ってこなくてあの鬼副部長がキレたんだから」



「………うっ……」



そしてまた優太は顔を机に俯せる。


颯太はそんな状態の優太の頭をポンポンと叩いてやった。



今何故この状況に陥ってしまったのか。

それは数十分間の間にこんな出来事があったからである。




―――――



数十分前。



「どうしてくださるんですか?」



由梨の冷然とした声がヒヤリと冷たく響く。


目の前に座っている優太はびくびくと体を震わせ顔は青ざめている。

隣にいる晶は涼しい顔だが。



「私が設けた時間は、学校の部活が終わる6時。現在の時間は―――何時ですか、海也くん?」



「はっ―――はい!!」



部屋の隅っこで凍えている空気に耐えきれなかった二名(林檎と海也)の内、海也が怯えつつ勢いをつけて返事をした。



「……ご、5時……半です………」



「ありがとうございます」


「ゆわぁ……うぇるか……む」



あれほど昨日流暢な発音で喋っていたのに今日はこの様だ。


それもこれも、由梨が発する冷気のせいである。



「―――どうするんですか?私は言いましたよね、二面に入るようなネタを持ってきてくれ、と」



ギロリと由梨が睨んでくる。




今絶対氷点下に入ったと、優太は核心した。



「なのに貴方逹助立部は記事も出来ていない所か……ネタさえも出来ていない。どう落とし前をつけてくださります?」



震える子犬となった優太は顔色を伺うように晶の顔を横から見つめる。


晶はじっと由梨を見るだけで、答えようとはしない。


「―――無言で通すつもりですか?」



由梨が問い掛けてくる。


晶は―――――――




「今、桜井が『一か八かの大勝負』をしてるんだ」




突然奇妙な事を言い出した。


震える子犬となった優太及び怯える二匹(林檎と海也)は、何をこの状況で言うんだ!と今にも叫びそうな目付きを一斉に晶に向ける。


それもそうだ。


今の由梨は完全に怒っているのだから。



「ほう『一か八かの大勝負』ですか………それは一体どんなものですか?」



語尾がだんだんと強くなっているような気がする―――いや、絶対にそうだ。


「俺にも一体何の事なのかはさっぱり分からない。ただ一つ言える事はといえば――――命に関わるネタになるはずだ」



「えっ、い、命!!?」



命とはそれはまた大層な。

由梨は眉を潜める。



「命を扱う記事は確かに人気があります。この時期になるとそういう記事はよく見かけます。



ですが、それが何故『一か八かの大勝負』なのでしょうか。私には不思議でなりません」



「………ならば、信じてくれないか?」



――――――――




「とか言ったら、あの人鬼副部長につれていかれたんだっけな?結構やるねぇ、その天宿晶センパイってのは」



「やるも何もないよ。ネタ考えなかった僕も悪いけど、あんな事まで言わなくてもいいのに………」



「腹立つか?」



「―――え?何言ってんの?失颯太よりかは断然ましだし」



「お前ホント腹立つな」



###




「――………産まれ、ましたね」


ある小屋の中で。



ふんと土の匂いが入り交じった臭いが鼻につく。


目の前には、苦しみから解放され産まれた我が子を支える母親ウサギが、そしてその母親に擦り寄る赤ん坊のウサギが、幸せを噛み締めるようにうずくまっていた。



神秘的な光景だった。



母親から産まれ落ちる赤ん坊ウサギの姿が。



「……良かったですね……」




春の隣には掃除の時間に出会った飼育委員会の女子高生が、ポロポロと泣き出している。

嬉しくて嬉しくて堪らないようだ。



「ありがとうございます、桜井さん――貴女が居なかったら、どうなっていたことやら………!!」




動物についての予備知識を持っていた春は、この女子高生の依頼を受けることにしたのだ。



すぐに出産しそうな母親ウサギを見守っていて欲しい――という依頼を。


勿論、担当の先生からの注意点を聞き、すぐ何か起きたら先生を呼ぶ――という条件のもとで、春は出産に立ち会ったのである。


女子高生は、ここ二、三日全く微動だにしないこの母親ウサギを心配して獣医に相談した所、出産することが判明したようだ。


急な話だったので、とりあえずストレスを感じさせないよういつもいた小屋で出産を迎えるよう診断され、女子高生は徹夜で母親ウサギを見守ったらしい。


ストレスを感じさせない為に、友人にさえ喋らなかったそうだから、彼女のウサギに対する愛が身に染みてよく分かる。



とにかく、彼女はこの二、三日をウサギの母子と戦ってきたのだ。



春は疲れきった女子高生に微笑む。


「おめでとうございます」



そして、春は出産した母親ウサギにも笑いかける。



ぜったいに



そのこをみすてちゃだめですからね?




―――――私の母親のように。




###



「これがあいつらがギリギリで書き上げた記事か?


―――感動だねぇ、ウサギの出産を出すとは」



次の週になり。



学校により配布、または貼り出された新聞は話題をよんでいた。



一面には全クラスのそれぞれの担当の先生の配置、または各部長の発表で、二面には―――――



『ウサギのハナちゃん、遂に念願の母親に』


という見出しに、嬉しそうな飼育委員会の女子高生とウサギを撮った写真が掲載されていた。


ウサギのハナちゃんといえば、高校生も大学生にも大人気な学園のアイドルである。


大学の理事長が出張先で見つけたらしく、とても可愛らしい。



だが、そんな学園のアイドルが出産していたなんて、情報通な陰刻他メンバーさえ知らなかった。



―――どうやら、この依頼は成功したらしい。



記事をよく読んでみると、桜井春が女子高生からの依頼で出産に立ち会い、最後まで彼女達を見守り続けた―――と格好よくさり気無く助立部の宣伝をしていた。


多分この内容は最城優太が考えたのだろう。


そして一文字も間違える事なく書き上げたのは、天宿晶だ。



一体何時にこの記事が出来上がったのか、後で聞いてみようと陰刻は思った。



「ホンマ良かったなぁ。これで助立部の評判も上がってくるやろ」



和服姿の武人がニコニコと微笑む。



「アホか。もし産まれずにそのまま死んだら、記事になんか出来なかっただろ。一か八かじゃんかよ、超アブねー」



苦々しい表情の空が、ポツリと呟く。


その言葉を聞き、陰刻はこう言い返した。



「まぁ、別にいいんじゃね?

もしこれが偶然の産物だろーと依頼をきっちりやり終えたのは真実だしよ………

まっ、運も実力のうちってな」



「―――………陰刻」


「あ?祐輝どうした?」



「最後の一文。――……春ちゃんが考えたよな、分かるか?」



最後の、一文。



四人は新聞を片手に、二面を飾った記事の最後の一文を目で追った。



そこには――――



###




「大成功だったね!!おめでとう~!!!」


優太が、両手を広げ喜ぶ。


あの後、急いで書き上げた原稿を由梨や林檎達に見せた所、一発OKをとり、晴れて依頼は解決できた。

新聞部が知らなかった情報を見つけ出したのだ。


文句を言うやつはどこにもいないであろう。



「も凄くスッキリした!!一時はどうなるかと思ったけど……何とかなってホント良かったね!!」



「でも私の我儘通してもらっちゃって……それでギリギリまで待たせちゃってすいませんでした二人共」


「かまやしないさ。桜井が頑張らなかったら、依頼はダメだったかもしれないしな」


「はるるんのお陰だよ~、ありがとね、はるるん♪」


今の助立部部室には安堵感に包まれていた。

やはりあの由梨のプレッシャーには流石に耐えきるのが大変だったのであろう。


まぁ、その由梨には『今回はお疲れ様でした』と笑顔を最後に見せてもらったのだが。



「今度はどんな部活がくるか楽しみですねぇ……」


「次は絶対運動系がいいな~!」


「その時はゆーくん頑張ってくださいね」



「任せなさい☆」




笑い声が響いていく―――――その中に、ある人物がやってくる。




黒の彼、桜井哀人がやってくる。



ガチャリと音がして、三人は一斉に振り向いた。


そこには、冷厳な目付きで三人を見詰める桜井哀人が立っていた。



ガタンッと勢いよく立ち上がる。



「何か―――ようですか」



春の声は震えていて、表情は固くなっていた。



「依頼を成功させたと聞いたから、ここへ来たんだ。――――春、お前に言わなくてはならないことがあった」




晶と優太が、二人近寄って、後ろへ下がっていく。


この兄妹―――やはり、何かがおかしい。



「……言いたい……こと……?




記事読みましたか、兄上」



「―――読んだ。


『母親になったハナちゃんには、子を大事にして欲しい。たとえ、その子が小さな生き物だったとしても』だろう?」



「読んだのに………読んだのに何で分からないんですかっ貴方は!!!?」



哀人は、スゥーと目を細めた。



何か悲しそうな絶望にさらされた目付きで、


しかし全く光のないその目で



桜井春を見つめた。




「そうか。







………悪かった」




パタンと閉じられたドアを春は見つめている。


優太が春を呼ぶと、春は笑顔で振り返ってきた。



「さぁ!お菓子食べに行きましょう」



嘘に固められた笑顔に、晶と優太にはどうすることも出来なかった。





皆さん、お久し振りです(*´∇`)



ちょっと遅れましたが……やっと完成しました!!

新聞部の話なのでギャグが書きたかったのですが……最後の最後にシリアスになってしまいました(^o^;)




いつものごとく低い文章力ですいません!!


桜井兄妹のシリアスがやけに書きたくて書いてしまった…という(笑)


ウサギの話はノートに書いてあったので、それを参考にしました♪

ウサギは好きなのでウサギの赤ちゃんに会ってみたいですね!



次はギャグの化身ですので……ぜひ、楽しみにしていてくださいね♪





ではでは、短いですがここまでで!


またお会いしましょ~う(*^□^*)

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