第一話 知名度を、上げようじゃないか、ホトトギス。
自己紹介をした次の日、
助立部部室にて
(き、気まずい……)
無言の空気に耐えられなくなった毒舌少女春は向かい側に座るヘッドホン兼寝癖青年晶に対し、話し掛けた。
「あ、天宿君ってクラス一緒でしたね。改めてよろしくです」
「………」
「ヘッドホン付けてる人、天宿君しかB組に居なかったから直ぐに分かりましたよ。まさか部活が一緒になるとは……」
「………」
みごとにスルーだった。こっちを見てるようで、見てないらしい。それを見て春はため息をついた。
この空気になる何分か前、放課後になり一応顔出しはしとこうと助立部部室を覗きに来て見れば、晶が先に来ていて、このまま帰るのは失礼かな?と思い彼の向かい側に座ったまでは良かったのだが……
(あぁ、声掛けが無駄に……)
時計のカチカチと秒針を打つ音だけが聞こえる。
「桜井……」
「はいっ!!!!?」
急に声をかけられて思わず声が裏返ってしまった春にハテナを浮かべながら晶は淡々と口を開いた。
「先生が今日はやって欲しい事があるから無断で帰るなって言ってたぞ」
「あ、そうなんですか?でもだいぶ時間ロスしてますよね。全く柏餅でも10パック奢って貰おうかな」
「10パックは多いだろう。あ、あともう一つ」
「何でしょうか?」
「さっき何言ってたんだ?音楽聴いてて少ししか聞き取れなかった」
晶の言葉に「聞こえてたんですか」とぼやき春は乾いた笑い声を漏らしながら、彼のペースに若干なっている事に気付き、気を取り直すにも一回この部屋を出ることを決めた。
「いいですよ。別にたいしたこと言ってませんし…私、御手洗いに行…」
バンッ
春は席を立った時と、ドアが勢いよく開いたのは同時だった。
「スイマッセーン!!!宅急便でっす!ぼくを匿ってぇっ」
ドアを壊さんばかりで開けた主は、アホ毛がぴょんっと立つ長身の青年。最城 優太であった。
優太は廊下を訝しげに見回してふう、と息を吐き出してドアを閉めた。
「あー良かった、西公が部活来いとか僕は帰宅部志望だっての。でも、上手く撒けたようでハッピーエンドだね!西公もコレで諦めてくれるっしょ」
思ってる事を全て口に出してしまってる優太は、二人の視線に気付き振り向いた。
「あー、スイマセンお取り込み中でした?」
「違いますよ?断じて違いますから」
再び椅子に腰を下ろしてキッパリ言う春は少し陰りを見せたが優太は触れないでおいた。
「ってか、昨日会って自己紹介した、しょーさとはるるんじゃんっ」
今更か、と晶は思ったが口には出さなかった。
「というか、その呼び名私達のあだ名ですか?」
春が尋ねると優太は頷いた。
「はるるんは気分的に春ンルンッて感じだし、しよーさはねえ」そういうと、晶を無理矢理立たせ頭の上で手を垂直に動かした。
「僕より、若干背が低いから晶と組み合わせてしょーさ(小さ)!!!!」
得意気に話すこの後輩はもう少し礼儀を習うべきだと思う春であるが晶も晶であだ名を微塵も気にしてないようで、こっちにも問題がある、と春はおもった。
「もう座っていいか?」
「あ、ごめんちょ。でも助立部の二人が何故に?僕帰宅部がいいから西公から逃げて来たんだけど」
「西公って西先生のことですか?」
春の疑問に首を縦にブンブン振る
西公、もとい西先生は助立部の顧問だ。
チャームポイントは太い眉毛と筋肉マッチョでいつもジャージを着ている体育教師のような先生である。西先生は助立部の顧問だが、同時に柔道部の顧問でもある。
「今、西先生を待っているところなんですよ?」
「へー?そうなんだ西公とここで待ち合わせして…」
「………?」
「……………」
春の一言に一気に青ざめる優太。
「え、んじゃここって…………助立部部室!?」
((言うまで気付いてなかったんだ))
春と晶は無言で後輩を見つめていた
「やばっこのまま見つかったら、僕まるで自分から入りたい。みたいな感じになるんじゃ……」
「俺達がいる時点で気付けるだろ……」と晶が突っ込みを入れたが、入れられた本人には聞こえてはいなかった。
「でも、廊下から逃げようとも西公と鉢合わせたら意味ないし、だから廊下以外かー」
ブツブツと逃げる案を一人言っていたその時、さほど遠くない所から怒鳴り声が聞こえてきた。
「最城ぉぉおおおっ」
「うえっ西公の声だ」
ビクッと身体を震わせ優太は急いで窓の鍵を開け窓枠に片足を乗せる
「ちょ、優太君!?飛び降りるき?」
優太の行動に驚き、春は止めようとした、が
「大丈夫大丈夫、それに僕の事はゆーくんでいいよー。皆からそう呼ばれてるしっ」ドガッッッ
さっきより強くドアが開いた音がする。
「最城ぉぉおおおっ!!見つけたぞぉぉおおおっ!!」
「西公、残念。僕は帰るからね!」
「優太く……ゆーくん!ここ3階だから!」
そして、優太は華麗に飛び降りた。
「じゃね、はるるん。しょーさとお幸せにーっ」
捨て台詞と共に窓から消えた。
「クソッ最城め、無駄に運動神経がいいな…
「ていうか先生、3階から飛び降りて大丈夫なんですか?運動神経うんぬんじゃないんじゃ…」
「最城が助立部に入る理由は、体力があり、スポーツ系全般出来るからだ。しかも中学の頃はバスケ部ではエースで細身のくせに異常な奴だからな。」
春は微妙に納得出来なかったが西先生が慌ててないのを見ると大丈夫そうだ。と無理矢理結論づけた。
「あれ、でも部員揃わなくなっちゃいましたね。あと柏餅15パック奢って下さい西先生?」
「大丈夫だ。切り札を呼んである。なんで、奢らなきゃいけないんだ?桜井」
「5パック増えてるしな…」
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校庭にて
華麗に着地した優太は西先生の追撃がないか、注意深く帰る準備に取り掛かっていた。
前もってを隠しておいたバックを肩に下げ、全速力で校門の所まで走り、優太はクスリと勝ち誇った笑みを漏らす。
「僕の勝ちだね。西公!」
学校の敷地外に足を踏みこもうとした時。優太の前に見知った人物が腕を組んでいる事に気が付き、歩みを止めた。
「そうは行かねぇってお約束だぜ。お前の企み、打ち砕かせてもらおうか!」
「な、なにぃっ!!」
いきなり中二っぽいセリフを浴びせられたにも関わらず、優太は慣れてると言わんばかりにオーバーリアクションで返答する。
「フッ。まずこれを見ろ。」
その人物はシュババッと右手に何かの箱を見せだした!!………と言うところまでは格好よく(?)ノリに乗ってたぶん、肝心の箱の絵と名前を手で丁度隠してしまってるのを見て、拍子抜けした優太である。その反応に気分を害したその人は口を尖らせた。
「反応ウッス」
「いやー…反応つっても、ね?それ何よ、失踪太」
優太曰く失踪太と呼ばれた青年は箱をヒラヒラさせ、ニタリと何かを企む彼独特の笑みを見せた。
「あえてその名前に関しては言わない。優太お前はヤッパリ甘いな!!良くこの箱を見てみろいっ」
「さっき見えてなかったんだよ!」
優太のツッコミにも気にせず失踪太は突き出すように箱のパッケージを見せる。そして、優太は目を見開いた。
「何故、これを…!!僕しか知らなかったはずなのに!」
「フッ。気付かないと思ったのか!!お前の行動パターンなんてお見通しなんだよっ、…さぁ観念して俺の言うとおりにするんだ!優太」
「な、なんてこった…」
「ほら、行くぞー」と失踪太はガックリ膝を着く優太の襟首をガシッと掴み、そのままずるずると引きずり歩く。
「自分で歩けるって!つかどこに行くの失踪太!!」
じたばたしながら、優太は言う。
「まだ言うか。バカヤロー。おい、俺の手中にお前の大切なもん入ってるんだからな。これから向かうのは助立部だ」
「失踪しろ!命賭けて逃げた僕に謝って失踪しろ!」
「えぇいまだ言うか!このアポ太!!!お前一回飛び降りるの失敗しとけ!!」
……蛇足だが、一部この光景を見ていた生徒はなんてノリがいい奴等なんだろうか、と若干引い………微笑ましく、ツッコミを我慢していたらしかった。
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その頃の助立部部室。
『どのように、この部の知名度を上げれば良いか。』と春はホワイトボードにボード用の赤ペンで書いてため息をついた。
「天宿君、西先生って馬鹿なんですか?無茶ぶりを押しつける馬鹿なんですか?」
「……でも、それがこの助立部の最初の活動でもあるって言ってたぞ。」
「それもそうですけど…」
春はそれでも納得なんぞできなかった。
ーー回想ーー
優太が3階から飛び降りた後のこと。西先生はガッハッハと笑いながら言った。
「さて、この助立部ってぶっちゃけ知名度が地よりも低いんだな、これが。何しろ去年の活動が酷すぎて生徒に覚えられてないんだ。二、三年には知ってる奴はいるが全員じゃないという残念な結果だし、一年に関しては知らない奴…いや、噂だけが浸透しているらしい。しかもあまりいい噂ではない。ということでっ、しっかりと知名度を明日中に上げられているように!!」
「………は?」
「理事長の命令でな。上げられなかったら成績がダウンするらしいからなー!じゃあな、頑張れよ!助立部」
「えっ、先生………」
バタン……
ーーー
「無茶ぶりというか無茶苦茶ですよ。明日中なんて」
「………何とかなるもんじゃまずないな。」
二人はそのまま同時に黙り込んだ。
(というか、あのペテン兄上は去年何やってたんだか間抜け兄上が。私達の代でこんなことさせるなんて、あの馬鹿兄上がっ)
と苛々しながらも、仕方なく知名度向上の案を張り巡らせていた時だった。
コンコンッ
ドアをノックする音が聞こえた。
「スミマツセーン。助立部員を拾ってきたんですけどー」
「あ、はい。今開けます。」
西先生が言っていた“切り札”が優太を連れてきたのだろうか。春がドアを開けると予想が的中し、襟首を正す優太がこちらを見た。
「フフ、ゆー君捕まったの?」
と声を掛けるとハハハと髪を弄りながら「不本意ながら捕まっちゃいましたよ。」とどこか諦めている笑みだっが、春は触れなかった。それより3階から飛び降りた優太をどう捕獲したのか気になった。
「そういえばゆー君を捕まえた西先生の“切り札”と言うのは?居ないようですが…」
「切り札?…あぁ、西公の差し金だったんだ。」
「さっき声がしたような気がするんですけど」
「あぁ、そこに居るよ」
指を差した方を見ると欠伸をしながらこっちを見て軽く頭を下げる男子生徒がいた。春も軽く頭を下げた。男子生徒は前髪を後ろで止めているにも関わらず、残った前髪は目に掛かり緑渕の眼鏡を頭にかけている。そして目の下にクマがある。何というか個性的な格好をしていた。
「んじゃ、俺は帰るなー。優太、先輩に失礼のないように」
「うっさいやい」
そして(第一印象が)奇抜な男子生徒は去っていく。さて、と優太は春に元気よく振り向いた。
「んで、さっきの奴に帰宅部と変わらないっていわれたんだけど、と言うかそうだよね?そうだよ「違います」
「決してはるるんが巻き添え食らわそうとかないよね?」
「何の事でしょうか?」
キッパリと笑顔で春が言った後しばし静寂が訪れた。
・・・・・・。
「さ、ゆー君真面目に部活動しましょうね?」
「あははは……ですよねー」
そして助立部部室にやっと部員が揃ってたのである。優太は適当な椅子に座り顎に手をおき、春はホワイトボードの隣のパイプ椅子に座った。晶はと言うと
「………バッハ」
何かを呟きながら机に突っ伏して寝ていた。
「さぁ、話し合いと行きますか!」
春が言うのと同時に『知名度向上計画』の話し合いが始まった。
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次の日。六時限目
理事長による日比野の全校集会が体育館で行われていた。
「やぁ愛しの生徒諸君。今日はいい日だね!空は青いし風は穏やかだし………あれ、そう言えばなんで空は青いんだろう。地球が青いのは海があるからだよな?…空に海はあるわけないからなぁ。ってことは宇宙って青いのかな?どう思う真。あ、いる訳がないね。僕としたこ「てめえ日々野ぉ!毎回毎回集会で馬鹿な発言すんなっていってんだろうがぁ!!!」
毎回毎回平和ボケ話を聞く生徒達は辛抱強く聞いている。そして毎回体育館のドアを蹴やぶり現われてくれる救世主、真という生徒が日比野の平和ボケにツッコミを入れてくれるのだ。
「お前、集会ぐらいちゃんとしろ!!」
「僕はちゃんとしてるさ。ほら、こんなに有意義な話をしてるじゃないか」
「ど・こ・が有意義な話だ!!ただの馬鹿がする話じゃねぇか」
皆もうこの展開は慣れているので、即興コントぐらいしか認識がない。先生すら見物しているだけだ。そしてこのあと大学生達が乱入し、ゴッチャメッチャになり集会強制終了。というのが要沢付属大学高校の全校集会である……が今回は違った。
「待って下さい。日比野理事長」
バッと体育館のステージに登って来たのは西先生だ。
「元くんかい?(西先生の下の名は元次郎)」
「少しいいですか?例の部に関して…」
「あぁ、別にいいけど…君。その格好…」
「こいつ(日比野)より馬鹿がいた…」
「………!?」
真と日比野と全校生徒、先生が西先生の姿を見て固まった……。何故なら頭にネコミミカチューシャ、ネコの着ぐるみ(頭は被ってない)で、そして『助立部マスコット。ニシニャン』と書かれているたすきをさげている。
「ゴ、ゴホンッ!この格好に関しては触れないでください。助立部を紹介さしてもらえないでしょうか」
「どうぞどうぞ。元く…ニシニャン」
「ニシニャンいわんでくださいっ」
「ニシニャン少し黙りなさい?マスコットはマスコットらしくニャーニャー騒いでればいいですよ?」
そこに春がステージ裏から顔を出した。
「だからニシニャンと…」
「ニシニャン公。名前僕が考えてあげたんだから感謝して欲しいくらいだし」
続けて優太
「あぁもう、あ……天宿ぉお前は…」
「すいません、そこ邪魔です。…マスコットニシニャン先生」
最後に晶がぼそりとそんな事を言ったら、西先生は体育座りしブツブツ言ってたが気にも止めず、マイクの前に三人が立った。何事か、騒つく生徒に助立部三人は余裕そうにニコリと笑い
「「どうも助立部です」」
と高々と宣言した。
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放課後。
助立部三人は部室で最初から何故か常備されていたポットとコップとお茶の葉の粉を使ってお茶をノンビリ飲んでいた。
「いっや〜大成功だったね〜」
「そうだね」
「そうだな」
優太が上機嫌にそういうと二人も同意した。
「何だかんだで全て皆受け入れてくれて僕、よかったなーって思うよ。多分噂が本物になっただけみたいだし、しかもニシニャンも受け入れられちゃってホントノリが皆いいよね〜」
「そうですねー、まさか深夜のテンションでマスコット作ろうって言ったら、あの奇抜な…イエイエ独特なスタイルのスタイルの人からアドバイス貰ったりして」
「はるるんそれ直されてないよー?」
「……西先生はそしてあの格好で、変質者とか変態マスコットとかいわれ初めてるけどな」
晶が淡々と紛れもない事実を言うと、二人は「だよねー」とはもった。だけだった
「あの奇抜な方は私と同じ人種みたいですよね」
「まぁ、僕の兄ちゃんだしねぇ」
「ですよね〜素敵だと思います…………へっ?」
驚いた春の声が響いた。
「ゆー君に奇抜な兄上がいたんですね。ちょっと驚きました」
「驚く所そこ!?」
「優太、俺も多少驚いた。」
「しょーさまでっ」と口を尖らせ投げ遣り気味に優太は言う。
「ハイハイ、最城 颯太くんは奇抜なすぐに失踪して欲しいランク一位の双子の兄ちゃんだよっ」
「え、あんな奇抜な兄上さんと同い年何ですか?」
「颯と一緒にしないでっ」
春の率直な意見に涙目になってツッコミをする優太であった。
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あるやり取り。
「颯太、ちょっといいか?」
「何だよ西公」
「お前には、最城弟を助立部に入らせてくれて、感謝してる。」
「おぅ、めいいっぱい敬えや」
「だがな。マスコット案を出さなくても善かったんじゃないか?」
「ん?別にいいじゃん。評判は良いみたいだぞ。ニシニャン?」
「お前なぁ。こっちはあぁ、ガラガラと体育会系熱血キャラが崩れていく音を聞いたぞ……」
「気のせい気のせい。俺はあいつらに事が楽しくなるように仕向けただけだし、楽しいほうが世の中ハッピーに生きられる。ニシニャンもそう思うだろ?俺はお祭り大好き何だよ。だから助立部という名のお祭りを楽しみたいんだよ。だから優太の秘蔵チョコを餌にしたり、ニシニャンたるマスコットを創った訳。とゆうことだから、たまーに助立部にお邪魔して、祭りを盛大にしてやるよ」
「颯太…………」
「何?」
「俺をなんだと思ってるんだ?一応先生なんだが…」
「変態マスコットニシニャン『先生』」
………………………。颯太が去った後西先生が目から大量の汗を流したことは、言うまでもない。
俺のターン☆……こんにちは。ことぶきです!! 記念すべき第一話。プロローグの時よりも、キャラが少なく、銀蝶よるは読みやすい……ハズ…!!さて、お次は黒猫さんどすえ?皆気張って行コーナ!!