プロローグ
要沢大学付属高校
ある街のある場所に一見普通な、けれど変わった学校が存在する。
『変わった学校』というのだから、校則やら行事やらが他の学校にはない珍しさでもあるのかな?……と想像する人も多いだろう。
だが、違う。
そんな甘っちょろいものでは、ない。
この要沢大学付属高校は、学校のトップに座る人間が変わっているのだ。
トップである―――――――――高校の理事長と大学の理事長が。
桜井春は、高校の始業式が終わり、新しいクラスのHRを無事に過ごした後、何故かあの問題の変人理事長に呼ばれていた。
春としては、即急に自宅に帰りたかったのだが、理事長に呼ばれてしまったのでは帰りたくとも帰れない。
理事長の『権力』という大人の事情が学校にはあるからだ。
「失礼します。桜井春です」
理事長室のドアを二回ノックする。
すると、「どうぞ」と部屋の奥から声が聞こえ、春は高級感溢れる重いドアをゆっくりと開き始めた。
「やぁ、春ちゃん♪来てもらって嬉しいよ―――――――さっ、座って座って」
春を出迎えてくれたのは、要沢大学付属高校の理事長 日比野聡である。
若干茶色が混ざった黒い髪が見事にあちらこちら跳ねている天然パーマで、顔付きは、ぱっちりとした大きい瞳が特徴の、超ド級の童顔持つ男だ。
最早年齢は外身では判断付きにくい。
本人曰く
『心が真っ白でキレイな人は童顔になるのさ♪』と言う事らしい。
その話を聞いた時、春は物凄く苛々したのを覚えている。
「呼び出してから来るの遅いから、心配しちゃったよ。
流石に迷子じゃなかったよね?」
行儀良く座る春は、ニコリと微笑みつつ答える。
「何をおっしゃいますか、日比野理事長。
私は貴方の呼び出しに嫌々ながら、始業式の会場から遠く離れた理事長室まで来たんですよ?
始業式は寝坊した誰かさんのせいで倍以上の時間がかかってしまいましたし。返してください、私の二時間を」
「アハハ♪別にいいだろう、長い人生のたった二時間だ」
「私にとっては、二時間と今この時間さえ取り戻したい気分です」
春の毒舌に日比野は笑いながら、言葉をかえす。
自分の毒舌があまり効果が無いことに春はショックを覚えたが、気にせず話を続けた。
「………日比野理事長、無駄な話はここまでにして本題に移させていただきます。
始業式当日にしかも学校放送ではなくわざわざ担任の先生を通して、私を呼んだのは何故ですか?
貴方は生徒を呼ぶ際、いつも学校放送を勝手に使っているのに…………………やっと自分の愚かさに気づきましたか?」
「いつも思うけど、その毒舌どうにか直らないの?
あんまり冷たくすると男子から嫌われるよ?
ほら、最近いっぱいいるでしょ、………なんだっけ…………」
視線を上に向け、顎に手を当て悩んでいる日比野に春は声の調子を一定に保ったまま答えてあげる。
「草食男子のことですか?」
「そうそう。その草食男子に」
「私は嫌いな人間にしか毒を吐かないので、ご安心を」
「遠回しに俺のこと嫌いって言ってるよね?」
「言いましたが、何か?」
色々と皮肉を込めた笑顔で春は問い返す。
日比野は春に皮肉を込めた笑顔ではなく、純粋な笑みを口元に浮かべ、こう言ってきた。
「君には俺だけじゃない、この学校に在籍する全ての教師が期待してるんだよ?
君が去年入学してきた時言ったじゃないか」
その日比野の言葉に、春は学校に入学してきたばかりの頃を思い出す。
確かあの時、春は初めて理事長に声をかけられ、そして唐突に何の前触れもなくこう言われた。
“「君には期待してるよ」”
――――――――――と。
はっきり言って、意味が分からなかった。
何故入学仕立ての自分に期待をする、などと言ってくるのだろうと。
まぁ、単なるお世辞だと深くは考えなかったのだが―――――――――――――――。
「期待。
ただ個人の生徒に教師全員が期待するなんて…………過剰しすぎではありませんか?
教師は生徒全員に平等な期待を持つべきです」
一抹の沈黙が流れ、日比野の表情は一切変わらずに、目だけがただ鋭く尖っていく。
ピクリと春の肩が反応した。
それは――――恐怖にも似た感情が春の心から生まれたからかもしれない。
日比野は、じっと春を見据えてる。
じっと、春を値踏みするように。
「…………どうして?君は天才の妹でしょ?
桜井春。
一般入試の結果ではトップの成績で合格。
その後も、ベスト3には毎回順位入り。
運動能力も一般女子の平均を悠々と越えている。
オマケに、君の兄はこの世に二人とていないだろうと評される『天才』じゃないか。
………………期待しない教師なんかいないと思うけど?」
「………そうですね。
確かに期待する方も多いかもしれません」
噛み締めるように春は言葉を紡ぐ。
腹が立った――――――――今、何故兄の話をしなければならないのだ、と。
やり場のない怒りがふつふつと沸き上がってくる。
私は、私なのに。
また、兄か―――――?
唇を噛み締め、春は何とか気持ちを落ち着かせようと試みる。
駄目だ、こんな所で怒ってはいけない。
どんなに屈辱だったとしても―――――――あんな、思いをするのは、ごめんなんだ。
「…………………どうしたの?春ちゃん?」
唐突に耳へ響いてきた声に、春は俯いていた顔を上げた。
真正面には、童顔の日比野が興味津々な目付きで春を見つめていた。
「そんな悲しそうな顔をしちゃって……………大丈夫かい?気分悪そうだよ?」
春はいつの間にか溢れていた汗をそっと拭いて、崩れていた体勢を整え直す。
知ってるくせに………とは言わなかった。
また面倒な事になれば自分の関わって欲しくない部分を根掘り葉掘り聞き出してくると思ったからだ。
「………大丈夫です。
気にしないでください。
それよりもさっさと用件を教えてください。
――――帰っちゃいますよ?」
春の言葉に、日比野はそれもそうだね、と何事もなかったかのように振る舞ってきた。
本当に、腹が立つ男だ。
「今日呼び出したのは他でもないんだ。優秀な君が“助立部”に正式入部する、そのことを教えようと思ってね」
「すっ…………“助立部”?」
###
要沢大学付属高校 第二棟三階
要沢大学付属高校と要沢大学は同じ敷地内に建設されている。
もちろん大学側の施設と高校側の施設は若干離れた場所にそれぞれ建てられているのだが、同じ敷地内のせいか要沢大学の大学生が簡単に高校の校舎に入って来れる、という何とも友好的な状況に置かれている。
本来なら、高校の校舎には大学生が入って来れないように対策を練るのが普通の学校の対応だが、ここの学校は一切対策を行っていない。
ましてや大学の理事長さえ「勝手に入ってもいいんじゃな~い?問題起こさなければ」と発言し、たまに高校の校舎に出没しているというのだから、高校の校舎に大学生がいる光景が自然に当たり前となっていった。
広々とした長い廊下を一定のリズムで歩きつつ、春は小さく溜め息を漏らしていた。
第一棟の一階にある理事長室からまた歩いてここまでくるのに、だいぶ体力を使った気がしてならない。
いやいつもなら、この距離を歩くぐらい平気なのだが、精神的に疲れていると疲労する度合いが高くなるらしい。
歩くスピードを保てている自分に拍手を送りたい気分だった。
今春が向かっている教室は、ある部の部室である。
三階の隅っこに部室を構えるその部活はこの要沢大学付属高校の名物で有名な部活であった。
春も噂だけだが、その部活の話を聞いたことがある。
実際の所、何をやっているのか、部員数は何人で、誰が入っているのか、まったく知らない。
唯一知っている事と言えば――――――――――――――部活のある噂だけだった。
『助立部に入るのは、教師全員が選んで部員を決める。自分から入ることは許されない。助立部の部員は内申書など成績に関して高く評価がつけられる』
不公平の極みだと思ったが、まさか―――――――――――――
まさか、自分がその訳の分からない部活に選ばれるなんて。
「・・・・・何だか、今年は最悪な一年間になりそうな予感ですね・・・・」
はぁ、と春はまた溜め息をついた。
数分か経ち、やっと辿り着いた謎の『助立部』の部室前に春はコクリと唾を飲んだ。
理事長に助立部に入れと言われ(命令され)、嫌だと拒んでみたが、この助立部の加入は強制的らしく、最後には「じゃあ、学校辞める?」などと脅された挙句、無理矢理契約書にサインを書かされた後では、部活に入る喜びなどまったく感じない。
が、まったく謎な部活だけに好奇心があるのも否定できない。
意外とミステリー関係は好きなほうである。
謎の部活、響きが面白くて良いじゃないか?
しかし、好奇心より上回っているのは、『選考』だけという閉鎖的な考えと選ばれた者だけが得をえるという不公平さに対する不満である。
『助立部』を知りたい気持ちはあるが自分がその一員になるのは気が引ける。
辞めてしまえるのであれば、辞めさせていただこう。
そう決心し、春はドアノブに手をあて「あー、ちょっとストップ」
「―――――!!?」
急に声をかけられ、春は勢い良く顔を上げた。
すると目の前には、大学生らしき男性が困ったように助立部の部室から顔を覗かせている。
「悪いんだけどさ、ちょっと入るの待っててくんない?今この部屋の中片付けしてて・・・・今の今まで男子だけだったからちょっと汚いんだよ。
それとも入るか?」
はぁ・・と春は間の抜けた声で答える。
突然現れた大学生にどう返事を返せばいいか、迷ってしまう。
春自身何回か大学生を見かけたことはあるが声をかけたこともないので、(ナンパの際は無視を突き通した)大学生と面と向けて話すのは初めてであるからだ。
別に緊張はしないが、さてどうするか・・・。
ああ、ちなみに
この高校基本服装は自由だが、ある程度制服に似た服装で通わなければならず、ほぼ全員の生徒が各々好きな制服を着込んでいる。
たまに私服姿の人間がウロチョロと校内で歩いているのを見かけるが、それ必ず大学生だ。
学校で高校生と大学生を見分けるコツとして生徒全員が知っている。
「まぁ、別にここで待っててもいいけどさ。後掃除機かけるだけだし」
とぼやく大学生は、大きく欠伸を掻いて部室から出てきた。
一瞬だけ大学生とドアの間で部室の中が見れたが、少し灰色の埃が床に散らばっていてゴミ袋が山積みになっていた。
片付けをしていたというのは、本当のことらしい。
「あの・・・・貴方は、大学生の方ですよね?助立部の部員さんですか?」
「ん?あぁ、まぁね。・・・・んじゃ、アンタがやっぱり桜井春?」
自分の名前が唐突に大学生の口から飛び出してびっくりしたが、顔には出さぬよう笑みを浮かべつつ答える。
「ええ、なぜ私の名を?」
クスリと、大学生が微笑んでくる。
「後輩ができるって、理事長から聞いたのもそうだけど・・・・・・知り合いがね、アンタのこと良く知ってる奴だからさ」
「知り合い?」
「そう、知り合い」
誰だろうか、春を良く知っている人間というのは――――――――――――――?
心当たりがまったくない。
「―――――――おっ、丁度来たぜ。
グットタイミングじゃねぇか、哀ちゃん」
あ、哀・・・ちゃん・・?
またもや勢い良く春は後ろを振り向く。
こんなに勢いをつけて体を動かしていたら、体が痛くなりそうだ。
春は、少し眉を潜め、前方をじっと見つめる。
あぁ、
あの人だ。
「お久し振りですね、・・・・・・兄上」
フッと哀しげに微笑んだ春に、現れた男は冷厳な目付きで春を眺め驚いた表情も見せず、研ぎ澄まされた低い声音で呟いた。
「あぁ、久し振りだな。――――――――――春」
###
「だぁー!クソッ、大人しく着いてこいよガキんちょ1号がっ!!」
「うっさい、馬鹿空之助が!!!
今日チョコレートパイン味の発売日なの!早く喰わせに行かしてよぉ!」
「いやだね!こっちは能面理事長(←日比野理事長のコト)にお前を引っ張ってこいって脅されたんたぜ!?
俺の人生、こんな事で潰されちゃ困るんだよ!」
第二棟の二階に響く怒鳴り声の応酬。
廊下の中央で必死になってアホ毛がぴょんと跳ねた男を引っ張ろうと男の両腕を掴む一人の大学生。
その大学生から解放されようと抗うアホ毛の男は、口から涎をだらだらと流して相当腹が減っているように見える。
だが、そんな状況下の男を大学生は決して離そうとはしなかった。
「もうっ、何で僕だけこんな目に遭わなくちゃいけないの!?
助立部って一体なんなんのさっ、何で僕が誘拐されそうになってんのぉ!!」
「うっさいガキんちょ1号。
お前が助立部に入るが決まっちまったモンはしょうがないだろ。
『陰刻』も『哀人』も待ってんだから、さっさと行くぜぇ」
「嫌だ、嫌だ!絶対無理!!」
「だぁー!!ムカつくなお前は!
どうしてそんなにお前は俺の言う事聞いてくんないんだよ!」
「えぇー、空の言うコトなんて誰が聞くのさ」
「“優太”ぁ~、ホントぶっ殺しちゃうよ?っていうか、今すぐ殺していい?」
「うわぁ~痛い気な少年を殺そうとか言ってるぅ~最悪サイテー」
「………………分かった、お前を地獄行きの刑に処する!!!」
「やってみなよ、馬鹿空之助」
大学生はアホ毛の男を無理矢理に引っ張ろうと力を入れて腕を掴んだが、アホ毛の男はまだチョコレートを諦めていないのか動く様子さえ見えない。
そんな状況にフワリと和服姿の男が現れてくる。
黒目に黒髪が映える男は薄い唇をゆったりと動かし笑む。
正に眉目秀麗を体現したような美貌の持ち主だ。
「こらこら、何やっとるんや。二人共
喧嘩はいかんで」
急に登場した和服の男に、騒いでいた二人は口をポカンと開け静かになった。
「おぉ、武人。いつの間に来てたんだよ」
大学生がまだ男の腕を掴んだまま、和服の男に尋ねる。
「ついさっきや。元気な声がよぉ聞こえたからなんや?と思うて来たんやけど…………ホンマ仲ええなぁ」
「まっ、コイツは俺の弟みたいなもんだからなー。
………つうか、お前ちゃんと呼んだのかよ?」
「ん?」
問い返すように和服の男は首をかしげる。
「だから、助立部の後輩!
お前確か、呼ぶんじゃなかったっけ?」
「あぁ、そんなら―――――――――呼んだで。
もう……助立部の部室に行ったんやないやろうか?」
###
そして数十分の時が経ち―――――第二棟の三階にある助立部の部室には、大学生・高校生の計七人の人間が組み立て式のテーブルに並べられたパイプ椅子に行儀良く座っていた。
桜井春は目の前に各々表情を浮かべる大学生の面々を眺めつつ、先程まで経緯を思い浮かべる。
ドアの前で会った人物は、春の二つ上の兄だ。
桜井 哀人
無造作に切った髪に、目の色は黒真珠のように黒く美しい瞳を持つ男。
肌は女性のように白く、顔にいたっては、余すことなく全てが整えられている。
正直、容姿に関して兄に勝てる気がしない。
――――――いや、容姿だけではない。
全てに関して、春は兄に勝てないのだ。
そう、兄桜井哀人という男は『天才』なのである。
「じゃ、まぁやっと集まったことだし、自己紹介でもして貰うか――――――――おい、桜井妹」
「…………ふぇ?」
『桜井妹』と呼ばれた春は、兄との再会と考え事をしていたこともあり、間の抜けた返事を返してしまった。
目の前に色んな表情を浮かべていた大学生達が各々笑い始める。
その表情は温和そうな笑みから大爆笑している奴までいた。(春の兄だけは、硬い表情を保ったままだ)
大爆笑している奴は高校一年生のアホ毛が立った男の子と来た大学生だ。―――――と春は気付くと、額に怒りのマークを浮かべつつ、黒く微笑み返した。
ちなみにこの黒い微笑みというのは後で何倍にもやり返してあげますよ。という意味合いも込めた笑みである。
「……で、一体なんでしょうか?」
「おい、桜井妹。何か笑顔がやけに黒いぞ。おい空、何でそんな爆笑しながら縮こまってんだ。おかしいぞお前」
「こいつがおかしいのは前からだろう、気にするな陰刻」
一人だけ表情を変えていなかった桜井哀人が、隣に座る陰刻にボソッと呟く。
「あぁ、確かにそうだな哀人―――――――おい、変人。さっさと笑うの止めろ」
「おい、俺の扱いが酷くないかいお前達。もう少し優しくしないといじけちゃうぜ☆」
一抹の沈黙が流れた後――――――――『陰刻』と呼ばれる大学生は何事もなかったかのように春に体を向き直した。
「じゃ、桜井妹。自己紹介して。」
「あ、はい。分かりました。」
ちょ、シカトか!?と嘆く声が聞こえたが、春は聞こえてない振りをした。
「桜井春、年は16歳で2年B組です。
今日は理事長に脅されてここに来ました。辞められたら辞めさせていただきますので、よろしくお願いします」
パチパチとまばらに拍手が鳴る。
「最初っから辞めたい宣言も驚いたが、まっ残念ながら辞められないので頑張ってください………よし次。
おい、そこのアホ毛。自己紹介しろ」
「は~い」
ガタッと音を立て、立ち上がった男の子は上着を腰に巻きつけ、白いシャツの袖を捲り、まさに『元気っ子』のような風貌している。
しっかり立ったアホ毛とは違い、アホ毛以外の髪はさらさらとしており両耳を隠すぐらいの長さになっている。
「えーっと・・・・僕の名前は最城優太で~す。年齢は16歳、クラスは1年B組です。
基本こんな感じなので、よろしくお願いしま~す♪」
最後に春に顔を向けて、よろしく~と微笑んで最城優太は席に座った。
悪くない子だ、と春は思う。
部活で大変なのは友人関係だ、というけれど実際春は部活を本格的に入った試しがないので、詳しくは知らない。
でもまぁ、この子なら問題なく過ごせそうだ。
人間の善し悪しぐらい見分けられる目をもっていると自負している。
「元気いいなぁ、アホ毛。空とは大違いだ」
「はぁ!?お前何言っちゃって「当然だよ~先輩ぃ。っていうか、アホ毛って呼ばないで、僕アホみたいに思われるじゃん」
「何でもいいだろ呼び方ぐらい。そこんとこは俺の勝手ってことで」
「チッ。・・・最悪・・・・馬鹿空が」
「どうして俺なんだよっ!!」
―――――――――――――・・・うん。いい子のはずだ。
自分も毒舌な方なので、優太は春より何倍かはマシなはずである。・・・・うん、多分。
「ということで、アホ毛はこの『空』ってヤツと知り合い同士だ。そこんとこヨロシク。
――――――――――――――じゃあ、次だな。・・・・天宿」
「・・・はい」
全員の視線が一斉に一人の少年に注がれる。
少年は全員の視線を浴びているのにも関わらず、呼吸も乱れず表情も崩れない。
ぎこちなく動くと思えば、まったくそうではなく、スムーズに立ち上がり、その双眸をゆっくりと開き始めた。
「―――――天宿晶です。年齢は16。2年B組です。よろしくお願いします」
極めて普通どおりに、先ほどからのテンポとは若干違った自己紹介に拍手が戸惑うようにゆっくりとなり始める。
春はその中でただ一人―――――――――――――拍手をしなかった。いや、できなかった。
天宿晶という少年に一目惚れしたという訳ではない。
ただ、強く強く想ったのだ。
この人は、諦めている。
何に?、と聞かれると、これだ、という断言できない。
人生なのか、運命なのか、とにかく小さい何かを諦めているのではなく、
もっと大きな重大な何かを―――――――――――――彼は、16年という人生の中で諦めた。
「・・・・んま、フツー自己紹介なんてそんなモンだろ。」
陰刻と呼ばれている大学生が呟いて、腕を組んだ。
その声に春は思考から現実に引き戻される。
「春ちゃんと晶ちゃんは同じクラスなんやな、仲良くなってな?二人共」
一人だけ何故か和服姿の男が春と晶に向けて、問いかけてきた。
春はええ、もちろんと何とか上手く答えると、晶は分かりましたと平坦な声音で答える。
「じゃ、自己紹介もここまでにして、助立部の説明でもするか・・・・哀人。説明してやって」
「―――――分かった」
哀人はその双眸を一瞬春に向けた後、晶に負けず劣らない淡々とした声で説明し始めた。
「助立部というのは、特に他の部活からの依頼を解決するのが基本のスタンスだ。多くが雑用係のような仕事だが、たまに試合に出て欲しいなどと無茶を言う部活もある。
試合に出るときは特に問題はない。助立部というのは全ての部活に所属していることになっているからな。
・・・・そのほかはまぁ・・・特にないな。助立部は一般の部活とは違い、特殊な部活だという認識さえ持っていれば後々のことは大丈夫だろう」
「あー、そうそう。
この学校、四クラスしかないくせに部活だけは結構多いからな~。結構依頼はくるぜぇ」
「空ちゃんの言う通りやで。まぁ、最初はいちいち宣伝せなアカンけど・・・・・」
「せ、宣伝?」
「あぁ。そのことは明日色々聞くはめになるから、今日はここまでってことで―――――――――――――おい、アホ毛に天宿。何か質問とかある?」
「特にありませ~ん」
「いえ、ないです」
どうやらコレ以上は質問を受けてもらえないらしい。
それを察したようで、晶も優太も質問をするのを諦めたようだ。
「あっそう。・・・ま、色々カンバレよ。困ったことあったら、呼んでくれ。どうせ俺達その辺でウロチョロしてると思うから」
その言葉を皮切りに、四人の大学生が一斉に立ち上がる。
「えっ、もう帰っちゃうんですか?」
と春が尋ねると、陰刻が最初に会った笑みをもう一度見せ―――――――――こう言った。
「まだ元助立部員が一人いるからさ、ソイツが集まったら改めて自己紹介でも何でもしてやるよ。
・・・・・まずは、仲間同士仲良くなるんだな」
###
人の運命とは、不思議なものだ。
まるで誰かに操られているようで、実際は偶然と偶然が重なり合っている。
この出会いも、彼等の運命なのかも知れない。
六十億人が住むこの地球の中で、ちっぽけな島国で起きた運命は。
この物語は、ある三人の少女から生まれたちっぽけな物語である。
少年少女たちの過酷な運命を描いた、この物語を。
どうか、心を躍らせて、ご覧ください―――――――――――――。
はい、どうだったでしょうか。
プロローグ。
もう私の文章力はホントに・・・・(泣)メンバーに申し訳ない気持ちで一杯です。見てくださった読者の皆様にも申し訳ない気持ちで一杯です。
なんだか、すいませんでした・・・。
ですが、これだけでこの助立部の面白さは分からないと思いますのでぜひぜひ、続きもご覧になってください。
では、短いですが、後書きはここまでにして。
銀蝶