ふたりごと
RADWIMPSの「ふたりごと」から考えた話です。つたない文章ですが最後まで読んでくれたら幸いです
対面に座る彼女はいつも通りだ。
背中にかかる長い黒髪は非常にあでやかで、彼女がコンプレックスというそのつりめはどんなきれいな女優さんと比べたとしても間違いなく一番といえるほど美しい。彼女の耳につけられている一緒に買った同じイヤリングは僕のより輝きを放っている。いつも通りきれいな君だ。
そんな彼女の小さな口が開く。
「私の苗字もうすぐ変わるかも」
彼女の瞳は揺れることなくまっすぐ僕を見つめていた。
彼女の両親とは何度かあったことがある。告白が成功して、彼氏彼女の関係になった次の日である11月23日。日の出を見に行こうと、彼女を家まで迎えに行った1月1日。そのほかにもあと5回は会った。
彼女の両親のことは率直にいい夫婦だと思った。二人とも穏やかそうな性格で、お互いがお互いを大事に思っていることがつたわった、長く連れ添った夫婦だと1回や2回は大きな喧嘩をすることがあるだろう。だが彼女から聞くには一度も自分の前で喧嘩をしたことがなかったという。自分たちもいずれこうなれたらいいな、と笑顔で語る彼女が印象的だった。
「苗字が変わるってことはご両親が離婚するってこと?」
彼女は顔を小さく上下に動かし肯定する。仕事の愚痴や楽しかったことがあるときに話す表情ではないがそのきれいな顔に陰りは見えない。
「父さんと母さん仲良かったはずなんだけね・・・・、詳しくは知らないし、聞くつもりもないけど私が生まれる前のことが原因だってさ。笑えるよね」
「そっか・・・、もう決まったことなの?」
「離婚届は出してないけどほとんど確定かな?おかしいよあの二人、離婚するって言っているのにいつもと何も変わらないんだよ。いつも通り朝起きて、おはようって言って、行ってきますも行ってらっしゃいも欠かさず言って・・・ほんとに意味わかんない」
少し声を荒げる。いつも通りに見えた彼女は感情の処理が追い付かなくてそう見えていたのかもしれない。
「私が生まれる前から離婚することが決まってた?ふざけないでよ!もう愛がなくなってた二人の間に私が生まれたってこと!?ほんとに「ちょっと」
彼女の白い手を握って静止する。
「落ち着いて、一回深呼吸しよう」
彼女の怒りを発散させるより落ち着かせたほうがいいと判断した。
「最初に君のご両親から詳しい話を聞いたほうがいいと思う。決めつけはよくないし、君も自分の両親のこと悪く言いたくないでしょ」
彼女は怒りそうな、泣きそうな表情で僕を見つめた。初めて見る顔に動揺する僕を差し置いて彼女は手を振りほどいて立ち上がる。
「そんなこと言われなくてもわかってるよ。・・・・ごめん、冷静じゃなかった。・・・話がひと段落したらまた伝える」
そう言って鞄を手に取って早々と去っていく。僕は追いかけたい気持ちを必死にこらえてその背中を見つめていた。
ここで引き留めてしまったら彼女の今の心情を読み取れない愚図になり下がってしまう。
君は僕の前では泣いてくれない。ただの強がりか恥じらいなのかもわからない。
僕の胸の中で君が思いっきり泣いてくれたらどんなにうれしいだろう。
「私たち来月離婚することに決めたの」
大好きな母の口から伝えられたのはとても信じられない、冗談にしてはたちが悪く、今日がエイプリルフールだとしても今は午後だ。しかも今日は4月1日ではない。
「ちょ、ちょっとまってよ。なんで?私がいないところで喧嘩したの?急にそんなこと言われても納得できないって・・・」
「すまんな、もうずっと前から・・お前が生まれる前から決まっていることなんだ」
父が発した言葉はもっと信じられず、私の思考を遮るには絶好の口撃だ。
「もっと前から伝えるべきだったんだろうが・・・すまん、どうやってお前に伝えるべきかずっと悩んだままここまで来てしまった」
母と父が私に向かって頭を下げる。
両親から初めてこんな深々と頭を下げられたこと。仲良かったはずの両親が離婚宣言をしたこと。そしてそれがずっと前から決まっていたこと。
耳から入って鼓膜を振動させ脳に伝わっていくはずの情報がうまく認識できず呆然と立ち尽くした。
やっと状況を理解して一番初めに抱いた感情は、苛立ち。
「今欲しいのは謝罪の言葉じゃないよ」
化粧ポーチが入ったバックを手に取り、両親に背を向け玄関に向かう。
今、一番大好きな彼に会うために
後ろからくる雑音は気にならない
彼からラインが来ていた。
『両親と一緒にいるのが気まずいなら泊まりに来て』
彼らしい私の今の気持ちを見透かしたようなメッセージだ。ただの愛情と善意からなる一文が妙に気に障ってしまい、無視することに決めた。今の状態で返事したら彼のことを無駄に傷つけてしまうかもしれない。
今はファミレスで時間をつぶしているが、この後どうするかを全く決めていない。家に帰るのも嫌だし、彼に頼るのは最後の手段にしたい。あぁ、憂鬱だ・・・・・
母と父が結婚してから20年以上たっているのは知っている。その20年間二人はもう愛し合っていなかったってことなんだろうか。私が二人のことをつなぎとめていたのかな?20年間も、私のせいで。
私は二人に祝福されて生まれてきた子供じゃないの?子供は夫婦の愛の結晶じゃないの?
全部嘘だったの?
私は全部嘘だったの?
「嘘なんてないよね・・・そうでしょ。そうだといってよ・・」
今にも消え入りそうな声で、ウルっとした瞳でこうつぶやく。
私の命は二人の愛の証。私の体は全部半分こずつ二人からもらったもの。そう思っても心のダメージは大きい。当分ここから動けそうにもなかった。
こんなにも美しい君を生んでくれた親御さんには僕の一生分の感謝をささげてもまだ足りないぐらいだ。
だから、せめてみんなの不幸が少しでも少なくなる方向に。
彼女が飛び出していったすぐ後に彼女の家、彼女と彼女のご両親が住む家まで来た。二階建てで白を基調とした色合いの家だ。周りの家と比べても一回り大きく裕福な家なのだと一目でわかる。なにも知らない人から見たらあんな立派な家なんだから絶対お金持ちで幸せなんだろうなと思ってしまうだろう。今この家が抱える問題を何も知らないから。
インターフォンを押す。
出てきたのは彼女の将来の姿はこんな感じなのかな、といえるほど彼女に良く似ているご婦人だった。
「突然のご訪問申し訳ありません。少しお話がしたくて家に押しかけました」
僕は今から非常識なことをしようとしている。それを悟られないよう精一杯好青年を演じる。
ご婦人は少し困ったような顔で、
「わかったわ・・、いらっしゃい。中に入っていいわよ」
リビングに通され椅子に座るよう促された。
対面に座るのは彼女の父、右斜めには彼女の母が着席した。
「よく来てくれたね。この前来たのはクリスマスの時だったか」
「はい。その時以来です」
「それで、なんで君一人でここに来たんだい?」
彼女の父はいつも通りの声色で僕にそう尋ねた。優しそうな顔をしている彼に気が緩んでしまいそうになる。顔は彼女に似てないがところどころのしぐさや表情が彼女に良く重なる。
僕は意を決して話し始める
「二人はとても仲が良いと彼女から聞いています。そんなお二人が離婚されると聞きました。彼女は深く傷ついています。彼女のためにも教えてください。何で離婚されるんですか?」
二人は僕の無礼な質問にも穏やかな顔をしていて表情を全く変えなかった。少しだけ気味悪く映ってしまった。
「君はとてもいい子だ・・・娘のことを大事に思ってるのが節々から伝わってくる。君ならどんなことがあっても娘を愛してくれるって確信できる。・・・君になら娘を任せられるよ」
その言葉は素直にとてもうれしかった。だが聞きたいのはそんな当たり前の言葉じゃない。
「なぜですか」
今度は少し威圧的に
大きなため息をつき観念したかのように母親が口を開く
「私があの娘をおなかに抱えていたころの話だわ」
「そのころ私はつわりがひどくて立っているのもつらかった」
「だからこの人はほんとに頑張ってくれたわ、早く仕事を上がってきてくれて私ができてなかった残りの家事をやってくれたり」
「ほんとにありがたかったんだけど、当時の私はそのことをうまくわかっていなかったの」
「暴言をたくさん吐いて、ひどいときは物を投げつけたりしたの」
「それでも私と娘のためにたくさん頑張ってくれてー
父親が手で制する。ここからは俺が話すと
「結論から話そう。当時、身重だった妻を放っておいて、俺は・・・不倫したんだ」
「次の日に、嘘をついて家に帰らなかった俺は、体調が悪い妻が寝込んでいるのを見て罪悪感にかられた」
「あぁ、俺は許されないことをしたんだと」
「妻の体調が安定したときにそのことを告白した」
「その結果が今の状況だよ」
僕は再度問いかけた
「娘さんが成長したら離婚しよう、と決めたってことですか」
「正確には娘を預けられる立派な人が、娘にできたら離婚しようだ」
僕はなんて答えたらいいのか全く分からなかった。今この状況のこの二人になんて言葉をかければいいのか全く思いつかない。別にこの二人の離婚を阻止するつもりで来たわけではない。僕にはこの二人の時間を否定できるほどの人間ではないし、
この積み重なった時間を否定したら彼女さえも否定してしまうような気がしていた。
僕はただ、あなたの命は絶対にこの立派なご両親の愛の証だと、いえるための何かを望んでここに来た。
走る音が廊下から聞こえる。
音の方向をみて一番に目に入ったのは、僕の最愛の人の姿だった。
何も考えたくなくてただ漫然とスマホを眺めていた。家族との写真だ。なぜか、それを見ていると彼のことを思い出す。もうずっと前の、彼の告白の言葉だ
『僕はあなたの当たり前になりたいです。僕にない物ばかり持っている君のすべてが知りたいです。今の僕を作ってくれたのはあなたなんです。・・・だから、その・・・愛しています』
あまりにも重すぎる告白だ。聞いててドン引きしたけど、ほんのちょっとだけうれしかった。
いや、めっちゃうれしかった。じゃなかったら付き合ってないよね。
そこから今に至るまでの7年間ぐらい?ほんとに楽しかった。君と出会えたことは本当に奇跡でしかなくて、君が私を好きになってくれたこともただの奇跡で、それ以上でもそれ以下でもない。
・・・・今は関係ないな。現実からちょっと逃げていたみたい。
彼らのさっきの言葉を反芻する。・・・・確かにまず二人が何で離婚するのかは知らない。まずはそれを知らないと。
それから私は二人に何もしてほしいのかを考える。・・・何も思いつかない。
だから彼との写真をたくさん見返す。今の私に勇気をくれる写真を。少しだけ幸せな気持ちになったからか、行動力がわいてきた。とりあえず家に帰って二人と話さないと。
後、彼にも謝らないと。
いつも通りのでかすぎる家に着いた。ずっと見てきたはずの家が少し怖い。3人でこの家で暮らせるのはもう数少ないのかもしれないと思うと、悲しい気持ちがあふれて、その場にしゃがみ込みたくなる。
玄関を開けた。音が出ないようゆっくりと。特別な理由なんかなかったけど両親と顔を合わすのが少しでも後になるように。涙をこらえて、覚悟がまだできてないのに、こんなことをしようとする愚かな私は家に入る。リビングのほうから父と母の話し声が聞こえる。なんだが真剣そうな声色だ。耳に意識を集中させ会話を聞いていた私は、立ち止まり、うつむいてしまう
玄関には最愛の人の靴があった。
彼女は口元をへの字にきつく結び、涙をこらえようと眉間にしわを寄せながら登場した。この状況で僕はさっきの会話を聞かれていたのかどうか、父親の浮気が原因で離婚するということに彼女がショックを受けないかどうかといった考えが、一瞬で吹き飛んでしまった。
多分・・・100万回目ぐらいの確認になる。愛や恋といった言葉は彼女のために存在している。
「昔の話なんかさ、どうでもいいから!今はどういう気持ちなの!?まずそこからでしょ!20年あったら考え方なんかまったく変わるよ!ずっと同じ結論ばかり出す頑固者なんかきっといないよ!」
「お互いにずっと失望していたら、目線もあわせないし、ただいまなんか言わないよ!」
「全部演技だったの?私のためにずっといい夫婦を演じていたわけ?そんなことないでしょ!」
「・・・私のために本音をずっと隠すなんて、そんな器用な人たちじゃないでしょ・・・」
量の目から流れる涙をぬぐおうともせず、彼女は言い切った。娘としての本音を。本音をすべてさらけ出す勇気がある人は少ない。家族であっても所詮は他人だ。だけど彼女はその気持ちを伝えきった。
今度は両親の番だ。
「お、俺は別れたくない!確かに俺が浮気をしてしまったことがすべての原因だ!だけどやっぱり愛しているんだ!世界で一番!もし許してくれるならこの生活を続けていたい・・・」
母親のほうはその言葉を聞いて、少し涙ぐんでいた。手を口元にやり悩んでいる様子だ。そしてしゃべりだす。
「私は、あなたが浮気したことはもう恨んでいません。あなたにだけ非があるわけでもない、あなたのことを思いやれなかった私にも責任があります」
「いや、そんなことはない。俺が全部わる「私が許せないのはその態度です。自分が全部悪いと考えて、自分と一緒にいたら私が苦しむだろう、自分を許すことは一生ないだろうと考えているその態度がずっと嫌だったんです。自分だけが罪悪感を抱えていると思って、私の、あなたに対する罪悪感に目を向けてくれなかったことです。」
ここにいる全員が黙ってしまった。彼女の次の言葉をただ待っている。彼女の選択肢がどうなるかを
「だけど、そんな鈍感なあなたなんだけど、私もまだあなたを愛してます。娘の彼氏にずけずけ過去の話を聞かれ、娘に泣かれてようやく本音を出せるというのはほんとに恥ずかしいですけど」
「お母さん・・・」
彼女が母親に抱き着いて行った。まるで子供時代に戻ったかのように。
幸せそうに見えていた家庭は彼女一人でつなぎ留められていて、案外脆かった。だけど、約束をつなぎとめていたはずの彼女が約束を壊して、幸せな家庭に変えてくれた。
やっぱり彼女はすごい人だ。僕は余計なことしたかもな・・・
「ねぇ、なんで私の家まできてデリケートな話題に首突っ込んできたの?普通だったら絶縁ものだから」
今日は僕の家に泊まるらしい彼女との帰り道、怒ったような顔で僕を問い詰めてきた。
「すいません・・・ほんとに考えなしでした。君がどうやって悲しまないか考えた結果あんなあほみたいなことやらかしてしまいました。許してください・・・」
腕を組んでいたのをほどいて、左手で僕の頭をこつんとたたいた。
「私のために行動してくれたのは本当にうれしいし、結局離婚の件はなくなったから本当に感謝してる。だけど終わりよければすべて良しみたいな精神、私はあなたと違ってしてないからね。次はないよ」
本当にこんなことおこらないでほしい、彼女が悲しむようなことが起こらないでほしい。もしまた起こったとしたらまた似たようなことをしてしまうかもしれないけど・・・、まぁ、こんなこと伝える必要もない。
「うん。わかってるよ」
「それならよし」
満足したような顔で大きく笑った彼女はいつも通りきれいだった。
4月8日
ほんの小さい出来事に怒って、悲しんで、喜ぶ彼女が好きだ。特に喜んでいる姿が好きだ。そんなところをたくさん見てきたからうらやましく感じるんだろう。
感情表現が苦手で、君以外のことには心が動かされない僕は、僕のことが苦手だ。君みたいに自分含めた世界のすべてを愛せるようになりたい。それが無理でも、普段君が見ている世界を一瞬でも見てみたい。
だから愛していると伝える。
君と出会えたこの奇跡を一生覚めない夢にする。
昔僕が告白した場所である、近所の水族館を選んだ。変に小細工はしない。直球勝負だ。
遠くからきれいにおめかしされた彼女の姿が見える。僕は彼女のもとに早歩きで向かう。
「やっほー。待った」
「全然。30分なんて一瞬だったよ」
「結構待たせちゃったね・・・、私も結構早く来たつもりだけど」
「早く来れば来るだけ君といる時間が増えるからさ、さっそく行こうか?」
そういうと同時に手を差し出す。彼女がそれにこたえる。
「確かにそうだね」
彼女が笑い、周囲の景色が華やいだ。
中に入り、彼女と当時の思いでを語りながら進む。
「懐かしいなー、あの時はほんとに落ち着きなかったよねー君」
「好きだった人と初デートなんて緊張して当たり前だろう」
「確かにそうだね。おっ、さめがいるよ」
展示されているサメのことを指さしながら近づいていく。
「サメっていつみてもかっこいいよね。最強、って感じがする」
「・・・前来た時もこんな会話した気がする」
「あれ?ほんとに?私ってそんなサメ愛強かったけ」
少し照れ臭そうに頭をかきながらはにかむ彼女。その様子を見て思わず僕を笑ってしまう。
「ちょっと、笑うことじゃないでしょ」
「ふふっ、ごめんごめん」
そういいながらもなぜか笑いが止まらなかった。
今度は深海魚コーナーをめぐる。
不気味だけれど不思議な魅力がある魚に彼女は夢中そうだ。
「うわー、きもかわいいね」
「決してかわいくはないと思うけど、不思議な魅力があっていいと思う」
「えー、かわいいでしょ。ほら、このすごい長い脚のカニとか」
彼女とは美醜感覚が合わない
「あーそういえばまた家に遊びおいでよ。両親が今度はいつ来るのかってうるさいからさ」
あの件依頼、彼女の両親とは交流を多く持っている。てっきりあんな非常識なことをしたんだし、嫌われてもしょうがないと思っていたが、案外好かれているらしい。あの件だって僕がいなくても彼女がいれば解決したような気がする。
「なんでそんなに好かれているんだろうな?邪魔しかしなかったけどね・・・」
彼女は気味悪いカニを見るのをやめ、立ち上がり僕のほっぺをつかんできた
「それ本気で言ってる?あなたがいたから私たち家族は離れ離れにならずに済んだんだよ。その件を駄目なことだ―って言っていいのは私たち家族だけ。あなたは私たちの恩人だって胸を張ってればいいの」
そう言ってほっぺをつねる手を離した。
・・・正直なんでそこまで怒るのかよくわかってないけれど、とにかく気に病むなってことを言いたいのはわかる。
「ありがとう。やっぱりやさしいな」
「お礼を言うのはこっちのセリフ」
足が疲れて外のベンチで休憩中、彼女はこんなことを言い出す。
「もしかしたら、私たちって何か一つでもボタンを掛け違えていたら、一緒にここにきてなかったかもね」
彼女が突拍子もないことを言い出して、少し面食らってしまう
「そんな顔しないでよ。ただの世間話よ。」
んんっ、と咳払いをして話を続ける。
「私たちが、一緒にここに入れるって本当に奇跡なんだよね。もしもどっちかが沖縄県で生まれたり、アメリカで生まれたり、何なら火星とか、木星とか別の天体で生まれてたりしていたらこうして出会えなったわけじゃん。なんならパンダとか、カラスとかで生まれてたりもしたかも」
「もし今の私で生まれたとしても、20年前に母さん、父さんが離婚していたら今君と話している私じゃなかったと思うし、数か月前に君が両親の所に話を聞きにいかなくて二人が離婚していたとしても、今一緒に水族館でデートできてるかもわからない」
「そんな無数の選択肢の中でちゃんと人間で、今と同じ両親から生まれて、同じ学校で君と会えて、君と仲良くなって、恋愛感情がお互いに芽生えて、ここにいれることってホントにきせきなんだなぁって・・・」
そう語る彼女の横顔はほんとにきれいで見とれてしまっていた。君なら外国人でも、木星人でも、人じゃなかったとしても、神様も驚くほどに美しいだろう。そう確信を持って言えた
彼女のことが無性に愛おしく思ってしまい、思わず彼女の口を僕の口でふさいだ。そして伝える。
「50になっても同じベットで手をつないで眠ろう、一生離れないようにずっと手をつなごう。この奇跡を大事にしたい。きっと来世でもさらにその来世でもこんな奇跡は起きないと思う。君と僕が出会えた奇跡を信じてみたい。」
「僕が死ぬときの最後の言葉をあなたに受け取って欲しいです」
ただありがとう




