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分かれ道

作者: 大津太郎
掲載日:2026/06/01

これは私は中学2年生の時に体験した話です。


修学旅行は農業体験を目的にするということでN県に行くことになった。

修学旅行というと京都や東京などの歴史や文化、テーマパークなど目を見張るものを観たり体験したりするという意識があっただけにクラスの雰囲気は修学旅行が近づくにつれて沈んでいっていた。

それでも実際に当日朝の移動用の大型バスに乗るころにはクラスの人気物や陽キャ軍団を中心に明るくなった。

旅程の1日目は現地到着後班ごとに分かれて農家での田植え体験とその農家への宿泊、2日目の朝に農家を出てホテルにチェックイン、その後バスで移動して観光用の巨大ひまわり畑で種植えをしてホテルに帰ってきて夜はレクレーションする。

そして3日目に学校に帰ってくる。

この体験は2日目の夜のレクレーションの際に起きた。


2日目の夜、ホテルを出て肝試しを行うためにとある神社にクラスのみんなで向かった。

1日目の農家への宿泊や農業体験について話している人たちがちらほらいた。

「テンション上がるわー。」

クラスのムードメーカーが大きな声を出した。

それを聞いて周りも笑い声をあげている。

神社はこじんまりとしていたが夜でだったので細かいところはわからないが田舎にしては立派な建物だなと感じた。

「みんなーこれからー肝試しを始めまーす。」

クラスの修学旅行実行委員の女子が拡声器で話した。

その周辺からうぇーいとか聞こえてきた。

やる気のある人は前のほうに集まり、そうでない人は遠巻きに見ている構図に自然と分かれている。

先生が虫よけスプレーしているかーと声を張り上げている。

持っていない人は先生のところに来てくれー、虫よけスプレーをかけるからー。

と言いその声の方向に何人も集まっていた。

「今回の肝試しは全クラスが夜のレクレーションの第一候補にしていました。

しかし先生の人数や場所、時間の関係で肝試しは1クラスだけということになってしまいました。

そして実行委員会のメンバーでじゃんけん勝負をして見事勝利をしたのが私たちです!」

と拡声器からテンションの高い声が響いた。

前方からはやったーとか、最高!とか口々に言い盛り上がっていた。

それ以外の人たちはぱちぱちと拍手をしていた。

私も周りに合わせて拍手をしておいた。


肝試しは神社の周りを1周歩くだけという。

いくつかのポイントで先生が見張っているので田舎だからといって騒がないようにとのことだった。

お化け役はおらず男女ペアになって懐中電灯と地図を頼りに歩くと言う。

肝試しというよりは夜の散歩に近いという印象だった。


早速ペアを決めるくじ引きが始まった。

男女に分かれてそれぞれの箱から紙を引いていく、数字が一緒の人がペアの相手というわけだ。

ある程度くじ引きが進行すると女子、男子ともに嬉しい悲鳴と悲しみの叫び声がいくつも上がっていく。

一発で意中の相手とペアになれるのはごく少数なのだ。多くは「まじないわー」と言っていた。

私もくじを引いた。

相手を探すためにうろうろしていると一人の女子と目が合った。

彼女も同じ数字を持っているようだった。

残念そうな表情をしていた。

それに気が付いた女子が近寄ってきて私の数字を確認し

「彼と数字を交換してくれない?」

と言った。

私はコクンと小さく頷きクラスの陽キャの彼と数字を交換することにした。

そうですよね、せっかくの男女ペアの肝試しなんだから好きな人と歩きたいよね。

私も数字を操作できるならそうしているだろうし。

くじ引きが終わりペア同士で固まった。

そして数字の書いている順番で肝試しのコースに出発することになった。

1組目が出発して3分経過したら次の組が出発する。

そうやって一組ずつ歩きだしていく。

出発する際に女子には地図が手渡されていた。


私の番が回ってきて、相手と無言のまま歩き出した。

特に手をつないだりも会話をすることなく歩いていた。

お互いの懐中電灯で道を照らして淡々と歩く。

月は出ていたが満月でもなく雲もあり時折月の光は雲にさえぎられていた。

しばらくすると前方から声が聞こえてきた。

光が何個の揺らめいているのが見えた。

そのまま近寄っていくと集団がたむろしていた。

「おお来たか、ここで待っておいてみんなで集まって行こうって話になってさ。

ペアで行きたい奴は先に進んでもらって残りはだらだら歩こうって感じ」

そう説明してくれた。

「こんなレクを楽しめるのってクラスの陽キャだけだけやしね。」

「そうそう、部屋で遊びたかったよね。なんで外で虫に刺されて歩かないといけないよ。」

「他のクラスはホテルの大部屋で遊んでるんだよね。」

「うらやましー」

「いいなー」

 私も集団に加わり雑談をすることにした。

後から何組かきて集団に加わるペアもいれば

「まじめにやりなよー」

と言ってそのまま通り過ぎるペアもいた。

最後の組が合流して私たちは再度歩き出すことにした。


途中数メートル先に先生が立っているのが見えた。

「早く歩けよー。先生だって休憩したいんだからな」

と言っていた。

「そこはお化けみたいに驚かせてくださいよー。」

「怪我したらどうするんだよ。そんなこと起きたら大変なことになるわ」

笑いながら先生は見張りをしてくれていた。

「先生たちは全員が行った後に後を追いかけるからな」

と言い私たちを見送った。

しばらく歩いて振り返ったが街灯がないせいか先生の姿は見えなくなっていた。

みんなでぞろぞろと歩いていると隣にいた佐伯が声をかけてきた。

彼は相撲クラブに入っているらしく、納得してしまうほどの大柄で恰幅がよかった。

和服を着た姿を想像したら誰もが相撲取りだと言うだろう。

「なあ少し歩くのをゆっくりにしないか?」

彼は少ししんどそうに見えた。

体が大きいから体力はありそうに見える、膝の負担も相当なのだろう。

前日は農業体験で宿泊した各農家で全員手作業で田植えをさせられた。

泥のぬかるみに足を取られ腰を曲げての作業は私でもしんどかった。

佐伯は体が大きいからその辛さは私の比ではなかったのだろう。

今日も農業体験があって広大な花畑でひまわりの種を植えるということをした。

夏になるとひまわりの大輪が無数に咲く光景が見られるという。

 私は彼の歩調に合わせるようにゆっくりと歩くことにした。

段々と集団から離されていくが誰もそのことに気が付いていない。

とうとう集団の姿も見えなくなってしまった。

とは言ってもここまで一本道なので街灯がなくても怖くなかった。

「そういえば地図って持ってる?」

「あれって女子にだけ配られているから俺持ってない。」

私も同じくと頷いた。


コースは神社の周りを1周するだけのシンプルなコースなのでもうすぐ終わりが近づいてくる頃だった。

スタート/ゴールを時計の12の位置にするならば今私と佐伯は9の位置にたどりつくころだ。

「まぁお化け役もいないから怖くもなんともないね。」

「こんなのクラスのカップル連中のためのもんだろう。俺たちは蚊帳の外だよ。」

「そうだよなー。俺なんて最初の相手があからさまにテンション下がってたし。。。」

「みんなそうやって、落ち込んでもしゃーない。で、相手は誰やったん?」

「城崎さん。」

「あー、そりゃあかんわ。城崎さんは佐藤と付き合ってんで。」

「そうだよね。それで佐藤君と交代になったんか。」

二人して笑いながら時計の9の位置に差し掛かった。

 そこで私たちは足を止めてしまった。

「これってどっちに進んだらええんや?」

「どういうこと?」

私が佐伯に尋ねた。

佐伯はどうしてよいかわからず困惑していた。

一本道と聞いていた道は二手に分かれていたのだ。

「実行委員の話とちゃうやんけ。」

私は思わず文句を言っていた。

「どっちに進む?」

と佐伯に聞くが彼は何も答えない。

そのままお互い無言な状態になった。

「他の人らはもうゴールについてるやろうから俺たちも止まってられへんな。

まぁどうせこんな実行委員会の人らが地図を作り間違えたんやろう。

二手に分かれているけど結局同じ道につながっているってオチやろうな。」

私が1人でしゃべっていた。

「いやいや君もなんか言ってくれよ。」

彼はうーんと唸るばかりで話そうとはしなかった。

「あとから先生来るって言っていたからここで待っておくか?」

「そうだね、それがいいと思う。」

恰幅のより体格からは想像できない慎重論に佐伯は同意した。

私はてっきり彼が私の提案を否定してくれると思っていたので驚いてしまった。

待つということになり私たちはその場で先生を待つことにした。

ただ立っているのも暇なので私はこの2つの道を観察することにした。

 一つは私たちが歩いてきた土がむき出しの道がそのまま延長された道である。

もう一つの道に気が付かなければ意識することなくこの道を進んでいたであろう。

そしてのその進んだ先でには仄かに明るい明りが複数見えた。

クラスメイトの懐中電灯なのだろうと思った。

しかしその道の先からは声や音というものが聞こえてこないのである。

クラスメイトがいるならば話声が聞こえてくるはずである。

 私はもう一つの道を観察することにした。

そっちの道は45度くらいの角度をつけて曲がっていた。

その先は林になっているようで真っ暗であった。

街灯がないにもかかわらず道がはっきりと見えた。

懐中電灯で照らさなくても見えるのだ。

月明かりのせいかと思ったがもう一本の道と比較してもその道ははっきりと道の輪郭がわかるのだ。

進んだ先はまっくらな林の中だが何やらひそひそと話し声が聞こえる。

意識を集中して耳を傾けると枝が擦れるような音にまじって話し声のようなものが聞こえていた。

クラスの女子の声だろうか、これは男子の声か、いろんな声とも音とも判別できないものが聞こえてくる。

クラスメイトが私たちが遅いことに腹を立て驚かそうとして懐中電灯を消して潜んでいるのではないだろうかと私は想像した。

遠目に私たちを見つけてクスクスと小声で話し合っているのではないだろうか。


何分待っただろうか先生は一向に姿を見せなかった。

当時中学生でスマホは存在しておらず携帯電話は学生が持つものではなかった時代、腕時計も私たちは着けていなかった。

「もういいかげんどっちに行くか決めようぜ。」

私は沈黙を破って佐伯に話しかけた。

「あっちの道は真っ暗だけど声が聞こえる、クラスメイトの誰かはわからんが話し声のような笑い声のような、きっとみんなが隠れているんだ。

もう一つの道は明りが見えるけど、無音だ。何も聞こえない。」

佐伯もそうだねと言って頷いた。

「おそらくどちらも道もゴールにつながっているんだよ。

ゴールも近いし二人別々の道に進むことにしよう。」

私は佐伯に提案した。

佐伯は困惑した表情になっていた。

「私が左の道が明るいけど、話し声が聞こえる道を進む。

佐伯はこっちの明るいけど無音の道を進んでくれ。

さっさとゴールしてホテルに帰ろう。」

そう言って私は明るい道の方に足を進ませようとした。

一歩目を踏み出す前に服の裾を掴まれた。

「何すんの?」

「いや、ごめん。

でもさそっちの道おかしくないか。

今夜だぜ、なんでみんな隠れているんだ?

驚かすにしてはやりすぎっていうか。」

「隠れているって言っても数人だろう。

クラスの一軍軍団だろうさ。

それかそいつらに命令された他の人か。」

「どうなんだろう。虫だっているしわざわざ隠れるかな。」

「そんなこと言ったらこんなところまできて肝試ししている俺たちも大概だと思うが。

どうする。佐伯がこっちの道を進むことにするか?」

佐伯は顔を横に振って拒絶した。

「もう少し待ってみない?先生が来るかもよ。」

「結構待っていると思うんだよな。時計ないからわからんけども」

私は佐伯の煮え切らない態度に苛立ちを覚えていた。

体格は大きいのに相撲だって強いらしい、それなのになぜこれほど慎重なのか。

「佐伯はどっちの道に進みたいんだ?」

佐伯は小さい声でわからない、と言った。

私はため息をついて

「私がこっちの左の道に進む。様子を見て戻ってくるわ。

どうせすぐそこの木陰にみんなが隠れているだけだろうし。

今も俺たちが悩んでる姿を見て笑っているしね。」

左の真っ暗だが声がする方からは人の話し声のようなものが聞こえていた。

何と言っているかはわからないがクラスメイトのもののようだと思った。

私はじゃっと手を振って左の道に進もうとした。

またしても裾を掴まれて一歩目が踏み出せなかった。

「いや、いい加減にしてほしいんだけど。」

佐伯はごめんと謝った。

「わかったよ、こっちの道は進みたくないんだな。

それならもう一つの明るいけど無音の道を進もう。

二人で進んだらいいだろう?」

佐伯は「それならいいかも」と言い二人で進むことにした。


5分も歩かない内に急に視界が明るくなった。

「おっそーい、何してんの?」

「おいおい男二人で何やってんだよ。ホモかよ」

クラスメイトの声だった。

顔に複数の懐中電灯の明かりを当てられてまともに目が開けれなくなっていた。

「おまえたちで最後だ、怪我とかしてないだろうな。」

と先生が話しかけた。

「あれ?先生戻っていたんですか。俺たち先生を待っていたんですが。」

「なんで私を待っているんだよ。私はお前たちを見送ってから逆走する形で先にスタート地点に戻っていたんだ。」

「なんで遅かったのよー。待ちくたびれた。」

実行委員会の女子が不満顔で文句を言ってきた。

私もここは言い返さなくてはいけないと思い

「いやいや、一本道って聞いていたけど、ゴール手前のところで道が二つに分かれていたじゃないか。

それでどっちに進むのが正解なのかわからなくて迷っていたんだよ。」

佐伯もうんうんと首を縦に振っていた。

女子は首を傾げて

「何言ってんの?

道なんて分かれてないわよ。

昼間に私たち実行委員メンバーと先生で下見までしているのよ。

地図をちゃんと見てないからそういうおかしなことを言うのよ。」

そう言って彼女は一枚の手のひらより少し大きい紙を見せた。

それはスタート時に女子にだけ配られたコースの地図だった。

神社が正方形にかかれその周りを一本の線がぐるっと囲んでいる。

ただそれだけのシンプルな地図。

”一本道なので迷う心配なし!”

とかわいらしい文字で書かれていた。

私と佐伯が見た分かれ道などどこにも書かれていなかった。

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