たからくじ誘拐事件
たからくじ誘拐事件-猫探偵事務所猫野ぶちおシリーズ-
プロローグ
秋風がそわそわ吹いている。田んぼは稲穂が頭をたれ、ツクツクボウシにかわって赤とんぼが優雅に飛んでいる
ぶちおたちは、稲刈りを無事に終わらせて、宮田さんから頂いた新米をおにぎりにして食べ、あらためて米を味わいながらホッとしているところだった。
「ほんと、おいしいわね。新米はおにぎりが1番よねぇ」
「僕は、卵かけごはんだね」
「オレは、バター醤油だな」
「ソースごはんね」
「おいおい、どんどん下品になってゆくな」
「皆日本人ということね」
「そういえば、オータムジャンボ宝くじが昨日発表されましたね」
「3億円あたってないかな」
「みぃちゃん、当たったらどうするの?」
「喫茶白熊の全国展開よ!」
「で、いくら買ったんだ?」
「3千円よ」
「おつりがくるさ」
-これはあの子のために-
第1話
空いた口がふさがらない依頼だった。
「オータムジャンボの当たりくじを落としてしまいました」
「何等です?」
「1等です」
「は?!3億円ですか?」
格幅のよい、50代と見られる男が間違いなくそう言った。
「肌身離さずと考えまして、スーツの胸ポケットに入れておいたのです」
は!そんなものを胸ポケットいれておくのか・・
「わ、わかりました。引き受けましょう。当たりくじをを探してお返しすればよろしいのですね。ただ、相当難しいことだと思ってください」
「承知しています」
「ところで、警察署には届けましたか」
「いえ、気が動転しておりまして」
「今すぐにはくさん署に行って遺失物届をだして来てください。早くです。圓八警部を頼ってください。こちらからも連絡しておきます」
第2話
「ぶちおさん、どうするんですか」
「ん!あまりにも突飛すぎて・・・」
「もし見つけたら、貰っておくというのは?」みぃちゃんは真面目に言ったらしい。
「なに考えるんだよ。われわれは探偵社だ。依頼主の意向にそうのが仕事だ・・そういうことは考えないでおこう。惜しいが・・・」
「ほら、探偵様もそう思っているじゃないのよ」
「たからくじ拾った者は警察署に届けなければならないんだ。当たりくじでなくても拾ったものは警察署に届けなければならないんだ。届けなければ罪に問われる。懲役三年かまたは罰金十万円だったと思う。そして、3ヶ月間経って誰からも名乗りがなければ、広い主のもののなる」
「ふーんでもどうやって、届け出しったからって落とし主だとわかるのよ?」
「・・・・・」
すかさずメタボが鬼のようなタイピングで検索しはじめる。
「ありましたよ」
「当たっている宝くじの場合は、有価証券類ですので、それを拾ってネコババすれば当然、遺失物横領罪(または未遂罪)です。実際にはにみずほ銀行でしか換金できない金額であれば、氏名住所、どこの売場で購入したかなどで申告する。警察に届け出たほうが懸命です。ネコババすれば犯罪者ということですね」
というわけだが、この場のうち何名が理解できたのか、推し量るのはよそう・・・
メーテルもあきらめ顔だ。
第3話
「拾い主が現れればいいんですよね?」
「メタボのいうとおりだな。それが円満だ。報酬ははずむと言っている」
「洗濯してしまったとか、家の何処かに隠したことを忘れているならばね、いいですけど」
「そうだな」
スマホの着信音の御陣乗太鼓が鳴った。
「もしもし、先日から宝くじの件で依頼しています、強運大吉です」
「どうかされましたか?」
「拾った者から連絡がありました」
「どうしてあなたの番号を知っているのでしょうか?
「もしものために、封筒に入れて氏名と番号を書いておきました・・・」
・・・・・・・・・・・・・このひと、どこかずれてるな。
「者とおっしゃいましたが」
「はい、拾ったと言っていました」
「これは、宝くじ誘拐だと言いました。おとなしくこちらの言うとおりにしろと。こちらの要求は、拾った報酬として5千万円だ。受け渡しにについては後日連絡する。もう一度言う、こちらは3億円のうち5千万円だけ。おたくらは2億5千万円だ。だれも痛くも痒くもないだろうと」
「そうですか、事件が事件ですから、この先は代理人として、わたしの名前を教えておいてください。猫探偵社の猫野ぶちおだと。わたしが応対します」
「わかりました。よろしくお願いします」
「というわけは、3億円のうち5千万円をよこせ」ということだ。
「強運氏にとって痛いのか。痒いのか。どうなんですかね」わからん・・・・・
第4話
「おまえが猫探偵のぶちおか。最近調子に乗っているそうだな」
「おまえは誰だ。何のようだ」
「そうだな。善人とでも呼んでくれ」
「善人がオレに何のようだ」
「しらばっくれるな。宝くじ誘拐の件に決まっているだろうだろう。うまいネーミングだろ。3億円のうち5千万をこっちがいただく、かわいいだろ?大人しくこちらの要求を飲め。依頼主を説得しろ。強運は2億5千万円、オレが5千万円、そしておまえはそれなりの報酬金をいただく。誰も文句はないだろう、なあ?」
「なにを言っている。何があろうと依頼主の依頼に応えるのがわが社のモットーだ。それに依頼主ははくさん署に遺失物届を出してあるぞ。このハードルをどう越える?」
「そんなもん知るか」
「おまえ、捕まりたいのか!」
「そんなもん知るか、と言っている」
「なにを言っている」
「こちらには人質がいる。こちらの要求どおりにしろ」
「どういうことだ」
「こちらには人質がいる。宝くじは家にあったと言って遺失物届を取り下げろ。そして3億円を換金させろ」
「人質とは誰のことだ?声を聞かせろ」
「にゃーにゃー」
「猫か?」
「猫探偵。強運にこの猫の声を確認させてみろ」
第5話
深く濃い緑の苔がびっしりと生えている、庭の石畳が玄関へと導いている日本庭園が視界に広がっていた。はじめて見る光景である。このあたりははくさん市でも指折りの歴史建造物が並んでいる地域だ。重要指定文化建造物が珍しくないのだろう。この旧宅もおそらくその一つに違いない。
「はい、確かに猫はおりますが、なにか?」
「いまはどちらに」
「おい、つめはどこだ?」
女中であろう細身の中年女性が困ったように
「それが昨日から家に帰っていないようで・・・」
「夕方、「人質はおたくの猫だ」と電話がありまして、いたずらかな?と気にもとめませんでした」
強運氏はあきらかに動揺しはじめていた。
「本当にあの子なのか?」
女中は思いついたように
「その会話はいつものように録音されていますので、お聞きください」電話の会話はいつも録音されているようだ。
「間違いありません。つめです・・・・・どうかあの子を助けてあげてください。あの子はお金には代えられない」
「奴の要求は、3億のうち5千万円を奴に、残りの2億5千万円があなたの取り分ということになります」
「あの子を返してくれるなら、それでいい」相当溺愛しているようだ。
やはり強運氏は金に困ってはいない。だから、スーツのポケットに当たりくじを入れておいたり、封筒に氏名や電話番号を書いておくのだ。ただやはり3億円となると大金の部類だろう。
「強運さん、これからどうなさいます?あなたからの依頼は3億円のあたりくじを取り返すということでした」
「わたしは、お金よりもあの子の方が大切です。犯人に従います」
そんなに上手くことが収まるか・・・・・・・
「強運さん、よく聞いて下さい。こういう場合犯人は、要求をエスカレー卜させてゆくことが多いのです。もう少し時間を私達に頂けませんでしょうか」
「たった5千万円のためにあの子をこれ以上危険にさらすわけにはいきません」
「では、つめちゃんを無事に保護するまで、依頼を延長してください。その分の報酬は頂きません。犯人は報酬を必ず上げてきます。わたしの経験上まだ事件は終わっていません。つめちゃんが危険です」
「つめが無事に帰って来くるだろうな」
第6話
チリーン!!チリーン!!
この喫茶白熊のドアを鳴らす者の中で、最大音量で怒ったように壊そうとするのは圓八警部だ。
「ほら、頼まれた捜査依頼書だ」
「まいどありがとうございます!」
「ぶちお、強運氏が絡んでいるそうだな」
「なにか?」
「奴はこの辺りで指折りの金の亡者だぞ。どんな事件か知らないが、やつには常識が通じん、やっかいなことにはあんまり係るなよ。金感覚が狂う」
「宝くじ誘拐事件なんですが、強運氏の猫が誘拐されました」
「は!?」
「犯人は善人と名乗っています」
「そのふざけた名前の奴は、どこまで先を読んでいるんだ?」
「身代金を釣り上げるでしょう」
「なるほど。あとな、オレは拾得物担当でない。刑事課だ。覚えとけよ」
「まいどありがとうございます!」
第7話
御陣乗太鼓がせわしなく鳴った。
「どうだ話はまとまったか」
「おまえ、本当はいくらほしい?」
「ほう、いい質問だ。当たりくじを拾った報酬と猫の身代金で8千万円だ」
最初からそのつもりか。
声からすると、年齢はオレより上だな。
「これでも、おまえらの取り分には十分だろ?金持ち強運にとっては、かわいいもんさ」
「取引するには金がいる。当たりくじを返せ」
「わかった。当たりくじはイオンモールのどかこかに隠してある制限時間は今から1時間だ。見つけららなかった場合、要求は正式に1億3千万円に上げるぞ。いいな。事務所からイオンモールまで3分で着くだろ。この番号を使え」
「見つけたら?」
「当たりくじを返す」
「猫のつめは?」
「用がなくなるので返す」
「本当だろうな」
「オレは善人だ。嘘はつかん」
「つめは無事だろうな」
「元気だ。ソファで寝ている。餌はぼりぼり食う。声が聞きたいが?」
「つめには悪いが、声を聞かせろ」
突然、起こされて不機嫌な猫の声がした。
第8話
おいおい、このただっ広いイオンモールのどこをあの小さく薄いくじを探せと言うんだ?
「ぶちおさん、これ無理です。とてもとても。要求額を引き上げるための茶番ですよ」
「探すしかあるまい」
あっという間に、1時間が過ぎてしまった。
第9話
御陣乗太鼓が誇らしげに鳴った。
「おい、こんな茶番があるか!汚いぞ」
「オレは嘘をつかないと言ったろう?3階フードコートにある。どこかのテーブルを探してみろ。必ずある」
「ぶちおさん、ありました。ただ・・・・」
「ただなんだ?」テーブルの裏を指さすので、貼ってあったようだ。
メタボが当選番号表を確認してみると。
「これは、3百円の当たりくじですね」
「舐めたことしやがって!」
御陣乗太鼓もオレの真似をして、怒ったように鳴った。
「どうだ、嘘ではないだろう(笑)」
「冗談はよせ」「おまえ、どこにいる。どこでオレたちを見ている」
「さぁな」
「オレは善人だ。嘘はつかないと言ったろう。これで、要求額は当たりくじを拾った報酬と猫の身代金とあわせて1億3千万円になった。つぎの連絡を待て」
どこまで要求を釣り上げるつもりだ。
完全に奴のペースだ。
2日が過ぎた。
奴からの連絡は、あれ依頼途絶えた。
「善人はすでに1億3千万を手にいれたとか?」
「換金するには強運氏の身分証明書が必要だ。それにはくさん署には遺失物届が出ているので、善人が換金しようとすると捕まってしまう。そうなると奴は金を手に入れなくなるからな」
「一応、強運氏のもとに行き、当たりくじがまだあるのか確認してみたらどうですか?」
強運氏は宝くじを厳重な金庫に入れてあり、猫のつめについては「お願いしますから、はやく助けてあげてください」と懇願された。オレたちは宝くじを探すよりも猫を探しているよいうな気分だ。強運氏の気持ちはよくわかる。はやく主のもとへ返してあげたい。
第10話
御陣乗太鼓がいつもとは違う調子で鳴ったような気がした。その音は邪悪だが小さく打たれているようだった。
「猫探偵社ですが」
「あなたが、ぶちおさん?」
「そうですが、あなたは?」
「わたしは、悪女」
「それで?」
「あなたの依頼主が落とした、3億円の当たりくじを拾いました。返してほしければ3千万円を要求します。あなたの依頼主は2億7千万円、わたしに3千万円となります。どうです?依頼主は大金持ちだからそんなお金ははした金でしょ?そしてあなたは猫ちゃんを助け出して、相応の報酬を得る。どう?いい話でしょ?」
「おい、悪女。いつ、どこでその宝くじを拾った?本物だろうな」
「ふーん、この話を信じてくれなかったら、1等3億円のたからくじを破ります。本気よ」
「・・・・・」
「どうすれば、当たりそのくじを返してくれるんだ?」
「おって連絡しますね」
ツーツーツーツー
第11話
「んー?悪女の言うことは信じられないでしょう。ただ要求額は善人よりは低いです。悪女のほうが、われわれにとって金額が低いので強運氏が交渉に乗る確率が高いかもしれない。それを知っているかどうかはわかりませんが」
「このあいだ強運氏のところで、たしかにあの当たりくじを確認したからな・・・あの金庫からは盗むどころか、燃やせまい」
「疑うなら破るといいますが、そうしたら悪女もお金を手に入れなくなるじゃないですか。そんな馬鹿らしいこと言いますかね?一体なんのためにやっているのでしょうかね、意味不明!」
「んーーーーーーーーーーーーーよし、3億円が出た売場に行くぞ。本当に強運が3億円を当てたかわかるかもしれん。その前に強運のところだ」
秋の静けさを浴衣にまといなから、強運は現れた。
「強運さん、あのくじはどこの売場で購入しましたか?」
「いや、これは貰ったものです。当たっているからと。いままでの恩返しですから収めてください」と言われましてね。そしたら、その手の雑誌を買わせて、調べてみると一等が当たってましてね。まあ、自慢じゃあありませんが、わたしにとって3億円はそんなに価値のある金額ではなかったので、あのような扱いをしてしまいまして・・・反省をしています。当たったものは当たったものと、ありがたく頂戴いたします」
「その頂いた方というのは?」
「うちの家人の小荒田ですが、なにか?」
「失礼ながら、わたし達の知らないところで犯人と接触してないですね?」
「ない!それよりはやくつめを返せ」
「いちおう、確認させて頂きました。お気を悪くしたならば謝罪します」
第12話
その宝くじ売り場はひっそりと、ただっ広い駐車場の隅にあった。高額当選はこういう雰囲気の売場にふさわしいのだろうか。
窓口の婦人がそっけなく答えた。
「そんなこと言えるわけないじゃないの。それくらいわかるでしょ」
事前に圓八警部からもらっていたはくさん署からの捜査依頼書をみせたところ、渋々了承してくれた。
「たとえば、それらしい者が当選の確認に来たとか覚えていません?」
さすがにムリか・・・
「覚えていますよ。コアラみたいな優しい男性ですよ。毎週のように来ます。常連さんです。あのひとかなぁと思います。じっと、くじを見つめてましたよ。いつもと様子が違いましたね。やっと探していた人に会えたような、そんな感じ。わたしもうれしくてつい、おめでとう!って声をかけてあげました。やっと報われたと思いました」
「ありがとう。貴重な情報ですよ」
第13話
オレたちの考えがまとまらない、相当悪いタイミングで御陣乗太鼓が鳴った。
「猫探偵社ですが」
「悪女です。ご機嫌いかがかしら」
「相当悪いね」
「どうするか決めた?わたしが3千万円で強運氏が1億7千円と猫、あなたには相当な報酬が渡るわ。どうこの話、乗る?いい話じゃないの」
「猫はどこだ。どこにいる」
「猫ちゃんね。安心して。元気にしているわよ」
「だからどこにいると聞いている」
「安全なところよ」
「どこにいると聞いているんだ」
「心配しないで」
話が噛み合わない。
「おまえ、善人を知っているな?」
「さぁ」
「コアラは?」
「さぁ」
第14話
また悪女か。
「悪女です。ぶちおさん?」
「当たりくじはどうすればか返してくれるんだ?」
「そうね、当たりくじの換金は強運さんしかできないからね。このくじを返さないとね。そうしないとわたしにお金が渡らないし」
辻褄はあっている。
「イオンモールに隠しておくから、探してみてね」
またか・・
「でもね、見つけないときは、要求額はどんどん上がってゆくわよ。当たりくじをあなたが見つけないと、3億円は強運さんには渡らないのよ。それにわたしが業を煮やして当たりくじをいつ破くかわからないのよ。本当よ。わたし気まぐれなの。今回も暇つぶしのゲームの1つよ。実はね、お金にも困ってないのよ。当たりくじを破っちゃうと、さすがの強運さんも納得いかないでしょうね。 猫もどうなることか。あなたの面子もガタ落ちね。とにかくイオンモールへ行きなさいよ」
「おまえも要求額を釣り上げるのが目的か?それならそうとはじめから言え」
「そうかもね。制限時間は今から1時間、頑張ってね」
ツーツーツー
「メタボ、イオンモールだ。制限時間は1時間」
「また!?」
「今度はオレが探すから、おまえはオレの周りであやしい奴がいないか見てろ。近くで見張っている奴がいるかもしれん。オレが隠し場所に近づくと隠し場所を変えるかもしれん」
「うい」
第15話
どこを探せばいいんだ。
悪女は女だ。女がいても違和感がないないところ。
しかし、ここはそういうところばかりだ。
持ち時間は残り30分を切った。
目立たないところ、女性がいてもおかしくはないところ・・・
ふと、1階セルフレジコーナーが目についた。ここには食品売場がある。客でごった返している場所だ。家族連れが多いし、女性客が多い。
外まわりを買い物客の流れに沿って歩いてみるが、宝くじを隠してありそうなところがありすぎて、目が泳ぐ。ついには酔ってきた。
菓子やレトルト食品、カップ麺のコーナーにいると、「おい!待てよ!」と叫ぶメタボの声が聞こえた。
オレも必死に声の聞こえた方へ客を押しのけて走るが、思うように進まない。
その先にメタボが呆然と立っていた。
「すみません」
「いや、それよりもどんな奴だった」
「馬面の男でした。茶髪の馬面、165前後、短足。逃げ足は速くて他の客をもろともせず直線で去ってゆきました」
「探偵さん、惜しかったわね」
「あの馬面とどういう関係だ」
「単なるお友達よ。ホントよ。これで要求は1億3千万円にしたわよ。これでも強運さんは払うかしら」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これで強運と身代金は同じ額になった。
「これからどうするつもりだ」
「そうね。やっぱりお金はいくらあっても困らないから、あなたにはもう一度チャンスをあげる」
「おまえはどこでオレたちを見ている!」
「さあ」
第16話
みいちゃんとメーテルは最近この事件に触発されて、ナンバーズに夢中になっている。
「あ、当たったわ」
「何が」
「ナンバーズよ。5万円よ♪」
みいちゃんのナンバーズがあったったらしい。
「5万か、微妙だな。本当か?確かめてやるよ」
「・・・・・おい。2桁目の数字が違うぞ。よく見ろ」
「あら」
第17話
「このヘボ探偵!なんだと!おまえ、何をしている!あんなに大見得切っておいて、なんだその様は!」
「わかりました。申し訳ありませんでした。必ず」
第18話
白熊のアメリカンで一息つきメーテルと話す。
「はい、ハヤシライス」
「ね、今度の事件ってお金がすごいんでしょ?」
「あぁ、小さな島1つでもお釣りが来るよ」
「犯人は、そのお金持ちに相当恨みを持っているのね」
「恨みねぇ・・・たしかに叩けば埃たくさん出てきそうな人物だろうな」
「わたしもお家がほしいな」
第19話
「久しぶりだ、ぶちお」
「善人。いや、コアラの小荒田さん。こんなことしてどうする?自分の当てた3億円の当たりくじで、1億3千万円回収して楽しいのか?」
「要求額を3億円まで吊り上げたらそれでいい。オレの目的は金じゃない」「いまに話すときが来るかもしれない」
「さすがに猫探偵だ。おまえに最後のチャンスをやる。要求額は3億円。強運には「0」だ。これが最後だ。値引きは一切しない。「オールオアナッシング」だ。ゲームは2時から開始、制限時間は2時間だ」
「強運氏を弄んでいるのか?恨みでも?」
「いまにわかる。今回もイオンモールだ。見つけるなよ!」
「悪女よ。ぶちおさん」
「何だ、立て続けに」
「あら、彼からも連絡があったの」
「それなら、話は早いわね、要求額は3億円。強運には「0」です。これで最後よ。イオンモールです。当たりくじを探して。今回の制限時間は2時間よ。2時からよ。いいわね。「オールオアナッシング」よ。彼とは別の要求よ。でも見つけないでよ。
これで善人、悪女とも要求額が3億円になった。
第20話
またイオンモール、制限時間は2時間、当たりくじを見つけること。
今度は、オレとメタボだけでは人員不足であるので、みいちゃんとメーテル、白熊ちゃんにも応援をお願いした。
「わたし、1回こういうのやってみたかったのよ」と呑気にみいちゃんが言う。
「そんなこと、言うもんでないよ。とりあえず安全に十分気をつけること。なにかあったらすぐにスマホを。あとは、広すぎるので「山勘」で動いてくれ。いつもバディと一緒に行動することも忘れずに。人混みにも注意を頼む」
白熊ちゃんにも当選番号表を渡した。
第21話
「旦那様に頼むしかないだろう。きっと分かってくれる」
「でも、あの方がそんなことしてくれるかしら」
「きっと頼み込めばわかってくれる。俺達は長く奉公してきたんじゃないか」
「旦那様、おりいってお話がございます」
「なんや、小荒田」
「わたしと道子の間に幼い子供がおりますことを、覚えていらっしゃいますでしょうか」
「ああ、そうやったな。その子がどうした」
「あの子は生まれながれ病気があり、治療費に困っています。しかし私どもにはとても払いきれません。そこでご主人にお願いにまいりました」
「そんなに要るのか。どれくらいだ」
「3億ほどになります。海外で手術をしなければなりません」
「そんな金はない」
「一生懸命働いてお返しします」
「ない」
それからも小荒田は祈禱に足を運ぶように、たからくじを毎週少額づつ買っていた。その姿は鬼気迫るものであった。
第22話
自分で言ったとおりに「山勘」だ。この広いイオンモールのどこに当たりくじがあるのか、全くわからい。
オレとメーテル。メタボと白熊ちゃんとみいちゃんでバディを組んだ。いままでの隠し場所は、フードコート、生鮮食品売場だった。それらの場所は除いてよいだろうが、まるで検討がつかない。
au、softbank、docomo、ユニクロ、GU、ゼビオ、女性下着売場、映画館の座席、本屋ではしおりの代わりになっていないか等、これでイオンモールは3度目、思いつく限り調べてみるが、オレたちの想像できうる場所はもうないように思えてきた。歩き回って1時間か。
「メーテル、休もう」
「そうね、あの生ジュースがいいな」
「適当に買ってくる」
「ありがとう」
いちじくジュースとぶどうジュースを買ってきて、彼女はいちじく、オレはぶどうを飲みながら何気なく行き交う客を眺めていた。
「どこに隠されているんだか、1時間だと短く感じるが、2時間では長く思うな」
「そうねぇ、迷子の呼び出しみたいに放送がかからないかしら(笑)」
「中央サービスセンターより、お客様のお呼び出しでございます。目田保さまがお連れの方をお探しでございます。お心あたりのお客さまは中央サービスセンターまでおこしください・・・中央サービスセンターより・・・・」
「メタボだ。オレ達を呼んでいるな。でもあいつスマホを忘れたのか」
第23話
「ん、、1時間のときは短いと思いましたが、倍になったらかなり長く感じますね。同じ場所を何回か探してしまいました」
「ところでおまえ、スマホはどうした?忘れたのか?わざわざ店内放送かけて」
「スマホはありますが、。なんとんなく・・・1度使ってみたかったんです」
「のこりはもう1時間だね」白熊ちゃんも相当疲れているようだ。目を見るとよくわかる
「とは言っても、思いつく場所はほぼまわったしなぁ」
「一応、ここの売場で買ってみて運だめししようかしら」
このイオンモールには一つ宝くじ売り場がある。その側にはオレが毎回利用する「D」の出入口にある。過去に連番2袋で600円を頂戴したことがある・・・
「当たりますように」と願掛けして機械に1枚だけ通してみたところ、やはりメーテルには運はなかった。
第24話
残り時間は60分か。発想の転換をしなければいけないか。
あぁ、もうどうにでもよくなってきた。これでオレの評判もガタ落ちだなぁ。
残り15分、10分、5分・・・時間は過ぎてゆく。
第25話
昨日のことを思い出していた。
コアラの通っているあの宝くじ売場に来ていた。相変わらずに閑散としている。
「連番で、3千円」
「はい、連番ですね。当たりますように」
「あれから、高額当選はありますか」
「あら、あのときの警察のひとやね。こんな鄙びた売場には大きいもの以外は滅多にだれも来ないわよ。常連といえばコアラさんと奥さんだけでしょ。まただれか当たんないかしら」
「最近はコアラさんご夫妻はくじを買いに来ますか」
「来ないわね」
「彼らは毎週毎週くじを買いにくるんですよね?」
「そうですよ。もう十年以上かもしれない。毎週連番で3千円買っていきます」
「なんで毎週毎週買いに来るでしょう」
「なんかね、子供を授かったんやけどね。気の毒に病気になってしまってね。いろんな治療を試したけど、駄目で。そのうちお金もなくなってきてね。とても、とてもお世話になっているご主人に、そんなことできる身でないけれど、最後の砦の思いでお願いに上がったのよ。でもね、けんもほろろでね。もう頼るつてもなくなってしまったんだて。そのときの話を聞くとね、わたしもいまでも涙涙で・・・・・いつもくじを買いに来て、少しずつ親しくなってね。でもいつも影があって、心からの笑顔を見たことがないわよ。どれが高額当選かわかるなら教えて上げたい。だからね、お子さんの治療費を出してあげられないから買いにくるんだと一度聞いたわよ。3億円が目標だって・・・きっとその金額が息子さんのために必要だったんやろうね。あの夫婦には「当たりますように!」と毎回真剣に祈っています。それしかわたしにはできそうにないから」
第26話
これまででおおよそのショップの並び、イメージは頭に入っている。
とりあえず歩く。3階だ。雑貨屋が並ぶ。客層は様々だ。ふと100円ショップが目についたので、賑やかなその雑貨のなかに埋まってゆく。売っていないものは何もないように思う。おもちゃの宝くじもありそうだな。目がチカチカする。こんなところに隠されたんじゃ、お手上げだ。だが奴はこんなとのには隠さないだろう。そんな気がする。
何気なく歩く、2階に降りてゼビオに入った。オークリーのサングラスを手にとってみるが、値札はついてなかった。
フードコートへやって来た。ハンバーガー、客が多すぎる。サーティワンは置く場所がない。そもそもここは以前使った場所だ。
ないか・・・
残りは15分。
気を落ち着けようと、フロアの真ん中に置いてある、背もたれのないソファに身を委ねた。ここはどこも禁煙だが、やめた煙草を吸いたくなってきた。ひと息ついて頭の中を整理したい。
そのときにオレの裏側に座った男から「ぶちおか?」と呼ばれた。
そうだ。オレはこいつに会うためにここに座ったのだ。
「そうだ。おまえは善人だな」
「これまで付き合ってくれて、礼を言う。おまえがいなかったらここまで順調に続かなかった」
「目標は達したか?」
「今日で終わりだ」
「それなら、全力でくじを見つける」
「がんばれよ」
「毎度毎度イオンモールだ。少しは捕まえてほしかったのだろ?」
「これで最後だ。俺が勝つ」
「駄目だ。オレには、それがどんな腐った奴であっても依頼主がいる。依頼主の意向は絶対だ。だからオレが勝つ」
「は、は。さすがだよ。あと10分だ。じゃあな、名探偵」
奴は席を外し去ってゆく、オレはその姿を追わない。それが礼儀だ。
第27話
どこに当たりくじを置く?奴はなんのために金を集める?亡くなった子の治療費だ。そのために宝くじ売り場に毎週通ってきた。
生きていたならば、子の年齢はどのくらいだろう?
たしか、宝くじ売り場の女性の話では10年ほど前から毎週、くじを買っていて男の子だったそうだ。
目先におもちゃ売場が見える。吸い寄せられるようにプラモデルコーナーへ向かう。
あれだ!
積まれたガンダムのプラモデルの、一番下の箱にくじが少しだけはみ出て見えていた。
見つけた!
しかし、オレの手は僅かにくじには届かなかった。
もう一度手を伸ばそうとした、その一瞬前に女性があのくじをつかみだした。
それは、悪女だった。
「ごめんね・・・やっぱりあげられない。わたしたちが三億円をもらう。三億円でやりたいことがあるの」
「どうやって換金する?」
「こんな手を使ってお金を貰っても、あの子が喜ばない。でも奴に返すのは絶対に納得いかない」
「目的はつめちゃんだったのよ」
「いざと思っても、それができそうもないの・・・わたしたちにはできないとわかったの」
第28話
これで何度目か。いつもながらに立派な豪邸だ。
今日は運試しにやって来た。
勝算はわからない
「おい、探偵!3億円の当たりくじは取り返したんだろうな」
「お久しぶりです。強運さん。きょうはあなたにとっては、何ものにも代えがたい素晴らしいモノをお持ちしました」
メタボが大きめの檻に布を被せ、そろりと部屋の中へとやって来た。
布を取り去ると「にゃー」と鳴いた。
猫のつめだった。
「つめを返せ!」
「あなたにとって、この子はどれだけの価値がありますか?場合によっては・・・・・・しますよ。真剣です」
「なんだ」
「5百万円だ。払いますか?」
「払う。どういうことだ?」
「1千万円です。払いますか?」
「払う」
「5千万円」
「ひとをおちょくるつもりか?」
「・・・・・払う」
「1億円!」
「払う・・・ふざけやがって」
「1億5千万円」
「・・・払う」
「2億円」
「・・・・・」
「2億円です!」
「払う!!」
「3億円では?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3億円・・・・・」
「これで最後です。あなたが今払うと言わなければ、もうこの子には会えなくなるでしょう」
「3億円」
「払う・・・」
「これで、あなたは3億円をとり戻しましたよ」
「ペテンだ・・・納得いかん!」
「いいですか、強運さん。あなたはその3億円で、あるお子さんを助けることができるかもしれないのです。小荒田さんと道子さんの子です。2人が懇願に来てもあなたは全く取り合わなかったそうですね。いまつめちゃんを助けたように、あなたしか健くんを助けてあげることができないのです」
「・・・・・・・・・」
強運はを3億円を夫婦へ渡した。
だが健くんは、その3日後に亡くなった。
第29話
日本海はすでに冬の装いで、波は荒れ、北風は強く月明かりもなく浜に入ろうとする者を拒もうとしているようだ。誰もおらず辺りには波と風の音しかしない。
一斗缶にたくさんの紙を燃やしている夫婦がいる。
それは、まるで亡くなってしまった大切な者への手向けのように燃え続けている。
エピローグ
「さてと、今回のくじは?当たってよ」
「どう?」
「わたしはお家がほしいから、一万円分買っちゃった」
「マスターは?」
「わたしは、高級バーボンが飲みたいので、それなりに買ったよ」
「ぶちおさんは?」
「ガンプラの箱の下」
「なにそれ?????」
完




