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2_第二話【その厄介な錠は俺が】

挿絵(By みてみん)


 その女は……。薄い笑いを浮かべたままで、嘆きや自棄に染まった周りの客たちを。ちゃんと意識して、されど何も言わずに、こちらのカウンター席の方に歩み寄り。

 椅子に座り、バーテンのドゥットに向かって。不思議に重く、そして。妙に綺麗な声色で、オーダーを出した。


「ドゥット。火酒をくれ。ストレートだぞ? ロックや水割りで薄めるな」


 なんだこいつ? 火酒のストレートを呑むだと? ありゃ、相当強い酒で。町の飲み自慢の男だって、タンブラー一杯で倒れるような強い酒なのに……。


 出てきたそれを、涼しい顔で飲んでやがる。こいつ……。


「シン。その様子だと、もう知っているな? 銀髪狩りがあった、先日な。やられた銀髪の民は百人じゃ効かねえよ。やってくれるもんだぜ、魔導師どもも……」


 あー、なんだそれ? ドゥットの奴、俺には一言も言わなかったけど、そんなことがあったのか最近。そりゃ、さっきみたいに。俺が安易に世を批評したら、ドゥットがキレもするわけだ。


「……ふん。みっともない奴らだ。弱者を狩らねば、自らの価値の自覚ができぬ。ゆえに奴らには価値がない。少なくとも、奴らが消した同胞の方が。遥かに価値は重たいさ。たとえ、失われた命が、魔的不能者の銀髪の民であってもな」


 やたらと艶っぽい深紅のルージュが引かれた唇を。少し歪めながらも、皮肉に笑う女。シンってドゥットは呼んでいたけど……。こいつあれか? 何する奴なんだ? 何をやらせても、おそらくは人並みを嘲笑えるほどできそうな奴には見える。


 頭がよさそうで、体躯がよくて、しかもスゲー綺麗な女。


「わかっているのなら話すぞ、シン。銀髪狩りに参加したのは、地魔導師団第八分隊。そして、それを指揮主導したのは……」

「デキルギシュ伯爵家の当主、ウドール・デキルギシュ」

「……そうだ。で、だ? やるのか? シン」

「ふん。当然だろうな。やられてしまったことに泣き寝入り。それは、最も再びの被害を呼び寄せる反応だ。私はそれを取りはしないさ」

「……デキルギシュ伯爵邸の。ある場所は知っているのか? シン」


 ドゥットの奴……。かつて俺が見たことがないくらいの、真剣な顔をしている。こいつにとって、ここは絶対譲れない時と、起こった事件。そういう部分を見過ごさない性質を、ドゥットが持っていることを。俺は初めて知ることになった。


「知っているさ。というよりも、今日はその下見の帰りなんだが……な。厄介なことになった。厄介なもので、門を封じているんだ。あの伯爵家は」

「? 何だってんだよ、それは。何のことを言っているんだ? シン?」


 そのドゥットの問いに、銀髪女は。カウンターに肘をつき、手のひらに顎を載せて、一言で言ったわけだ。


「物理シリンダーロック式で、三属性魔石による、破壊術式回路をのせた。物理魔導錠。そういうものだよ」


 ! あれか! 俺はその呼び名を聞いて。俺がそれの仕組みをよく知っていることを思い出した。盗賊ギルドでの、新情報通達会で。その厄介な錠前の、完全開錠の技がテキスト化された書類を。俺は以前に読んでいたんだ。まあ以前って言っても、最近のことだけど。


「……」


 俺が。二人の話に入ろうと、近づいた途端に。ドゥットは三角にとがった眼で俺を咎めるように睨み付け。シンという銀髪女は。


 薄く笑って、俺を見て。


「何か用なのか? 混血のサル? お前は盗賊に見えるが。何者かな?」


 と、俺に聞いて来るのだった。


「一応な。名乗らせてもらう。俺はロッツ。こう見えて、盗賊ギルドでは開錠の腕で相当名が売れてる男だ」

「ほう? それで?」

「ああ。もちろん報酬はもらう。だが、俺にやらせないか? その開錠の仕事をだ!」


 俺がそう言ってのけるとよ……、な?

銀髪の女は愉快気に声を上げて笑いやがった。馬鹿にされたのかな?


「お前、自信があるんだな? ならばいいぞ、お前に依頼する。何事も、だ。自分でやると言い出せる奴が失敗することは少ないからな。ことに、お前のような。自分に嘘がつけないタイプの奴はだよ」


 ……なんだよ、その評価は。恥ずかしくなるじゃないか。俺は。自分の心に、嘘ばっかついて生きてきたのに。なんで、初めて会ったこいつに。俺がそうありたかったことがわかるんだよ……。


*デキルギシュ伯爵邸・門前


「さて……。アレなんだが、な。見てくれ盗賊。うかつに触って吹っ飛ぶような奴ではないだろうからな、お前は」

「おう、任せとけよ! やるぜ、銀髪女!」


 さてっと。デキルギシュ家の馬鹿でけえ、高さもめっちゃある、分厚い正門。ここはどうやったって、ぶち抜けそうにない。まあ要するにだ。この正面に見える馬鹿でけえ装飾扉を、開けて入らざるを得ない。


 そして、あった。これが懸案の、物理魔導錠だな……、ふん。


「確かにだ。コイツは、あれだな。物理シリンダーロック式の、光炎爆裂魔導錠。使われているのは、高純度高品質の、光、炎、風の魔石。まあ、これ。爆発させたら洒落じゃ済まねえ。俺もお前も消し飛ぶぜ?」

「だからだ。外せ。爆発させずにだ。死にたくはないだろうに、盗賊?」

「はあ? そうだな、死にたくはねえが。このロッツさん、いがいと優秀なんだぜ? みてな、銀髪女!」


 ってわけで、勢いよく言っちまったし。約束の金貨一枚も欲しいんで。俺は励むことにした。

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