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1_第一話【銀髪の死神】


~霧に揺蕩う谷の向こう。その先にあるは魔導の国。魔導の都イオシスでは、六属性の精霊神の加護の下、六色の髪を持つ民が懸命に生き。豊かな世を謳歌していた。されど、この国には。もう一種の人々も生息していた。即ち……。一切の魔力を持たぬ、【銀髪の民】という人々が……~


1_第一話【銀髪の死神】


挿絵(By みてみん)


 なあ。なんだろうな。俺はロッツっていうんだけど。フルネーム? ロッツ・デボルドっていうんだぞ。まあ、そんなことどうでもいいさ。市井にあふれる、ただのケチな盗賊だしよ。


 ……でもまあ。笑ってくれていいぜ。俺もな、昔は。警吏とか教師とか。人の役に立つ仕事をしたかったんだ。でもまあ、無理なわけで。おれは、混血児なんだ。だから、さ。この魔導王国イオシスの国是は【魔導立国】なわけで。俺みたいな濁り物の、魔力の質が悪い奴はさ。国から相手になんてされないわけだ。


「さて……。と。今日も仕事だ。そうじゃないと食えやしねえ」


 ってわけだ。俺は盗賊で、盗賊ギルドにも所属してるんだけど。俺はここらの、盗賊ギルドの縄張りで、スリをしてもいいことになってる。飽くまで盗賊ギルドの縄張りの話で、まあ。警吏に捕まったら檻には叩き込まれるわけだけどな。


*枯れ木森の砦亭


「おーい、ドゥット! マスターさんよ! きたぜ、俺だ、ロッツだ。今日も安く酒を飲ませてくれよ?」


 まあ、手軽く街でスリを済ませて。俺の今の所持金は5000シードルあるわけだ。


「……おう、この天パ盗賊。来やがったか。おめえ、金持ってんのか? いくらうちが酒を安く出してるからって、タダってのはありえねえぞ?」

「わかってるっつの、ドゥット。ちゃんとあるぜ、金は」

「ふん。どうやって稼いだ? そいつは綺麗な金かよ?」

「ケッ。正気かよドゥット? どうやってこの国で、俺みたいな混血児が綺麗な金を稼げるよ? スッて来たに決まってんだろが!」


 俺がそう言い切ると。ドゥットのやつは爆笑しやがった。まあ当たり前だけどよ。


「はっはっは! ワリー奴だなロッツ! スリを生計にして当然って態度! おめー、死んだら地獄行き決定だよな? はっはっはっは!」


 うるせーな、ドゥットのやつ。テメーは銀髪の民で、この国では本来店なんか持てるわけねえ立場のくせに。賄賂と情報力でこの店を維持しているくせに。


「うるっせーな。いいからさっさと酒出せよ! 安魔導酒・ダークウォーカー出せって!」

「ああ、いいぜ。1500シードルだ。またボトルだろ?」

「ちゃんとグラスも貸せよ?」

「ああ。まあ、お前なら。瓶酒ラッパ飲みでも似合うと思うけどな」

「うるせー。俺は蛮人じゃないぞ」

「はは。まあ、よ。ゆっくり飲んでくれや。お前も客だ、楽しんでいきな」


 ドゥットのやつはそういうし。俺だって楽しむつもりで来てる。まあ、楽しむさ。ドライソーセージとスティックキュウリのセットが喰いたいところだけど。ドゥットの店は酒

は安いが、食いもんはぼったくり価格だ。どうしようかな?


* * *


 しっかし。この店には暗い客も来やがるなぁ……。

俺が楽しく酒飲んでるのに、隣の席で酒飲んで。やたらと愚痴ぶつぶつ言ながら、切れてる銀髪野郎とか。なんか茶色と金の混ざった変な髪色のやつが。別のテーブルでだけど、頭抱えて吠えてやがる。あーうるせー。


「よう、待たせたな。ドライソーセージとキュウリスティックな。はい、1000シードル。楽しんでるか? ロッツ」

「ソーセージとキュウリで1000シードルって……。相変わらず狂ってやがんなあ、この店の価格は。市場で買ったら、ソーセージは100シードルで買えるし、キュウリだったら一本50シードルだぞ?」

「おう、まあな。まあ、席代と手間賃ってやつだ」

「鬼かよてめえは……。原価率ひっくいなぁ……」


* * *


「でよ。ドゥットさんよ」

「んだよ? ロッツ。なんかイヤーな顔してやがるなぁ……」


 俺が、カウンター席に座りなおして。まあなんつーか、結構話が面白いドゥットと話そうとすると。まあ、いつものようにいやな顔するドゥット。こいつ、なんつーか。生きるための手段と技術はくそ高いくせに。なんかいつもそれを嫌がってそうなんだよな。


「いや、だからよドゥット。この国よ、イオシスだけど。これでいいわけねえよな?」

「……この天パモンキー野郎。そいつを言うな。確かに俺たちは国の制度で苦しんではいるが……な? こんなもんをどうにかしようとすると、やられちまうぞ? 国のシステムにな」

「そりゃーよ……、そうだろうけどよ。あのな、この前。俺の下宿の外で、ガキが居やがったんだ。なんかよ、ずっとなんも食ってねえみたいで。地面に寝っ転がって、空をぽかんと見て。口元が笑ってやがる。あいつ、髪の色からして混血児だったけど……。いいのかよ? ドゥット? 俺たちみたいにしぶとくなる前に、ああいうガキが壊れちまうような世の中。正義とか悪じゃなく。破綻してやがるだろ?」

「……うるせえんだよ、この混血児! 殺されてぇのかてめえ? お前ら混血児程度が地獄を口に出すんじゃねえぞ? なあ? お前知ってるか? 俺ら銀髪の民はな? まあ、正式には法的な根拠はねえんだけど、な? あの忌まわしい【銀髪狩り】で魔導師連中に、大笑いされながら狩られる立場だぞ? 混血児にそれはねえし、お前らには人権がある。銀髪の民には、人権なんてものはねえ。地獄の深度の違い、分かったかよ? この混血盗賊が!」


 ドゥットのやつ。何があきらめろだ、何がシステムに触れるなだ。こいつ、誰よりも怒

り狂ってるじゃねえかよ……。


 と、そこで。新しい客が、撥ね扉を開けて入ってきた。

何の気なしに、そっちを向いた俺は、

 息を吞んだ。


 白革のロングコートを着た、とんでもなく背の高い女。その髪の色は銀色で。あんな色なのに、俺の目には。たとえようもなく美しく見えて。

 その女の切れ長の眼は。怒っているのか悲しんでいるのが、でなければ。皮肉さの極みを受けて。


 この世を嘲笑っているのか……。何とも言えない光を放っていた。



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