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8. 切なさに沈む







「ね、ねえ先輩」




「どうした後輩」




「やっぱり……近いです。離れてください」




「む?ここは距離を詰める演出ではなかったか?」




「そ……そうなんですけど」




「そうだよ〜後輩ちゃん。だってあんた達は王子様とお姫様。二人共愛し合ってるんだから」




「ぅぐ……」




「おい後輩、本当に大丈夫か?また顔が赤いぞ?やはりこの前から体調が悪いんじゃないか?」




「だ、大丈夫ですよ…」




「うっふふ。じゃあ続きね〜。王子様はもっとお姫様を見つめて〜」




「え……」




「む?……こうか?」




「ちょ、あう……せ、せんぱ……」




「おいおい……後輩ちゃん可愛過ぎかよ……。完全に恋する乙女じゃねえか」




「うん?部長?何か言ったか?」




「王子様はもっと顔近い方が恋人感出ていいと思うよ〜って」




「…うむ、そうか。では……」




「あぅ……あ、くぅ……ぁ、うぅ……」




「こらもうMK5だわ。マジでキスする五秒前」




「ぶ、ぶちょ……?」




「あ、お姫様は目を逸らしたらダメだよ?だって恋人同士なんだよ?」




「ぅ……」




「後輩?やはり熱があるんじゃないか?顔が真っ赤だぞ?」




「だ、ぃじょうぶ、です……よ?」




「まあ熱みてえなもんだよな恋なんてよ。あ〜、後輩ちゃん可愛いな〜」




「ぬ?また何か言ったか?」




「凄くいい感じだね〜って。このままの雰囲気で行こう。はい、じゃあ一回休憩〜」






「ね、後輩ちゃん?」




「……何ですか部長」




「あら〜?ぶすくれちゃってどうしたの?もう可愛いな〜君は」




「っ!や、止めてください!それに、可愛くなんてありません!」




「ああ、もう、可愛いなぁ。ごめんごめん、怒んないでよ」




「……別に、怒ってなんかないです」




「などと言いつつ、唇を尖らせる可愛い後輩ちゃんなのでした〜ってね」




「っ!もう!何の用事ですか!?」




「うん、そうそう。あのさ、後輩ちゃん。単刀直入に聞いていい?」




「…はい何でしょう?」




「ぶっちゃけ後輩ちゃんってさ、先輩くんのこと、好きでしょ」




「っ……!?好っ……な、何を言ってるんですか!?」




「あら初々しい。まるで恋する乙女ね〜」




「ちが……そ、そんな……そんなわけ……」




「う〜ん……もうその反応が答えなんだけどさ。いや〜、いいヒロインしてるわね〜」




「ひ……ボクは、ヒロインなんかじゃ……」




「ヒロインでしょ?文化祭の劇のお姫様だもの」




「そ……れは、そうですけど……」




「そうよ〜。可愛い可愛いプリンセス」




「……もう、からかわないでくださいよ」




「ありゃ、バレた?」




「そりゃ分かりますよ。いつも可愛い可愛いって。ボクは可愛いよりも…」




「あ、格好良くなりたいってやつ?入部の時に言ってた」




「え……お、覚えてるんですか?」




「そりゃあ覚えてるよ。目ぇキラッキラさせながら先輩に憧れて入部しました!って。あん時からめっちゃ可愛らしいなって思ってたもん」




「忘れてくださいよ、そんな前のこと……」




「いや〜、難しいなぁ。一年の最初の演劇で、町娘役になった時の泣きそうな子犬みたいな表情とか、最高に可愛かったよ?」




「だからっ……もう!」




「あ〜、拗ねちゃった」




「今は!怒ってます!」




「おっと……やり過ぎちゃったか。ごめんね〜」




「誠意が感じられません!許しませんよ!」




「う〜ん……怒ってても可愛い…」




「そっ……!……はぁ、もう、いいです」




「え、許してくれる?やった〜」




「許してませんよ。諦めただけです」




「それは実質許されたようなもんね〜」




「……はぁ、もう部長には敵いません」




「ん?なんか言った?」




「いえ……ねえ、部長」




「ん?なぁに?」




「やっぱり、今回のお姫様役は、部長が相応しいと思うんです」




「……へ?何で?」




「だって、部長は凄い人ですから」




「私が凄いと、お姫様役に相応しいの?」




「ええ、そうですね」




「…あれ〜?もしかして先輩くんが乗り移った?理由がよく分かんないんだけど」




「そんな訳ないじゃないですか。……ただ、先輩の隣は、部長が相応しいですねって」




「え?……ごめん声が小さくて聞こえなかった。なんて?」




「ちょっとボク、お手洗いに行って来ますって」




「あ、そう?いってらっしゃい?」




「はい、いってきます」






「後輩ちゃん、トイレだってさ〜」




「そうか……少し、顔色が優れなかったように思うが、大丈夫だろうか」




「え〜?話してた感じそうは見えなかったよ?」




「そうか?……うぅむ、しかし……」




「も〜、心配し過ぎ。後輩ちゃんのこと気にし過ぎだぞ?」




「……ああ、そうかもな」




「その数秒の沈黙のガチ感が堪らないわね」




「?何かおかしかったか?」




「全然〜。こんなに大事に愛されてる後輩ちゃんがちょっと羨ましいな〜って思っただけ」




「ああ、そうだな。後輩は大事な相棒だからな」




「おお……いいね」




「……?さっきから何なんだ?」




「ああ、いやいや……あんたに関しちゃ、聞くだけでこっちが恥ずかしくなる答えが帰ってきそうだから大丈夫」




「何が大丈夫なんだ?分かるように話してはくれないか?」




「あんたはそのまま真っ直ぐで居ろよ。あたしゃ、応援してるからさ」




「よく分からないが……まあ、応援感謝する」




「は〜、あっついあつい。この鈍感共がよ〜」




「いや、何の話だ?」




「いや〜、青春て鈍感力の産物よね〜」








「……」




先輩と部長が、楽しそうに笑い合っていた。


普段は見せてくれない柔らかい表情で。


部長といる時にだけ見せる、想い人を思う表情で。




……やっぱり。


先輩の隣にいるのは、ボクじゃなくて部長なんだ。


舞台の上でだけ、お姫様として隣に立てても――現実では、無理なんだ。




ボクはただの後輩で、可愛いなんてからかわれるだけの子供で。


そう考えると、痛いくらいに胸が苦しい。


泣きそうなほど切ない。


お腹の辺りが、ずんと鉛のように重くなる。




――やっぱり、ボクは諦めた方がいいのかな。



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