4.ポテチが転じて頬染まる
「ねえ先輩」
「どうした後輩」
「暇だからって雑誌を色ごとに並べるのやめてください」
「む? 色彩の調和は大事だろう。赤、青、黄……ほら、虹色だ」
「美術館じゃないんですから。ここはコンビニですよ」
「だが芸術は日常にこそ溶け込み、彩りを加えるべきだ」
「言いたいことは分からなくもないですが……また店長に怒られますよ」
「む、それはよろしくないな……ではポテチを味ごとに並べるか」
「どんなイメージで並べるんですか?」
「良いことを聞いてくれた。流石は後輩だ」
「はあ……恐縮です」
「これは、ポテチ家の一家団欒だ」
「はあ?ポテチの家族?」
「そうだ。まずはうすしお、これは父だな」
「渋いけど優しい父親ですね?」
「その通り! そしてコンソメパンチは母」
「どうして母親なんですか?」
「包容力があるだろう?」
「全く分かりませんので、ドヤ顔されても困ります」
「そして、こちらののり塩。彼は長男だ。落ち着いて見えて、実は一番やんちゃ」
「やんちゃですか?あまりそんなイメージありませんね」
「うむ袋を開けると手にベタベタ付く。あれはいたずら好きの証だ」
「他の家族もおおよそ似たようなイメージなので、全員もれなくいたずら好きになりますね」
「……はっはっは!」
「二の次が告げなくなって、笑って誤魔化すのはやめてください」
「気を取り直して、サワークリームオニオン。ちょっとツンデレ気味の長女だ」
「ポテチにツンデレとかあるんですね」
「ああ、不思議だろう?」
「ええ、先輩の頭の中が」
「ツンデレサワークリームオニオンは、一口目はとても刺激的」
「ツンデレサワークリームオニオンはパワーワードが過ぎませんか?」
「しかし、食べ進める内にだんだんと癖になる癖になる。それはまるで――」
「それはまるで?」
「恋だ」
「…………」
「おや後輩、黙ったな?」
「いや、急にイケメンぶるのやめてもらえます?」
「ぶるではない。これは真実だ」
「雑誌を虹色に並べてた人と同一人物の発言だとは思えませんね」
「後輩よ。物には表と裏があるように、見ている角度によって見え方が変わるものなのだよ」
「ポテチはどの角度から見てもポテチですけどね」
「うむ、美味しそうだな。では早速並び替えを始めよう」
「それも店長に怒られますよ」
「なら、レジ横の唐揚げ棒を身長順に並べよう」
「食品に人格与えるの、流行ってるんですか?」
「お次はアルフォートとキットカットを戦わせるとするか」
「遂にお菓子がバトルを始めましたね」
「昨今の甘味界は長らく飽和状態が続いている。その緩やかな日常に突如現れる新生。そして始まる甘味界の覇権争い……見ものだとは思わないか?」
「そんな歴史絵巻は存在しません」
「後輩よ、すべての物にはドラマがあるのだ」
「コンビニの商品で勝手に脚本作らないでください」
「ふっ……脚本というのは、作られるものじゃない。舞台というものは日常から常に存在するものだ」
「へーそりゃあすごい」
「つまり、脚本とは、初めからそこに存在しているものなのだよ。分かるかな?後輩よ」
「あ、雑誌の陳列直しておきますね」
「いっつそーくーる。これもまた、日常であり、舞台である」
「一人語りは大丈夫なので、陳列直すの手伝ってもらえます?」
「了解した。して後輩よ」
「今度は何です?」
「好きな人はいるか?」
「ごっ…………だ、れがですか?」
「話の流れ的に後輩に、だろ?」
「ちょっと待って下さい。どうして急にそんなことを」
「いや、ふと思ってな。古今東西様々な舞台が存在するが、恋愛とはその中でも多く取り扱われる題材である。演劇部所属である我々も、一度は経験してみるのも良いのでないかと思ったのだ」
「いやそんな授業みたいなノリで聞かれても困惑するんですが……」
「因みに私はいるぞ」
「−−−−−−え」
「相手は、秘密だ。……ふふっ」
「ひ、秘密って……そ、それって……」
先輩は何も言わず、ただ悪戯っぽく笑った。
――ずるい。
そんな笑顔を見せられたら、ボクの心臓なんて簡単に崩壊してしまう。