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3.配置は芸術





「ねえ先輩」




「どうした後輩」




「おにぎりが納品しました。補充しましょう」




「む、確かに。だが後輩、補充にも順番というものがある」




「順番ですか……?」




「ツナマヨは王者。舞台の主役だ。よってスポットライトの当たる最前列中央」




「じゃあこの昆布は?」




「右側準レギュラー。丁度良い脇役といった所かな?」




「梅は?」




「古参ベテランなので左の端に控えてもらおう。舞台の雰囲気を程よく演出してもらうのだ」




「良い様に言ってますけど、扱いが雑すぎませんか?」




「違うぞ後輩、これは配置芸術なのだ。味と歴史と風格を並べる、その所作こそ店員の嗜み」




「嗜みじゃなくてただの先輩の趣味ですよね……」




くだらない。ほんとうにくだらない。


だけど、こんなやり取りが日常になっていた。




そのとき――。




「……お〜、いつもの仲良しさんだ、二人とも」




柔らかな声に振り返ると、そこに立っていたのはボクらが所属する演劇部の部長。


眠たげな垂れ目がちに笑みを浮かべ、肩の力が抜けた雰囲気の人。




「部長。どうしてここに」




「近くを通ったし、あんた達の顔を見よっかなって。ついでについでに差し入れ~」




そう言って部長はカウンターに紙袋を置いた。中にはペットボトルのジュースが数本。




「ありがたい。部長は気配りも舞台映えしてるな」




「ん〜?……意味分かんない。そういう持ち上げ方するの、あんたくらいだよ、先輩くん」




「恐悦至極」




「いや、褒めてる訳じゃないんだけどね〜」




先輩と部長がゆるく掛け合う。


その光景に、胸が少しざわついた。




――先輩はボクだけにこうやってふざけてくれるわけじゃない。


誰にでも自然体で、格好良くて。


そういうところが、好きで、でも不安にもなる。




「……で、そっちの後輩ちゃん」


部長の垂れ目がふわっと細くなり、僕に向けられる。




「は、はいっ!」




「ほんと可愛いよねぇ。ちょっとずるいくらい」




「へっ!? か、可……!?」




顔が一気に熱くなる。思わず先輩の方を見れば――。




「ああ、確かに。可愛いよな」




「……っっ!!!」




ぽかんとするボクをよそに、先輩はいつも通り淡々とした顔。


まるで「今日の天気は雨」くらいの感覚で言ってのけた。




「ね? やっぱりそう思うでしょ?」


にやにやと笑う部長。




……もうやめてください。本当に心臓に悪いです。




「可愛い」なんて。


小さいころからずっと、嫌だった言葉。


ボクは可愛いより、憧れている先輩の様に、格好いいって言われたかったし、そう思われたくて背伸びもしてきた。




それなのに。




先輩の口から出てくると、不思議と嫌じゃなくなる。


むしろ、胸の奥が熱くなって、呼吸まで苦しくなる。




……だめだ。


本当にだめだ。


ボクは、先輩にとってただの「可愛い後輩」でしかないのに。




それ以上になんて、なれるはずがないのに。


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