表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

16.幕が上がる






「なあ、後輩」


「はい、先輩」


「……いよいよだな」



「はい……そうですね。でも、見て下さい。手が震えて止まらなくて」




「ふむ……。普段冷静な後輩がここまで緊張しているのを見るのは、初めてだな」




「そりゃあ緊張しますよ。今回の舞台は色々ありましたから」




「うむ。まあ直接舞台に関係ないが、色々あったな」




「ええ…まあ、そうですけどね」




「はっはっは、これまた珍しいな。後輩が私にツッコミをさせるだなんて」




「うぐっ……はい、それだけ緊張してるってことですよーだ」




「大丈夫だ。緊張しているのは皆同じさ」




「先輩は……緊張してないんですか?」




「している。だが、それも舞台の一部だ」




「……そんな風に言えるの、やっぱり凄いです」




「後輩、君もだ。ここまでやって来たのだから」




「……」




「怖いか?」




「……はい」




「失敗しても構わない。君となら乗り越えられる」




「……先輩」




「うむ、手の震えも収まったな」




「え……あ、本当だ」




「行こう、幕が上がるぞ」




「はい、行きましょう。先輩」








「あ〜らららららぁ……見せつけてくれちゃって。部長さんはもう泣いちゃいそう」




「頑張んなよね〜、お二人さん」








「――『姫よ、必ずや私が守ろう』」




先輩の声が、いつも以上に力強く響く。


先輩のこの何処までも響き渡るような強い声と、会場を丸ごと飲み込むような存在感にこの劇を見ている皆が、固唾を飲んで注目する。


観客席のざわめきは一瞬で消えていた。


そう、この姿だ。


ボクが、先輩を初めて見た姿だ。


約二年前。強くて熱烈なこの先輩に、憧れた。


絶対にこの人の隣に立ちたいと、どうしようもなく思う程に、強く。




――思えば、ボクは。


その頃から先輩のことが、好きだったのだろう。


一目惚れ……ってやつだったんだ。




それから、ずっと、今も、そしてこれからも。


ボクは、先輩のことが好きだ。




「……『王子様、私……本当は……』」




そう思ったボクの口から、ふと、台本には無い台詞が口から零れた。


心臓が早鐘を打つ。何をしているんだろうか。これはよくない。ちゃんと、台本通りに話さなきゃ。


しかし、そう思っていても、ボクの唇は動き続ける。喉が、声を発する。もう止められない。




――止めたく、ない。




「『王子様のことを、心から……愛しています』」




会場が、息を呑んだ。


視界の端で、全ての観客が、先輩からボクに注目を移したことを、認識していた。


それでも、ボクの意識は、先輩から離れない。


離さない。




「……っ」




先輩の瞳が揺れる。動揺しているのだろう。いきなりアドリブを挟んだのだから、当然だ。


ごめんなさい。申し訳ない気持ちで、胸がチクリと痛み出す。


しかし、先輩はすぐにこの痛みを取り払ってくれるかのように、力強く、そして真っ直ぐに見返してきた。




「『姫よ。私は、お前を失いたくない。誰よりも大切だ。……愛している』」




台詞――いや、違う。


同じだ。今さっきのボクと。


これは先輩のアドリブ。先輩の本当の声だ。


ボクは、しばし固まった後に、はっとして台詞の続きを口にする。




舞台の上、観客のどよめきが広がっていく。


そうして、舞台はもう直ぐに幕を下ろす。


スポットライトが、少しずつ光量を小さくしていく。


少しずつ薄暗くなる中、先輩は観客に見えない角度で……ボクにだけ見える角度で、微笑んだ。




「悪い子だな。後輩」




「すみません……でも、先輩もアドリブしてましたよね」




「……そうだな。だが、嘘は言っていない」




「……っ」




「幕が下りてからも……答えを聞かせてくれるか?」




「……はい」




照明が落ち、幕が閉じる。


けれど、ボクの胸の中では――幕なんて、もう下りていなかった。








「……いや、あいつらイチャイチャし過ぎじゃない?何あの甘ったる〜い空気。……うわ、二人の演技力と合わさってメチャクチャエモくなったせいで、観客が大号泣しとる……。これ、ただの高校の文化祭なの、分かってんのかな?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ