11.隠せぬ心
「後輩よ」
「はい先輩」
「もう一度、今のシーンだ」
「……はい」
「――『姫よ、どうか希望を捨てないでほしい』」
「…………はい」
「……後輩」
「なんですか先輩」
「いや……笑っていないように見えるが、気のせいか?」
「笑ってますよ。ちゃんと」
「……そうか?」
「笑ってますよ」
「……」
「ね、後輩ちゃん」
「はい、部長」
「もう一回、今のとこ笑顔でやってみて?」
「……笑ってますよ」
「……でもさ、後輩ちゃん」
「……ボクは、笑ってます」
「…………ちょ、ちょっと休憩にしようか?」
「大丈夫です、やれます」
「いや、でもね。後輩ちゃんも今日はずっと同じシーンばっかりやってるからさ。そろそろ疲れてきちゃってるのかな〜って、ね?」
「大丈夫です。疲れてなんかいません」
「いや……う〜ん……ね、後輩ちゃん、無理は駄目よ?」
「無理なんて……してませんよ」
「いや、顔色がな……。後輩、疲れているんじゃないか?ほら、この前も体調を崩しただろう?」
「違います。ボクは大丈夫です」
「……う〜ん」
「……」
「……」
――笑ってる。
ボクはちゃんと笑ってる。……はずなのに。
鏡で確かめても、口角は上がってる。目尻も下がっている。笑顔の形は作れている。
先輩も部長も、みんな「笑えてない」って言う。
……どうして。
どうして笑えないんだ、ボク。
ちょっと前までは出来てたのに。
先輩の前で笑うと、胸が苦しくても、無理矢理にでも笑えたのに。
今はもう、顔が動かない。
「大丈夫」って言うしかなくて。
「笑ってる」って言い張るしかなくて。
こんなんじゃ――
お姫様どころか、ただの欠陥役者だ。
先輩の隣に立つ資格なんて、無い。
どうして、ボクは……。何で。
「なあ、後輩」
「なんですか」
「……いや、何でもない」
「……」
「うわ……やっべぇ。どうすんのこれ。どうなんのよこれ」
「……先輩くん」
「ん、どうした部長」
「ちょっと話ある。――真面目なやつ」
「分かった。どうした?」
「……あんた、後輩ちゃんのこと気付いてる?」
「……?どういう意味だ?」
「気付いてねえのかよっ!」
「な、何だ急に」
「笑えてないだろ! 昨日からずっと! 顔色だって悪いし、無理してるの見りゃ分かるじゃん!」
「……! だが、後輩は大丈夫だと言って――」
「“大丈夫”なんて言葉に頼ってんじゃねえよ!」
「お、おい、部長?肩が痛いんだが」
「そんな場合じゃないだろ!もっと後輩ちゃんのことしっかり見てやれよ!このままじゃあの子、潰れちゃうぞ!」
「いや、だが……」
「だがもだがしもないの!あんたが一番に、気付いてやんなきゃ駄目だろ!」
「……しかしだな、後輩は大丈夫だと……」
「だからさぁ!ほんっとにあんた鈍感にも程があるって!」
「…?今、扉の音が……」
「何?こんな時に何を見て……え」
「……っ、あ」
「後輩……?」
「…………」