10. 隠せる想い
「ねえ、後輩ちゃん」
「はい部長」
「ちょっと止めて〜」
「……すみません。またボクですか」
「いや、別に悪くはないのよ?悪くはないんだけどさ」
「昨日もずっとその話をしていましたけど、分からないんですよね…。どう変化を付ければいいんでしょうか?」
「そう、昨日から同じとこで悪いんだけどさ。後輩ちゃん、あんまり気持ちが乗ってないっていうか」
「えっ……そんなこと」
「確かに今日は昨日よりも演技は冴えてる。でも……温度が低いのよ」
「温度……?」
「そう。先輩くんが100で真っ直ぐ来てるのに、後輩ちゃんが70くらいで止まってる感じ」
「その温度差を何とかしようとして、先輩くんもちょっと空回り気味になって来てるんだよね〜」
「うぐ……すまん」
「いえ、ボクのせいですから。むしろ足を引っ張ってすみません」
「別に責めてるわけじゃないよ? ただ、このままだと二人のシーンが噛み合わないんだよな〜」
「後輩」
「……はい」
「自分ではどう思う?何か心当たりは?」
「ボクは……普通にやってるつもりです。昨日よりも落ち着いて出来てると思うんですけど」
「落ち着いているか?」
「……落ち着けていませんか?」
「いや……。どうだろうか。やはり違和感は残っているな」
「うぅ〜ん……私もなんかモヤモヤするんだよねぇ」
「……すみません。ボクのせいで」
「いや違う。後輩のせいではない」
「そうそう!謝る必要はないの。もうちょいこっちでうまいこと伝えられるように考えるからさ」
「……」
「うん、でも……やっぱり後輩ちゃん、少し無理してない?」
「っ……そんなこと、ないです」
「そっか。とりあえずもう一回、頭から合わせてみようか」
「……お願い、します」
――部長の言う通りだ。
ボクは“普通”にやってるつもりでも、きっと全部伝わってしまってる。
胸の奥に隠そうとした気持ちが、表情に、声に、滲み出してしまってるんだ。
でも、それを悟られたくない。
気付かれたら、きっと全部が壊れてしまうから。
……平気なフリをしなきゃ。
笑って、取り繕って。
先輩の隣に居続けるために。
もっと、上手く隠さなきゃ。
部長にも、先輩にも、気付かれないように。
演技をするんだ。
隣に並ぶ為に始めた努力を。隣にずっと居る為の努力を。