6.なんか不穏な歓迎会
私は「会社の飲み会」が苦手だ。
会社の人間と飲むのが嫌だから、というわけではない。
理由は、単純に料理もお酒も微妙だから。予算が決まっているせいで、そんなに良いお店には行けず、薄い酒と硬いポテトと薄いお刺身をつつく……というお決まりが嫌なんだよね。
だから今夜の歓迎会も、嬉しいけどあまり気乗りしないというのが本心だった。
定時になり、黒川さんを含めた秘書室のメンバーでお店に向かった。
そして、到着したお店の前で、私は絶句した。
(室長が予約をしたって聞いたから、確かにちょっと期待してたけど……こ、これは……!)
後ろをちょこちょこ着いてきていた橘さんが小首を傾げる。
「先輩、どうしたんですか?」
「こ、ここ、ずっと前から気になってた鳥料理の居酒屋なんですよ!リーズナブルなのに全メニュー国産の鳥を使っていて、名物の唐揚げはコンテストで日本一にもなってて!あと、ちょっと珍しいけど胸肉を使ったチキン南蛮も有名で――。」
(……あ。)
橘さん、またちっちゃくなっちゃった。
「……っていうか、早く入らない?俺そんなの聞いたらお腹空いちゃったよ。」
後ろから追いついてきた黒川さんのフォローがありがたい。
「そっ、そうですね!た、楽しみ……あはは……。」
フォローしてもらったものの、恥ずかしくなり小走りで店の中に入った。
「「「かんぱーい!!」」」
グラスがぶつかる音が、賑やかな店内に響く。
乾杯が終わると、各々近くのメンバーと話し始めた。
私も早速、キンキンに冷えたハイボールを一口飲む……。
「……おいし……。」
「あはは、春原さんめっちゃ美味しそうに飲むね。」
「はは……。黒川さんは飲まれないんですか?」
黒川さんが持っていたのはウーロン茶のグラスだった。
「うん。俺は飲めないからねー。食べるの専門だから。」
そう言うと、ちょうど運ばれてきた手羽先のから揚げを一つ掴む。
(ガタイが良いから、なんか小さく見えて面白いな……。)
すると躊躇なく関節部分を折り曲げ骨を取り出し、肉にかぶりつく。
豪快なのに、すごく綺麗な食べ方だ。
(静かな感じの人だけど、さっきもフォローしてくれたり、ギャップのある人だなー。)
私も、ずっと食べたかったから揚げにかぶりつく。
厚みのあるもも肉は、醤油とニンニク、あとしょうがの香りがガツンと来る。
そして熱い肉汁があふれた口に、冷たいハイボールを流し込む……。
(ぴゃ~~~~~!!おいし~~~~!!!)
大したことない話をしながら、食べたいものと飲みたいものを存分に楽しんでいたら、いつの間にか2時間経とうとしていた。
お腹も満たされ、ほろ酔いで気分が良い。それにみんなとも少し打ち解けてきた気がする……。
「じゃあ紬ちゃん。最後に一言挨拶お願いできる?」
「はい。えーと、今日は楽しい歓迎会をありがとうございました!改めて、これからどうぞよろしくお願いします!」
「拍手~!さて、今日から紬ちゃんは私に代わって副社長の専属となりました。でも、これまで通りチーム全員で副社長をサポートしていきましょうね!」
みんながパチパチと拍手をくれる中、一人だけ違う反応をした。
それまで笑顔で挨拶を聞いてくれていた橘さんが、真顔で固まっている。
しかしそれも一瞬で、慌てて表情を取り繕い、みんなと一緒に拍手をしている。
(橘さん……副社長のこと好きみたいだったしな……。)
どうしよう、と視線を彷徨わせると、室長と目が合った。
困ったように笑い、首を振る。
(放っておいて、ってことか……。)
店を出ると、そのまま解散となったのだが、私だけ線が違う関係で一人逆方向となった。
「おつかれさまでした~!また明日~!」
さて帰るか……と振り返ると、室長が居た。
「紬ちゃん。ちょっと二軒目、行かない?」
夜はまだ終わらなさそうだ。