30.おかしいのって……ボク?(湊side)
「散々人に惚れられて文句を言ってたあなたが、好きな人ができた途端これですか?」
腰に手を当てた室長が、冷たい目で見下ろす。
「ち、ちゃうって……!」
思わず大声を上げてから、ボクは慌てて周囲を見渡す。
春原さんはさっき部屋を出たわけやし、もちろん誰もおらん。
異変といったら、机に突っ伏しまくったせいで、髪もぐちゃぐちゃになったイケメンがガラスに映ってたくらい。
「……ってか、郵便物なんか無いでしょ。もう出て行ってくださいよ。仕事もあるし。」
「あら、私も仕事で来てるんですよ~?」
にこにこしながら、室長が勝手にソファに腰を下ろす。
滅多にないけど、このモードに入った室長はほんまに怖い。
話が始まる前から、ボクは既に自分の敗北を悟っていた。
「……で?惚れてるんですね?紬ちゃんに。」
「違うって言うてるやないですか……。」
「じゃあ最近の態度はなんです?彼女が関わるだけでソワソワキョロキョロ……中学生でももうちょっとしっかりしてますよ?」
「…………」
「はい、沈黙。認めた。」
「あ”あ”あ”あ”!!」
思わず頭をかきむしる。ああ、男前が台無しや……。
そんなボクの様子を見て、何が面白いのか室長がくすくす笑う。
「別にいいじゃないですか。好きなんでしょう?紬ちゃんのこと。」
「だからそれが”好き”なんか分からへんって言うてるんですよ……。」
「ふむ。」
「なんかこう、無意識に目で追ってしまうというか……笑ってると嬉しくなるというか……。でも!そういうのって別に、好きってわけじゃ」
「それ、恋ですよ。」
「決めつけんといてもらえます!?」
室長がクッションを抱えながらため息をつく。
「副社長……私、これで社内の色恋沙汰、何件も見届けてきたんですよ。好きでもない秘書のことで、1日に3回も机に突っ伏してた副社長は初めてです。」
「……やっぱおかしいですよね、ボク。」
「ええ。ようやく自覚してくれてうれしいです。」
「どうしたらいいんでしょうか。」
「そのまま真っ直ぐいけばいいんですよ。好きになったこと、別に恥ずかしいことじゃないんですから。」
そう言って室長が立ち上がる。
いつの間にか、ボクは真面目に話を聞いてしまっていた。
「ただし!!」
「はいっ!」
急に大きい声で室長がこちらを睨む。びっくりしてボクも大きい声で返事してしまった。
「これ以上紬ちゃんのお仕事を邪魔するようなら、また"お話"しにいきますからね。」
「……はい。」
ドアを閉める前、室長がふっと笑った。
「応援してますよ、副社長。」
一度認めるとすごくしっくり来た。……来てしまった。
(……ああもう、やっぱり。)
完全に、恋してもうてるんやろうなあ。




