26.副社長、それ勘違いです。
前半は湊side、後半は小田室長sideです。
「失礼します。」
用事を終えた春原さんが部屋から出ていく。
一人になった瞬間、思わずため息が漏れた。
(……なんか、ポンコツになってもうた。)
この数か月は完璧だったのに、最近は小さなミスが目立つ。
普段の彼女なら絶対やらないような、"うっかり"が多い。
ミスを指摘すると一瞬何か言いたげな顔をするけど、すぐに謝罪をするだけ。
――恋は盲目っていうし、ボクへの片思いを続けてしんどくなってきたんやろうか。
この子も、やっぱり今までの秘書たちと一緒やったんかな。
もう一度、深くため息をついてから、呼び出しブザーのボタンを押した。
「失礼します~。すみません、春原さんはお昼なので私が対応しますね~。」
ノックの後、小田室長が部屋に入ってきた。
「うん、予定表見てたから知ってる。実は、室長に相談があって。」
「まあ。どうされましたか?」
「……春原さんを、担当から外してほしい。」
スッと、室長の笑顔が消えた。
「……理由を伺ってもよろしいですか?」
珍しい。今までなら、何も言わず察してくれていたのに。
(改めて言うのも、恥ずかしいけど……。)
「春原さんも、やっぱりボクに惚れてもうてる。最近の様子もなんかおかしいし……。」
「んー……。」
室長が首を傾げて唸る。そして何か言いたげな顔をしている、気がする。
「室長も気付いてたか。まあボク相手やと、惚れへんのも無理ない――」
「違いますよ~。」
「え?」
いつになくきっぱり言われて、思わず声が裏返った。
「紬ちゃん……春原さんは、副社長に惚れてなんていませんよ?」
ポカンと口を開けたまま動けないボクを放置して、室長は話し始めた――。
*
数日前、珍しく紬ちゃんからランチのお誘いが来た。
(社員食堂じゃなくて外のお店、ってことはやっぱり何か相談ね。)
「副社長が、なんか変なんですよね……。」
「あら……。」
(今に始まったことじゃないような……とは言えないけど。)
そこから聞いた話は、今まで彼を見ていた私からすると驚きの連続だった。
あの副社長が、まるで紬ちゃんに執着しているような言動を繰り返している。
もちろん、彼女の話を鵜呑みにするわけじゃないけど――。
(でも、この心底うんざりした顔が演技だったら、私はもう誰も信じられないわ……。)
もちろん、全部そのまま話すわけにはいかないので、副社長にはこう伝えることにした。
「春原さんが"副社長の様子に困惑していて、調子が狂ってしまう"と相談を受けていた」と。
「……それと、彼女のミスについては私の落ち度です。申し訳ありません。」
黒川くんから上がってきた、もう一個の問題に関しては、もうすぐ片がつく。
それまでは余計な波風は立てたくない。
「ぼ、ボクが?おかしい?いやいや、このボクがそんなわけないし……。」
図星だったようで、仕事のミスの話はもうどうでも良さそう。
「とにかく、彼女は一切その気はないので、ご安心ください。では~。」
反論させる前にささっと部屋を出た。
――まったく、困ったわね。
(あんなの、どう見ても惚れてるのは彼の方でしょうに。)




