22.好かれるって……罪。(湊side)
最近、ボクの秘書が気になる。
いや、見た目は元から綺麗な子やと思ってる……ってそういう話じゃなくて!
真剣な顔で議事録をとる姿、ボクの雑談に突っ込む笑顔、なんでも美味しそうに食べる所――。
以前は特に何も思わなかったのに、「この子もボクのこと好きなんやな……。」と思うとなんか意識してまう。
この前のランチの時に分かったけど、彼女、やっぱりボクのことを特別視してる。
っていうか、もうこれは完全にボクに惚れてるな。うん、しゃあない、このボクやし。
一時期は「もしかして嫌われてる!?」って心配もしてたけど、今なら分かる。
(あの時の冷たい態度……あれは、いわゆる”ツンデレ”やな。)
ボクは、完璧で美しいこのボクが大好きや。
だから、そんなボクのことを好いてくれる人のことも好きや。
でも、それと同じくらい、仕事をちゃんとする人が好き。
だから、もし彼女も今までの秘書たちのように「仕事<<<ボク」になったら、また担当を外すことになってしまう。
もうこれ以上秘書を変えるわけにはいかない。
(室長も怖いし……ボク悪くないのに……。)
春原さんには悪いけど、これ以上惚れられないように”塩対応”や!
――そういうタイミングに限って、副社長室で二人っきりになる。
黙々と資料をまとめる彼女の横顔を、こっそり盗み見する。
(あれ、こんなまつ毛長かったっけ……。)
「なんですか?」
怪訝な顔、声。すごくうっとうしそう……。
「なんもないわ!」
咄嗟に言い返したけど、盗み見がバレたことと、彼女の予想外に冷たい態度に内心焦る。
(あ、あれ?好きな人に対して冷たくない?)
なんだか気まずくなりそうだったので、コーヒーを頼み、少しだけ一人になった。
(いやいや、落ち着けボク。あれが”ツンデレ”なんや。)
きっと彼女の内心は「ああ……湊様今日も麗しい……!」ってなってる。
(ごめんな……その気持ちには応えてあげられへんのや……!)
コンコン。
うわ、もう戻ってきた。急いで自席に深く座り直し、余裕の表情を浮かべる。
彼女がいつもの真顔で部屋に入ってくる。
机の上にコーヒーを置くところを目で追っていると、また目が合ってしまった。
(ま、また怒られる!)
しかし予想外にも、軽く微笑まれた。
ただの会釈?いやいや、あれは完全に「恋する乙女の顔」やな。
「……ありがとう。」
「え」
(あ、なんかお礼言うてもうた、いや、なんか急に笑ったりするから!)
ボクのお礼がよっぽど意外だったのか、笑顔から一変、眉をひそめている。
まずい、いつものボクじゃないのが自分でも分かる。
なんか今、おかしくなってる気がする……。
「あ、あの、副社長……。」
眉をひそめたまま、彼女がおずおずと話しかけてくる。
「ん?何……痛っ」
余裕たっぷりに足を組み替え……ようとしたら、脚をぶつけてしまった。
(あかん……ダサすぎる……消えたい……。)
「なんか、最近いつもと様子が違うようなのですが、大丈夫ですか?体調とか……。」
脚をぶつけたのはバレてなかったみたい。よかった……。
ってか、やっぱりいつもと違うのがバレてる。
(そりゃそうか、好きな人のことはよく見てるもんやしな。)
「ん?やっぱりボクのこと、心配なんや。」
「そりゃもちろんです。」
つい悪戯心で聞いてみたら、まさかの即答だった。
「ふーん?」
(そんなに心配なん!?ボクのことめっちゃ好きやん!?)
いやいや、あかん、彼女がこれ以上ボクのこと好きにならんようにしないと。
頭ではそう分かっているのに、彼女の目の前に立ち、話しているのを遮ってまで話しかけてしまった。
「病院は大丈夫。……ボクがおらんかったら、寂しいやろ?」
「……そうですね!」
さすがに照れたのか、少し言葉に詰まっていた。
(いじらしいわ~……。)
別に嫌われたいわけじゃないしな。
今みたいな距離感が一番いい。
居心地の良さからか、仕事もはかどる。
(ボクだって恋愛なんかしてる場合じゃないし、すぐ可愛いとか思うのも辞めなあかんな……。)
手は動きつつも、頭がぼんやりとしてきたとき、彼女がそっと声をかけてきた。
「お元気そうでよかったですが……無理しないでくださいね。」
ボクの邪魔をしないようにと小さな声で、にっこり微笑みながら。
(か、かわ……あかん!!耐えろ、ボクの表情筋!)
顔面に力を入れ、緩みかけた口角を引き締める。
待って……ボク今めっちゃブサイクじゃない……?
「え?」
(ほら引かれてるやん……。)
「……な、なんもない……コーヒーのお替り持ってきてくれる?」
「はい……。」
スッと、彼女が真顔に戻って部屋から出て行った。
なんか、ドアを閉める音が大きかったような気がする。
(怒ってるなこれ……。)
めっちゃ苦い泥みたいなコーヒー持ってきたし。真顔で。
これ以上好かれたら困るのに、距離置かれた感じがすると、なんか、寂しい。
(……なんなん、これ。)




