21.副社長、挙動不審です。
最近、副社長の様子がおかしい。
元々ちょっと変わった人だけど、この前ランチに誘われてから、なんだかさらにおかしくなっている気がする。
まず、なんかソワソワしている。
いつもはもっと、余裕綽々というか、堂々としている。
(ふてぶてしいほどにな!)
なのに、最近はなんだか落ち着きがない。
副社長室で作業をしている時も、たまに私の顔をじーっと見てくる。
無言でただ視線を感じるのがうっとうしくて、つい「なんですか?」と聞くと、「なんもないわ!」と何故か不機嫌になる。
てっきり、以前ランチを断ったのを根に持っているのかなと思った。
「このボクの誘いを断るとは~!」みたいな。
でも、妙に優しくなるタイミングもある。
頂き物のお菓子を分けてくれたり、定時近くになったら仕事を振らなくなったり。
(情緒不安定なのか……?)
首をひねりながら、頼まれたコーヒーを副社長室へ運んだ。
「……ありがとう。」
「え」
とうとうお礼まで言い出した!?
誰!?
「あ、あの、副社長……。」
「ん?何……痛っ」
いつものように足を組み替え……ようとしたのに、長い脚が机にぶつかる鈍い音がした。
一瞬、でも永遠に感じる気まずい空気が流れる。
「なんか、最近いつもと様子が違うようなのですが、大丈夫ですか?体調とか……。」
さっきのことはなかったことにしてあげて、気になっていたことを尋ねる。
「ん?やっぱりボクのこと、心配なんや。」すっ、と彼は目を細める。
「そりゃもちろんです。」
(倒れられたら仕事がなくなっちゃうし。)
「ふーん?」
なんだか元気そうだな。無駄な心配だったかな?
「もし必要なら、病院の予約しておきますので――」
言いかけた時、彼がおもむろに立ち上がり、こちらに歩いてきた。
私のすぐ目の前で立ち止まる。
「病院は大丈夫。……ボクがおらんかったら、寂しいやろ?」
「……そうですね!」
女子三人組が――橘さんとか特にね。
私の返答を聞くと、くるっと踵を返して席に座る。
そして私のサポートが間に合わないくらいのハイペースで仕事を片付けていった。
やっぱり杞憂だったみたい。……めちゃめちゃ調子良さそうなんだけど。
ちょっと安心したので、彼がひと段落したタイミングで声をかける。
「お元気そうでよかったですが……無理しないでくださいね。」
その瞬間――彼が、くしゃみを我慢するみたいに顔をしかめて、固まった。
「え?」
「……な、なんもない……コーヒーのお替り持ってきてくれる?」
「はい……。」
一応、笑顔で優しく話しかけたつもりなのに、そんな酷い顔してたの?私。
そのあと、さすがにちょっと腹が立ったので、とっても濃いコーヒーをお出ししてやった。
ほんと、よく分からない人だ。
……マジで。




