20.完璧ランチ作戦!(湊side)
「わ、わかりました。行きましょう!」
やっと彼女をランチに誘うことができた。
ここで少しでもボクの素晴らしさが伝われば、きっと彼女も秘書を続けてくれるはず。
(秘書のご機嫌取りまでできるボク……ほんまええ男やで……!)
彼女が呼んだエレベーターに乗り込みながら、ボクは全てがうまく行くと信じて疑わなかった。
――なのに。
今、ボクの目の前には、ものすごく暗い顔をした春原さんが座っている。
店は女子社員に人気のイタリアンを抑えたし、時間もピークからずらしてあるから混雑もしていない。
何より、目の前にこのボクがいる。最高のシチュエーションやろ?
彼女をこっそり観察する。
背筋をぴんと伸ばして、視線は下。テーブルで見えにくいけど、たぶん両手を膝の上に置いてる。
(……おかしい。)
まるで「無理やり連れてこられました」みたいな顔をしてる。
(なんでや?めっちゃいい店やろ?)
パスタは評判のやつを頼んだし、テーブルマナーも抜かりない。
一応、雑談にも愛想もよく返してくれるけど、それ以上が広がらへん。
むしろ、なんかどんどん顔が強張ってきてる気すらする。
たまに視線を泳がしているのも、ちょっと気になる。
「……はぁ。」
(え、いま、ため息……!?)
「……えーと、緊張してる?気にせんでええよ?」
しまった。ボクらしからぬ弱気な声が出てもうた。
その声につられたのか、彼女はハッとしたように顔を上げた。
「あっ、いえ……。」
少し口ごもってから、鼻で息を吸って気合いを入れるように姿勢を正す。
「お、お誘いはありがたいのですが……みんなの前で誘うのは、ちょっと……。」
なるほど。今までの態度が、やっと腑に落ちた。
……このボクからのお誘いというスペシャルイベントを、独り占めしたかったんか~?
(なんや、可愛いとこあるやん。)
「は!?」
思わずボクらしからぬ、大きな声が口をついて出た。
「えっ!?」
彼女も、突然の大声に目を丸くしている。
――って、今ボク、なんて……?か、可愛い……?
(いやいやいやいやいや、これは「可愛げがある」みたいな、そういう意味やし!ってか誰に言い訳してんねんボク!)
「す、すみません、生意気言いました……かね……?」
ボクの大声を変に解釈したのか、しゅん……と肩をすぼめる彼女。
(しょんぼりしてるのも、なんか……可愛い……って、ちゃうちゃう!)
「あーいやいや!分かった。そういうことなら今後は気ぃつけるわ。」
心の中のざわめきを誤魔化すように、いつもの調子で返す。
――まあでも、嫌われてるわけじゃなさそうでよかった。
まさか、独り占めしたいほど喜んでくれてるとは。
「ありがとうございます。」と、彼女は少し安心したように微笑んだ。
しばらくして、注文したパスタが運ばれてくる。
その瞬間、さっきまでとは打って変わって、明らかにテンションが上がる春原さん。
「いただきま~す!」
嬉しそうにフォークを構えて、パクパクと食べていく。
うん、やっぱり可愛い。
「なっ!?」
「ぅえっ!?ゴホッゴホッ……!」
ま、またやってもうた……。
またボクの大声に驚いた彼女がむせてしまったのが視界に入るけど、それどころじゃなかった。
(あかん、さっきからなんでこんなに春原さんが可愛く見えるんや!?)
いつも真顔か苦笑いしか見せない彼女の、"素"を少し見たから?
これが、噂の「ギャップ萌え」……ってやつなんか?
これ以上彼女を見ているとまた大声を出してしまいそうやし、ボクも目の前のパスタに集中することにした。
(……いや、これは、人の珍しい一面を見た衝撃というか、面白さで興味を持っただけや。――うん、そういうことにしとこ。あかんでボク。しっかりせな。)




