19.反撃の反撃
最高の朝のスタートを切った数時間後。
私は副社長と、会議出席のため社内を移動していた。
長い脚でカツカツと歩いていくその姿は、いつ見てもモデルのようでかっこいい、と思う。
(で、でも、早すぎる……!)
身長差がとんでもないのに、あのスピードで歩かれたら早歩きでも追いつけない。
――まあ、今に始まったことじゃないけど……。
専属になって最初の一週間でそれを学習した私は、即行でぺたんこのパンプスを買った。
でも今日は、いつも以上に速い気がする。
(今朝の反撃が効いたか~?なんてね。)
それにしても、あの時の副社長のポカン顔……面白かったなー。
あの瞬間を写真に収めてたら、女子社員たちに売れてたな。
その後、すぐに元に戻ったけど、いつものイジりがほとんどなかった。
あのイジりがなければ、専属秘書の業務はそこまで苦ではない。
残業もほとんど無いし、明るいうちに電車に乗れるし。
(まあ、あえて苦情を言うなら、あのドヤ顔と、超ナルシストなところと、歩くのが早すぎるところと――)
「わっ!」
急に、前を歩いていた副社長が立ち止まる。
危うく、彼の背中に顔面から突っ込むところだった。
「びっくりした……。ど、どうされましたか?」
副社長はくるっと振り返り、私を見下ろすように立つ。
後ろにいた女子社員たちから、小さく歓声が上がった。
「今日の12時以降の予定、何かあったっけ?」
「い、いえ……特にありませんが……。」
かつん、と音を立てて、彼が一歩こちらに近づく。
距離が近すぎて、思わず一歩後ずさる。
「……じゃあ、今日こそ行こっか。ランチ。」
「え」
有無を言わせない”圧”をこめた笑顔。
――そういえば、先週お弁当あるからって断ったんだった……!
「え、えーと……。」
別にランチに行くのは良いとして、なんでよりによってこんな人が多いところで誘うんだ……!
さっそく、後ろからひそひそ声が聞こえてくる。
「え?副社長からランチに誘われてる……!?」
「あの子誰?何者!?」
「私知ってる。確か4月から専属秘書になったっていう……」
(最悪だーーー!!!副社長、この空気に気付いてないの!??)
「わ、わかりました。行きましょう!」
とにかくこの場を離れなくては。
早口で返して、そのまま副社長を追い抜くようにエレベーターホールに駆け込んだ。
ボタンを連打して、エレベーターを呼ぶ。
「よかった。またフラれたらどうしようかと思ったよ。」
後ろから飛んできた、のんきな彼の声。
直後、女子社員たちの好奇の目に、殺意がこもるのを感じた。
(お、おわった……。)
これが今朝の反撃に対する反撃なら、私の完敗だ。
さらにタチが悪いのが、この人仕事以外の場面でも影響力があることを分かってない。
――やっぱり私の負け、なのかもしれない……。




