16.お弁当と冷たい視線
副社長と別れ、足早に会社の食堂へと向かう。
……心臓がまだドキドキしている。これは早歩きのせいだけじゃない。
お昼にしては遅めの時間。食堂にはまばらな人影しかなかった。
手近な席に座り、お弁当を広げると――。
「あっ、春原先輩……!」
顔を上げると、羽田さんたち三人組がまだ残っていた。
「……お疲れ様です。」
「わ、先輩お弁当ですか?」と、横から早乙女さんが身を乗り出す。
「そうなんだよね~。節約中。」
「え、どうしたんですか?」
「明日お休みだからさ。明日は散財するんだ~。」
その一言で、三人の視線が一斉に集まる。
「ま、まさかデートですかっ!?」「ご旅行ですか?」
ちょっとした質問攻めがなんだか嬉しくて、私は胸を張る。
「ちがいます。肉フェスです!」
「肉!?」「フェス!?」
早乙女さんの声が、ひときわ大きかった。
「超有名なお店が出店するんだよ!ステーキサンドと唐揚げは絶対食べる!」
「えー、いいなあ!私も行きたい!」
早乙女さんがテンション高く返した後、首を傾げる。
「っていうか、明日先輩の代わりって誰がやるんですか?」
「室長が一応見るって言ってたけど……。」
「……あの……実は私も、お手伝いさせていただくことになりまして……。」
橘さんが、そろりと手を上げる。
「えっ、マジで!?やったじゃん沙耶!」
「えへへ……。湊様のおそばにいられるなんて……光栄です……!」
目を潤ませた橘さんが、うっとり目を閉じる。
みんなでキャーキャー盛り上がっていると、羽田さんが突然ピタッと固まった。
「あ……。」
彼女の視線の先を追うと――話題の副社長が少し離れた席に座っているではないか。
(いつからいたの……!?明日休むってヘラヘラ話してたの、聞かれた……!?)
「じゃ、じゃあ私たち休憩終わりなのでー!」
そそくさと三人組が去っていく。
(ま、待って、私まだ食べ終わってないのに――。)
「春原さん。ほんまにお弁当やったんやねえ。」
「っ!?」
いつの間にか、目の前の席に座る副社長。
(こ、怖っ!!)
「え、ええ。ランチのお誘い、お断りしてしまい、すみません……。」
「ええんやで。そんなこと。それより、明日楽しそうやなあ。」
語尾がやけに伸びてて、笑顔もふんわり。
でも――目が、全く笑っていない。
(……怒ってる?ランチ断ったから?)
「ま、前もって申請しておりましたので……。羽を伸ばしたいと思います。」
「うんうん。楽しんどいで?」
結局最後まで不穏な空気を放ちながら、副社長が食堂から出て行った。
私は大きくため息をつき、お弁当のラスト一口を口に放り込む。
(……まあいいか!)
明日は美味しい肉と、全力で遊ぶ一日が待っているんだから!




