12.人は見かけによらない(黒川side)
すみません、初めて携帯から投稿したら改行がうまくできていませんでした……。
修正いたしました!(5/21 19:18)
今朝は社長が休みのため、比較的手が空いていた。
こんな機会も滅多にないので、備品の在庫確認をしていた。
倉庫は暗かったが、窓からの光だけでも作業できそうだったのでそのまま作業を始める。
棚から備品の段ボールを下ろし、中身を確認、終わった段ボールを上げ、次の段ボールを下ろす――。
地味に段ボールが重いので、良い運動になりそうだ。
下ろした段ボールの中身を確認していると、突然倉庫の扉が開いた。
誰だろうと目を向けると、副社長チームの橘さんがふらふらと歩いてくる。
いつもはキビキビと歩いているイメージだったので、つい心配になって覗く。
春原さんの歓迎会の時以来、どうも彼女の様子がおかしかったのだ。
大丈夫か――と声をかけようとしたとき、小さな声が聞こえた。
「モヤモヤするなぁ……。」
反射的に彼女の顔を見る。暗くてよく見えなかったが、元気じゃないのは確かだ。
(なんとかしないと――)
思うより早く、口から声が出ていた。
「じゃあドカ食いだね。」
「ぎゃあああああ!!!!」
……やらかした。完全に悪手だ。
お化けを見たリアクションをされてしまった。なんなら、ちょっと涙目になってしまっている。
どうにか元気付けたくて、ついお昼に誘ってしまった。
そんなこんなで、定食屋に到着する。
道すがら当たり障りのない雑談をしていたからか、彼女も少し落ち着いたようだ。
「ミックスフライ定食、ご飯大盛りで。」
「え、えーと、この焼き魚定食で、ご飯は少なめでお願いします。」
注文を済ませ、料理が来るのを待つ。
「ごめんね。急に誘ったりして。」
「いえ、倉庫ではびっくりしましたけど、誘ってもらえて嬉しいです!」
橘さんがニコっと微笑む。……無理に笑っているのは俺でも分かる。
「お待たせしましたー!ごゆっくりどうぞー!!」
出来立ての定食が目の前に置かれる。
「いただきます。」
「いただきます!」
「……黒川さん、あの……悩み、聞いていただいてもよろしいでしょうか。」
食後のお茶を飲んでいると、橘さんがぽつりと言った。
「もちろん。俺は聞くことしかできないと思うけど。……どうしたの?」
「ありがとうございます。その……実は――」
それから聞いた話は、概ね予想した通りの内容だった。
春原さんの歓迎会で突然発表された、副社長専属決定の知らせ。
今まで、頑張ってきた自分が選ばれなかったことに対する悔しさ、悲しさ。
時折言葉を詰まらせながら、すべて話してくれた。
「話してくれてありがとう。橘さんが入社してからずっと頑張ってたのは知ってるから、辛さは分かるよ。」
「ありがとう、ございます。……なかなか吹っ切れられなくて、ずっと悩んでしまってるんです。」
「頭で分かってても、すぐには割り切れないもんね。」
「はい……。春原先輩のことを嫌いになっちゃいそうな自分がいて、それが一番嫌なんです。先輩はちゃんと与えられた仕事に向き合ってるだけで、何も悪くない。そこだけは……間違いたくないんです。」
俺はちょっとびっくりして、彼女の顔をまじまじと見てしまった。
(なんか、思ってたよりずっと……強い人だったんだ。)
「……あっ、すみません、喋りすぎちゃいました。そろそろ戻らないとですね。」
俺が黙ってしまったので、橘さんに気を遣わせてしまった。
「あ、ほんとだ。じゃあお会計してくるね。」
会計をしている間、彼女は店の外で待っていてくれた。
ちらりと盗み見ると、まだ少し目が潤んでいる。
――それでも、俺が会計を終えて彼女の元に向かうと、笑顔をキープしている。
そのあと、また当たり障りのない話をしながら会社に戻った。
しかし、俺はずっと、今にも崩れそうな彼女の笑顔が焼き付いて離れなかった。