ある村にて
物騒な武器を携えた集団が、ある村の近くで待機している。
代表者と思しき者が、村に入っていった。
「対魔特別管理局のアルマだ。この村の代表者はいるか?」
老人が一人立ち上がり、アルマに近づいていく。
「儂だよ。ここの村長。何か用かね?」
「ガモスの封印の定期更新に来た。場所を案内しろ。」アルマは高圧的に命令した。
老人は首を振った。「無いよ。そんなもん。」
「何!?今なんと言った!?」アルマは目を見開いた。
「封印のオーブと封印解除用の鍵と、解除用の暗号も伝えた上でもう渡した。ここにはない。」
老人は淡々と伝えた。
「なぜそんなふざけた真似をした!?」
「うるせぇなぁ・・そんな声張らなくても聞こえてるよ。」老人は頭を掻く。
「なんだと・・?あれが何か分かっているのかお前は!?」
「何って、昔世界を滅ぼそうとしたガモスっていう竜を封印した宝玉だろ?」
「なぜ渡した?答えろ!」
「昨日来た知らん兄ちゃんがさ、その竜倒すから封印解いて倒すっつーからさ。
渡しただけだよ。」
「・・・・意味不明だな。じゃあ今どこにあるんだ?」
「さぁ。東の砂漠で開放して倒すって言ってたけど。そろそろ出すんじゃないか?」
「ほら。あっち見ろよ。空がさっきまで明るかったのに暗くなってる。」老人は暗くなっている空を指した。
「チッ・・・クソ・・・この世の終わりじゃないか!」
「人の話をちゃんと聞けよ。倒せるっていうから渡したんだよ儂は。」
「朦朧したやつの話などこれ以上聞けるか!」
「お前を国家反逆罪で逮捕する!」
「お前が?儂を?」老人は驚いている。
「そうだ。王族特権に準ずる権限はある。お前は処刑だ。」
「お前頭悪いのか?権限があろうと、お前が儂より強くないと拘束できんだろ。」老人は当惑している。
蒼い剣を構え、アルマは呟く。
「蒼剣のアルマ・・聞いたことはないか?」
「なんか聞いたことはあるな。魔王直下の四天王を倒したとか倒してないとか。」
「四天王ガルバスの撃退だ。」
「撃退したのがお前?・・・なんだ、四天王も大したことないな。」
「もういい、この場で抵抗したため村長は首を撥ねられて死亡。
そう報告書に書いてやるよ。」
アルマが斬りかかる瞬間、視界から老人が消えた。
何!?と思った瞬間、アルマは自分の体が動かないことに気づいた。
「貴様・・・何をした!?」アルマは立てなくなり、地面に転んだまま動けない。
「何って・・ただの拘束魔法。斬り掛かってきたのお前じゃん。」
「嘘をつけ!拘束魔法なんかが、この私に効くわけ無いだろ!」
「初級拘束魔法ザイル。義務教育でも使うやつなんだがね。」老人は頭をポリポリと掻く。
「お前みたいなガキに遅れを取るわけないだろ?
お前、国家の戦力でも上のほうなんだろうが、力量の差もまだ分からんとはな。」
呆れた表情で老人は上からアルマを見下ろしている。
「くっ・・こんなもの解いて・・」
「解いたところで何も出来んよお前は。
あそこで店番やってる小さいガキよりお前は弱いよ。」
店番をやっている子供をちらりと見て老人は呟いた。
「ぐっ・・・」
「隊長!」様子を見に来た管理局の隊員が村にぞろぞろと入って来た。
「チッ・・お前らじゃ相手にならん!大人しくしとけ!」アルマは地面に転んだまま隊員に命令した。
「だそうだ。ちょっと村の外で待っててね。」老人もアルマの言葉に続けて補足した。
ぞろぞろと、大人しく隊員たちは村の外に戻っていく。
「前任者から何も聞いてないのか?」
「あいつロクに引き継ぎしてねえなぁ。高い給料貰っとるだろうになぁ。」老人はため息をついた。
「この村はよお。魔王軍だろうと、国防軍だろうとどんな勢力が来ようと、
あの竜の封印を解こうとする輩を全力で阻止するために作られた村なんだよ。」
「わかったか?お前なんかに不覚を取るやつはこの村に一人もいない。」
「何故だ・・・なぜでは封印のオーブを渡した!?」ほぼ叫ぶような大きい声で、アルマは訊いた。
「元々予言されてたんだよ。竜を倒す奴が昨日来る・・と。」
「そいつにオーブを渡すまでがこの村の役目なんだ・・とずっと儂がガキのころから言われてた。」
老人はアルマの上に腰掛けた。
「そんな予言・・・出鱈目だったらどうするんだ。」アルマは椅子であることを受け入れている。
「まぁ・・それは儂も思った。あの竜を倒せるやつがいるなんて思えんし、
弱いやつだったら儂がぶっ飛ばそうと思ってた。」
「どんな奴だったんだ?」アルマは訊いた。
「まぁ・・普通の兄ちゃん。どこらへんにもいそうな。」
「おい!」
「最後まで話を聞けよ。
その兄ちゃんは、少なくとも儂の1000倍いや万倍・・?
それ以上の差を感じた。いや、どんぐらいの差なのかも分からなかった。」
「だから渡した。」
「そもそも抵抗したとこで、勝つ負けるなんて力量差じゃないしな。
封印も暗号渡さなくても自力で封印を解いただろうな。」
落雷とともに暗い空の向こうに竜が出現した。
「出たな。あの竜か。かなりデカいな。」老人は竜を見上げている。
「なんという力だ・・、魔王より遥かに強いぞ・・」アルマはうめく。
「世界は終わ・・」
パァン!
という破裂音とともに竜はバラバラになって弾け飛んだ。
後の調査で、明らかになったことだが
砂漠地帯はこの事件の発生後、緑豊かな大森林地帯になったそうだ。
「そ・・そいつの名前は?」
「ん?」
「オーブを渡した奴の名前だよ!」
「あ────うーん。」老人は髭を弄る。
「聞いてなかったなそういえば。」老人はぽつりと言った。
「クソジジイが。」