終章
そして、彼女に会うことなく、一週間、二週間、三週間と何事もなく時が過ぎていくはずだった。そうなると信じて疑わなかった。
何が救われた気がしたのか?何が無駄ではなかったのか?…僕しか救われた気になってなかった。全てがもとから無意味なものだった。
僕の眼前では、赤くて暗い血の海に小さな命と彼女の命が溺れていた。
彼女に別れを告げて一週間。Rさんからの電話は日曜をだらだらと過ごそうとしていた僕を、自宅から転がり出すように飛び出させた。
「病院の非常階段からとびおりたって…。」
噂好きな誰かの声が聞こえていた。
Rさんは事の詳細を語ろうとはしなかった。ただ僕に、こうなってしまったのは自分のせいだ、ごめんと謝ることしかしなかった。
崩れ落ち、僕に縋りつくように謝り倒すRさんをみて、Rさんの優しさがRさんを殺めようとしているのだと悟った。
「…。Rさんのせいだなんてことないですよ。…これは彼女自身の責任ですから。」
自分でも冷たい言い方だとはわかっていた。だが、Rさんを責められず、自分も責められず、すべては彼女の責として想いも苦しさも投げやった。
結局、臆病な僕はいつだって立ち止まったままだった___。
僕の見る世界にはいつだって彼女がいた。淡く浮かび上がるような恋心も、息が詰まるほどの愛も、もどかしいような不安も、どうにもならない憎さも、すべてが満ちるような幸せも、悲痛なこの想いも、すべて彼女がいたから知ることができた。
これらすべてが大切なもので、無ければよかったなんて少しも思わない。
だから、僕はここに全てをのこしていこう。誰かにとってどれほど無価値なものだとしても、誰かにとっては価値あるものに映るかもかもしれないから…。
僕の出した答えの先に彼女がいたとしたら、今度こそ僕は彼女の手を取ろう。もし彼女がいなくても、探せばいい。彼女がいない世界より彼女がいるかもしれない世界で僕は彼女への愛を捧げよう。
僕は、最後の日まで“彼女”を愛しました_____。
書き遺し-完-
最後までお付き合い下さりありがとうございました。
最後に興味本位でお聞きしたいのですが、貴方は人生最後の日まで愛せるものに出会いましたか?
良ければ、お答えをいつかお聞きしたいものです。
では、また他の作品で、ご縁があればお会い致しましょう。