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書き遺し  作者: 高砂
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序章

はじめまして、高砂です。

数年前に書いた粗くて荒い文学もどきです。もう自分で読み返すのも恥を感じるため、手直しもそこそこに投稿致します。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 




 未だに残るのは赤く染まる彼女の姿と咽返るほどの血の匂い。思い出さないように、忘れるようにと願えば叶う。そんな優しい世界に僕は生きていない。きっと、未来永劫この記憶に侵され続けるのだろう。ならば、僕はここにすべてをのこしていこう。






 僕には愛した人がいた。小・中・高と同じ学校に通い、だからと言って最初から仲が良かった訳でもない。知り合う前は、“あぁ、こんな奴いたな”位の認識だった。もちろん彼女のほうもそうであったのだと思う。だが、僕と彼女はその程度の関係性で終わることはなかった。

 彼女と知り合うあの日に戻れるなら、薄情だろうが人でなしとなろうが、僕は彼女に声を掛けたりなどしない。そうすれば今でも彼女は僕のいない場所で笑って生きていたはずだ。


 あの日は…照る太陽の下、木々の葉が光を反射し、うざったいほどのセミの鳴き声が響く、気も滅入るような夏の日だった。その日、僕は中学校で開講された夏休みの特別授業に参加した後、帰宅しようと通りかかった校舎裏の木陰で、倒れている彼女を発見した。

 僕は非常事態な光景に息を飲み、彼女を助け起こそうと慌てて駆け寄っていた。

「大丈夫ですか!聞こえていますか!」

 ちなみにこの時、倒れている人を揺さぶるなどという愚かな行為を犯したのはまぎれもなく少年時代の僕である。

「…どうか、したの?」

 僕の緊張感など知る由もない彼女は、僕の声に戸惑いながらも反応した。

「!…えぇぇぇぇぇぇぇ…寝てただけぇ…。」

 僕はかなりの見当違いをし、あまつさえ彼女の睡眠を妨害してしまったことに気づく。

 その後、彼女は寝返りをうって倒れた様な体勢になっただけではないかと気まずそうに教えてくれた。

 倒れている人を無視することは犯罪であるし道徳的でもないが、ただ寝相の悪かった彼女に声をかけてしまったことは一生の不覚である。もはや、その他の理由が無くても声を掛けないでおけば良かったと思えるほどには恥ずかしい記憶であるのは間違いない。

 そんな恥ずべき行為を遂行してしまったのは、僕と彼女が中学二年生のときであっただろうか。そのほかは、よく覚えていない。思い出そうとすれば、あいまいな記憶の中で“起こしてくれてありがとう”と呑気に言った彼女の笑顔、仕草、声が鮮明に浮かび上がるだけである。


 それからしばらくは、会えば挨拶ぐらいは交わす仲になっていたが、ただそれだけの関係だった。僕と彼女との曖昧な距離感に終止符が打たれたのは中学三年の新学期、奇しくも二人して同じ委員会に参加していたことが理由だ。誰もがやりたくない面倒くさい雑用係の委員会で、学校行事があるごとに、招集をかけられ、雑用を押し付けられることが仕事だった。必然的に同学年の彼女と行動することが多くなったし、何気ない会話もたくさん交わした。やがて、親交が深まっていき、そして、彼女のことをよく知るようになっていった。


 彼女はぼんやりしている割に頭が良かったし、素直で世間知らずな面もあった。ただ、極端にものの見方は冷めていた。猫舌で、冬でも暖かいお茶をぬるくして飲んでいたし、甘党でかつ辛党、人と関わることがあまり得意ではないくせに、人の輪の中にも入っていけるような器用な人だった。何事にも関心が薄そうなのに、好奇心だけは人一倍で、感情の起伏は面に反映されないし、基本の表情は真顔と笑顔。そんでもって、僕が彼女の泣き顔を見たのは数回、怒った顔は一度も見たことなんてない。だけど、いつだって彼女の瞳は雄弁で、こちらをまっすぐに見ていた。

 思い返せばいつだって、彼女の一挙手一投足に僕の五感が反応していた。自分でも、うんざりする。僕の記憶は一体どれほど彼女で埋め尽くされているのだろうか。じちょうせざるを得ない程に彼女を愛した。そう、少年の僕は彼女にだんだんと惹かれていき、彼女を好きになり、大人に近づくころには彼女を愛するようになった。

 彼女の何が僕をこんなに惹き込んだのかは今でもわからない。彼女でなければ駄目だとか、彼女以外考えられないとか、彼女が僕のすべてだとか、色んな言葉を並べても足りない。

 今でも愛しているなど生温い。自ら灼熱の鉄板の上で踊るような狂気を抱き、抑えきれない熱から少しでも醒めたくて、彼女のいびつさを探し、そうして知った彼女のいびつさにさえ僕の狂気は歓喜する。僕のすべての熱は彼女から齎され、僕のすべての熱は彼女へ向けられる。これが愛なのかさえ疑わしい。だが一つ確実なのは、僕は彼女のすべてを欲していることだ。僕の目に映る彼女という存在だけでは足りない。彼女の声、温もり、心、あるのなら、魂さえも欲しい。彼女が欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。この邪念は消えることなく僕の心を蝕んでいく。かのじょがほしい…。不可能ならば、せめてそばに…。


 …ここまで読んでくれている見ず知らずのあなたは、僕がどんな人間に思えるのだろうか。一人の女にわけもわからず陶酔した男だろうか、それとも愛に狂わされた哀れな男だろうか、あるいは、気の狂ったおかしな人間だろうか。何でもいい、僕に少しの同情心が芽生えたのならば、僕が彼女を最後まで愛した実録を読んでほしい。









まぁまぁ気味の悪い男が主人公で申し訳ありませんが、不気味さ、イタさ、純粋さなどを一等表現できた作品だと書き上げた当時は思っておりました。

様々な感情に苛まれながら読んで下さると嬉しいです。

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