はじめまして
初めての連載です!あたたたたたかい目で読んでください!!
はじめまして、わたくしトレディン伯爵家令嬢ジュリア・トレディンと申します。
この度15歳になったので学園に入学することになりました。
「ちょっと、ジュリ…ウス。早くいくわよ」
男装して…ね。
ジュリウス・トレディン、お見知りおきを。
さかのぼること5年前
10歳になった私は銀色の髪にコバルトブルーの瞳をもつ少女で、すでに天才とも呼ばれるほど頭がよかった。 というか、もともと知っているかのように物覚えがよかったのだ。
勉強だけではなく礼儀や言葉遣いや裁縫に至るまですぐにできてしまった。
領地では「シルバーエンジェル」と呼ばれていたのに対し、幼馴染のアイリスからは「一周回って変人」と言われていたが、なぜかその方が自分に合っている気もしていた。
「ジュリア!お誕生日おめでとう!!」
10歳の誕生日、幼馴染のアイリスの声が屋敷に響き渡る。
読んでいた小説から目を上げるとすでに目の前に立っている彼女に苦笑いする。
「アイリス、もう旅行から帰ってきたの?」
玄関から走ってきたのか可愛らしい桃色の髪がボサボサだ。
「これプレゼントよ!これを渡すために早く帰ってきたんだから!早く開けてよ!」
手渡されたのは可愛らしい装飾がされた小さな紺の箱
中から水の雫をデザインしたペンダントが出てきた。清楚な雰囲気がありつつもなぜか惹き付けられるシンプルなデザイン。
「これ見た瞬間にジュリアに似合うと思ったの!どう?」
期待に満ちたルビーの瞳と目が合う。 手の中で銀色に光るペンダント。
あら?どこかでみたことあるような…
頭の中で一冊の本が風にめくられるようにパラパラと勝手に開いていく。
これは…悪役令嬢『ジュリア・トレディン』のトレードマーク。
(悪役?)
その瞬間意識が薄れ、前世の記憶が流れ込んできた。
前世の私は若井京子という大学生だったが恋人に浮気されキレて一発ぶん殴った帰り、事故にあって亡くなった。 そんな京子がハマってハマって何度も読み返していた漫画が「ジュエリーデイズ」。
ヒロインである子爵令嬢アイリスが学園で王太子と出会い、様々な困難を乗り越えながら最後には恋人になるシンデレラストーリーだ。
そしてその小説に悪役として立ちふさがるのがジュリア・トレディン、ヒロインの幼馴染でヒロインが自分より目立つことを何より嫌うのだ。
そう。
ここは「ジュエリーデイズ」の世界で、現世の私はその悪役ジュリア・トレディンだ。
…でも漫画とは違うところがすでに一点。
意識は戻ったものの別の理由でまた意識が飛ぶ気がする。ベッドに横たわる私を絞め殺すほど抱きしめ号泣するアイリスだ。 彼女とは隣の領地同士、家ぐるみで仲良くしているし、なんなら本音を話せるのは家族とアイリスぐらいだ。
「アイリス…苦しいわ」
「…ジュリア!あなた、なに勝手に死のうとしてるのよ!私が許さないわよ!」
どっちが悪役かわからないようなセリフに無意識に安心してしまう。
「ありがとう。本当に…あなたにまた会えて嬉しいわ。」
不思議そうに首をかしげる幼馴染を見て改めて決意した。 気が強くて純粋なこの親友の敵になってたまるか、と。
次の日、心配した両親に昔なじみの医師のもとに連れていかれた。 正直もうなんともないが、王都の景色を見るためだけに馬車に乗り込む。
アイリスも一緒にと駄々をこねたが、帰ったら一番に会うと約束をして我慢してもらった。
2時間ほど馬車で揺られると森を抜け、いかにもヨーロッパ風石造りのお城を中心に城下町が目の前に広がる。一番栄えている場所なだけあって人通りも多いし、様々な店が軒を連ねて賑やかに並ぶ。あちらではパン屋の奥さんとご婦人の客が世間話をして、こっちでは小さい女の子が両親に手を引かれて辺りをキョロキョロ見渡している。
「この町のどこかに彼はいるのかしら」
「ん?何か言ったかい?」
お父様の言葉にあいまいな笑顔で返しながら記憶を辿る。
ジャック・テイラー。
漫画の登場人物の中でもメインメンバーであり、生前京子の1番の推しだった。 漫画全巻大人買い一番の要因であるジャックは口は悪く愛想はないが、ヒロインに片想いする不器用な二番手男子だ。
鋭い目つきで初見には怖がられがちだが、主人公への恋心に気づいた時のあの真っ赤な顔がいまだに脳裏に焼き付いている。 例え自分の恋が叶わないとわかっても一途に主人公を想い続けるあのひたむきさに読者からの人気も高かった。
京子のタイプは「無愛想、赤面症、そして一途」!
そう…
チラリともう顔も思い出せない元彼の存在が浮上する。
そう!私のタイプは浮気するようなくそ野郎では決してないのだ!
城下町入口にある豪華な門をくぐり、王都に入るとすぐ急に馬車が止まった。
何かあったのかしら?
外に顔を出すと小さな男の子が倒れている。
咄嗟に馬車の外へ降りようとすると
「ジュリア、危ないから中にいなさい」
「でもお母様…」
心配性のお母様の肩に手を置いて、
「私が見てくるよ」
お父様が出る隙に私も滑り出る。
両親の声を振り切って、近寄ってみるとぼろぼろの服に細い手足、周りに家族なども見当たらない。
「うぅ…」
顔が真っ赤でどう見ても熱でうなされている。
「この子も一緒に連れて行って!お願い!」
「は、はい!」
老年のお医者様はすぐに彼に解熱剤を飲ませベッドに寝せてくれた。 すぐ目覚めるだろうと言っていたけど、大丈夫かしら。 恐る恐る覗き込んだその顔は小さな口に長いまつげ、汚れているが黒くサラサラな髪。 まだ幼いが美少年だとわかる。
言い表すとまるで…
「天使だわ」
その時、少年の閉じていた瞼がうっすら開くと同時にあることを思い出す。 「ジュエリーデイズ」のタイトルにあるようにこの漫画の特徴はメインキャラクターの瞳の色にある。 全員宝石のような鮮やかな色なのだ。
主人公のアイリスは可愛らしいルビー、悪役令嬢のジュリアは冷たいコバルトブルー。
そして私の推しの瞳の色は…
見覚えのあるとろけるようなトパーズ色と目が合い、少年の薄い唇がかすかに動く。
「…天使…様?」
この子ってまさか―
その後、美少年を前に過呼吸を起こしかけた私に苦笑いのお医者様が鎮静剤を処方してくれた。
バタバタバタンっ!
「!ジュリア! 待ちきれなくて先に待たせてもらってたわよ! 調子はど―」
待ち構えていたアイリスを自室に引きずり込み、自分の前世のこと、そして今日であった男の子について話す。 もちろん前世の話といってもここが小説の世界で私は悪役令嬢、そしてその中に大好きなキャラがいたこと程度だ。
そしてあの男の子…
今思えばあの漆黒の髪は王都ではあまり多くない珍しい色だった。そして息子を亡くしたばかりの現騎士団長テイラー侯爵と同じトパーズ色の瞳。 あの瞳の色をきっかけに彼はテイラー侯爵の養子になる。
「推しだった…!!!!」
最初は鎮静剤を飲ませようとしていたアイリスも途中から呆れ気味になりながらいつの間にか侍女が出してくれた紅茶を飲んでいる。 そういうところも好きよマイフレンド。
「まとめると?ジュリアはそのなんとかオシ?って子に一目ぼれして逃げ帰ってきたってわけね?」
「ちっっっがう!!推しよ??推し!!!!」
「…推しって感覚がよくわからないんだけど?『好き』とは違うの?」
推しは推しだ! 彼氏は別にいたし(浮気されたけどね!)、なんせ次元が別だからね!
半目のアイリスの肩に手をおき静かに教える。
「アイリス。推しっていうのはね、同じ空の下に入れるだけで奇跡なのよ」
「はあ…」
はっ!待てよ!! 同じ次元にいることで推しの恋を成就させることができる!?
推しの失恋に本人よりも号泣したであろう京子の無念を晴らせのでは!?
「アイリス、私生まれてきた意味を理解したわ!」
「…本当に一周回って変人だったのね」
呆れた顔でアイリスがため息をついたのをこぶしを突き上げる私は聞いていなかった。
主人公のキャラどうしたんだろう?