第42話 お願い
僕は顔の熱さが冷めなくて、急いで顔を洗ってサリナの所へ向かった。
コンコン
「はーい」
「あの、先輩。遅くなりました」
「入っていいよ〜」
ガチャ
「失礼します」
「陛下は落ち着いた?」
「落ち着いたって……まあ、そうですね。もう大丈夫だと思います」
「陛下ったら、アシュの事になると余裕がなくなるんだから。わかりやすいったらないわ」
「え、そんなに……ですか?」
「アシュはアシュで鈍感だし……見ててもどかしくて堪らなかったわよ」
「ど、鈍感って!」
「本当のことじゃない! やっと恋人になったんだって、嬉しいのよ」
サリナは、僕達がお互い片想いをしていたのも気付いていたのか。そして、恋人になったことも……。そんなに分かりやすかったのかな。隠してたつもりだったんだけど。
「気付いてたんですね……」
「誰でも気付くでしょ。貴方達の雰囲気はもう……ね?」
え、皆……? 皆って言った?! サリナだけじゃないの?!
「え?! 嘘……は、恥ずかしいです……」
「いやいや、皆もう慣れてると思う」
「えっ……なんでわかるんですか?」
「態度でわかるものなの」
「先輩はどこまでも先輩ですね……すごいや」
「ふふ、人間観察は得意よ?……それより、ちょっと歩こっか」
「庭に行きますか?」
「うん」
僕達は他愛もない話をしながら、庭へ向かった。
水色のバラが一面に咲く庭で2人歩く。
サリナは周りに人がいないか、魔法で確かめる。動くものがないのを確認して、話し始めた。
「アシュが来てくれて、本当に良かったわ。私、陛下が国王になってからずっと傍にいたんだけど……陛下は常に仕事ばかりで人を寄せつけなかったの」
そうだ。僕が出会った頃の陛下もそうだった。どこか他人と壁を作っているようで、張り付いた笑顔。
休みもろくに取らず、ひたすら仕事をしていたって言うし……。
「でもね。アシュが来てから、休みを取るようになって、楽しそうに笑うようになった。陛下はいつしかアシュの事ばかり話すようになってね。好きなんだろうなって思ったし、アシュはすぐ顔を赤らめてたし」
「なっ……否定できませんね……」
「ふふ、それが可愛くて見てて飽きなかったわよ?」
「もう……先輩まで……」
「陛下とはどこまでいったの?」
「ええっ?! そんな事、他人に話さないですよね……?」
「他人だなんて……私とアシュの仲じゃない!」
「ええ……陛下が気を悪くしないかな」
「そんな事ないわよ。ねぇ〜教えてよ! 陛下の幸せが私の幸せなんだから」
うーん……まあ、サリナなら言いふらさないだろうし、陛下も信頼してるからいいかな。詳しくは言えないけど……。恥ずかしいし!!
「その……デートして、手を繋いで、キスも……しました」
誰かと恋バナする時が来るなんて……! 恥ずかしいけど、どこか嬉しいような……。
「キスって、どんなキス?」
「えっと……軽いのと、深いのを……」
「キャー!! 聞いてるだけで幸せ!!!! アシュとこんな話が出来るなんて!」
「僕も嬉しいです」
「ふふ、貴方達はいずれ結婚する事になると思うわ。その事についてはどう思ってる?」
「そうですね……陛下とずっと一緒にいられるのは嬉しいです。でも、国民からしたらどうなのかなって」
「そりゃああの救世主様なんだもの! 喜ぶに決まってるじゃない!」
「それやめてくださいよ! 救世主だなんて……たった1人の少女を助けただけです」
「それが大きいことなのよ。プロポーズはいつするの?」
「そうですね……正直まだ両想いになった自覚がやっと持てたくらいで……どうしようかな……」
「そうよね。まあ、急ぐことはないだろうけど、インパクトがあった方がいいと思うわ」
「インパクト……ですか?」
「そう! 例えば、陛下が女王になることを発表するパーティーで……とか!」
「え! それいいですね! まだ先になるだろうし、その時までに色々準備できそう」
「でしょでしょ?! 私も行くから、楽しみ!!」
「ありがとうございます! 正直初めてだから、これからアドバイスとか欲しいです」
「もちろんよ! 全力で手伝うわ! 私も夫もいるし」
「心強いですね!!」
「……うん。アシュ、陛下をよろしくね」
「はい。任せてください」
「頼もしいわ。いつもありがとう」
「こちらこそ!」
僕達は2人で笑い合った。
僕達の、これからの明るい未来を想って。
本日は3話投稿します!!




