結
オコが戦死した。
その知らせがニコのいる村に届いたのはそれから数日後のことでした。
その知らせをうけてニコは初めてその感情を知りました。
その感情の名前は「怒り」。
ニコと知り合う前、オコがいつも持て余していた感情でした。
けれど、それはオコを殺した人間ではなく、彼が死ぬ原因を作った戦争そのものへの怒りでした。
もうオコみたいな犠牲を出してはいけない。
オコみたいな優しい人間が戦争で死ぬ世界のままではいけない。
ニコは強くそう思いました。
その日からニコは変わります。
その日からニコは一切笑わなくなりました。
戦争が起こらない世界を目指して活動を始めました。
その活動を続ける道は決して易しいものではありませんでした。
その考えを邪魔に思う者も少なくなかったからです。
初めは嫌がらせ程度でしたが、それはだんだんと過激になっていきました。
ニコ自身も傷つき、何人も何人も仲間を失いました。
それでもニコがあきらめることは決してありませんでした。
ニコの心の中にはいつもオコがいてくれたからです。
あの日の優しい嘘つきのオコが。
戦争を起こらない世界の実現。
その活動を続ける中でニコは何度も拷問を受けました。
髪はなくなり、右目を潰され、歯はすべて抜かれました。
鼻は削がれ、口も切り裂かれ、耳も両方ありません。
顔は無残に切り刻まれ、焼きただれ、かつての面影はどこにもありません。
体の至るところに火傷の跡と無数の傷跡があります。
右手を切り落とされ、右足も潰されて、車椅子や松葉杖がないとニコはどこにも行けません。
左手と左足もすべての指が揃っていません。
そんな体になってもニコはまったく後悔していません。
オコを失って何十年も後。
ついに戦争のない世界の実現を成し遂げたからです。
「随分時間がかかってしまったけれどやっと君のところにこられたよ、オコ」
初めて訪れたオコのお墓に向かってニコは語りかけます。
ニコはオコのお墓参りには一度も足を運ぼうとしませんでした。
戦争のない世界の実現。
それを叶えるまではオコに顔向けできないと。
ずっとずっとそう思ってきたからです。
「君が僕の代わりに戦争に行ってくれたから、僕は戦争のない世界の実現ができたんだ。これは全部君のおかげだよ、オコ」
かつてオコに見せていたような穏やかな笑顔を見せニコは言います。
何十年振りかのかの親友との再会にニコは何時間も熱心に語り続けました。
失われた親友とのかけがえのない時間を取り戻そうとするかのように。
そして、陽が傾きかける頃、ニコは糸の切れたマリオネットのように力を失うと、静かに息を引き取りました。
その生涯は正に戦いと呼べるものでした。
ですが、その顔は穏やかで満ち足りていました。
戦争のない世界の実現。
その夢を叶えて、悲願であった親友との再会を何十年振りかに果たせたからです。
世界中の誰がなんと言おうと、ニコは世界中で一番幸せでした。
ニコとオコ。
怒ることと、笑うこと。
それぞれしか知らなかった少年二人の出会いはこうして世界に平和をもたらしたのでした。
これにてニコとオコの物語は完結です。
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作者も人間ですのでptが上がればやる気も出ますし、その逆もまた然りですので。