承
ニコからの影響からでしょうか。
オコは前ほど怒りっぽくなくなり、無暗に人を傷つけることがなくなりました。
オコのおかげでしょうか。
ニコも前のように殴られることがなくなりました。
いつの頃からか、二人を厄介者と思うものはいなくなっていました。
それから数年。
二人は青年と呼べる年頃を迎え、畑仕事をして穏やかに暮らしていました。
そんなある日のこと。
仲の良くなかった隣の国が宣戦布告してきました。
戦争の始まりです。
それによって、村から何人か兵隊を出すように国から命令が来ました
。
そして、村の若者の中から決められた人数を選ぶことにしました。
決め方はくじ引き。
それが一番平等だと思われる方法だったからです。
そのくじでニコは兵隊に選ばれてしまいました。
ところがそのくじを奪い取る者がいました。
オコです。
「お前みたいな甘ちゃんが戦場で生き残れるわけがないだろ。俺のほうが上手くやれる。俺が代わりに行ってくる」
誰ももそれに反対する者はいませんでした。
当事者であるニコ以外。
穏やかな性格で体を動かすのがあまり得意でないニコと、何人を相手に喧嘩しても負けないオコではどちらが生き残れるかなんて考えるまでもなかったからです。
ニコは自分が選ばれたのだから、自分が行くべきだと主張します。
ですが、オコはそれについては絶対に首を縦に振りませんでした。
オコはニコを兵隊に出したくなかったのです。
例え自分が行って死ぬことになっても、ニコを死なせたくなかったのです。
いつからかオコはニコのことを気に入っていました。
暴力を使ってしか物事を解決できない自分とは違い、辛抱強く言葉によって解決を試みようとするニコをオコは尊敬していました。
それはオコが持っていない強さだったからです。
そのことを死んでも口に出したりはしませんが。
「俺はこんなひなびた村で何の刺激もなく死んでいくのは御免なんだよ。戦争に行って憂さ晴らししてくる」
悪ぶって心にもない台詞を言葉にするオコ。
嘘です。
本当は今までのようにニコと穏やかに暮らしていきたいと思っていました。
本当は誰も傷つけたくなんてありません。
ですが、そんなことは言えるはずがありません。
オコは顔色一つ変えずに嘘をついてみせました。
「君が素直じゃない、優しい嘘つきだってことを僕は知ってる」
そんなオコの眼を見ながらニコは言います。
「約束だよ。必ず帰ってきて」
祈るように言うニコ。
「当たり前だろ。俺は憂さ晴らしに行くだけだからな」
その嘘を言い残して、翌日にはオコは兵隊に取られていきました。
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作者も人間ですのでptが上がればやる気も出ますし、その逆もまた然りですので。