第83話 決闘
アーニャ スメラギ
アンティ:上級兵士(♀)の永久譲渡
R:下級夢魔(♀) レベル23 HP:55
R:妖精(♀) レベル23 HP:32
R:上級兵士(♀) レベル20 HP:70
VS
王国伯爵
アンティ:上級兵士(♀)をランクアップさせる
HR:王国騎士(♂) レベル23 HP:206
R:上級兵士(♂) レベル23 HP:158
R:上級兵士(♂) レベル23 HP:158
予想通りHR、R、Rの編成だった。しかしボス補正のHP2倍がエグい。俺たちの中で一番HPが多いのんちゃんですら70ptなのに、王国騎士だけで約3倍の206ptだ。取り巻きも含めれば合計HPは500ptを超える。
不幸中の幸いにも全員男だったので、魅了判定やセクシービームの男特攻が有効なことが唯一の好材料だろうか?
第1ターン
「ピア【妖精の加護】を」
「わかったわ、妖精の加護!」
まずは順当に俺とのんちゃんにバフを張る。これで俺のセクシービームの与ダメが上がるし、何よりのんちゃんの被ダメが減る。
俺やピー助のHPとVITじゃワンパンで落とされる。のんちゃんが奴らの攻撃にどれだけ耐えられるかが、このバトルの勝敗を左右することになるだろう。
「さっちゃんは【セクシービーム】を騎士に」
「了解、セクシービーム」
昨日の公式戦でも使った手だが、両手のハートマークを囮にして尻尾からビームを発射する。初見殺しってヤツだな。
「ぐぁぁぁ!?」
男特攻、クリティカルヒット、MEN差で2割弱は削れたかな?しかし、残念ながら魅了判定は失敗に終わったようだ。
「中々やるではないか、次はこちらの番だ。行け、我が騎士よ!」
「はぁぁぁ!」
「任せて下さい!」
ガキーンッ!!
俺に斬り掛かる騎士の剣と、それに割って入ったのんちゃんの盾がぶつかり合う。
流石に昨日の騎士とはレベルが違うだけあって、のんちゃんのHPが17pt削られてしまった。
「追撃せよ!」
「喰らえ!」
取り巻きの上級兵士は2人とも槍持ちだ。のんちゃんもランクアップした際に覚えた三段突きを繰り出して来る。
「ぐぅ…」
それぞれから9ptのダメージを受け、残りHPはちょうど半分の35ptだ。つまり、次のターンにはのんちゃんは倒されてしまう。
これは非常に拙い。真っ先に騎士を倒したいこちらとしては、向こうの上級兵士が【挑発】を使って来なかったのは助かったが、のんちゃんが次のターンで倒されてしまえば、3ターン目に騎士を倒したとしても、残りの上級兵士に俺とピー助がやられてしまう可能性が高い。
「のんちゃん【三段突き】を騎士に」
「はいっ!三段突き!!」
ガンガンガンッ!
のんちゃんは高速の3連撃を繰り出したが、相手の騎士の盾に阻まれてしまい、殆どダメージを与えることは出来なかった。
「くっ、すいません」
これは仕方がないだろう。相手は格上の騎士であるだけじゃなく、レベルまでのんちゃんよりも上なのだ。
「今のは私の判断ミスですね【三段突き】ではなく【突撃】にした方が良かったかもしれません」
そうか。装備によるダメージ補正は一撃ごとに計算されるから、のんちゃんの三段突きの基礎ダメージは槍の補正込みで7pt×3撃だが、相手の騎士のダメージ削減は鎧と盾で6ptの可能性が高い。
つまり差し引き1ptずつしか削れなかったということになる。
一方【突撃】なら、動き回ってタイミングを見計らい、乾坤一擲に飛び掛かるので、盾を躱した上でクリティカルヒットすら出せた可能性があった。
今後は装備のランクが高い相手には、連撃による総ダメージよりも一撃のダメージが高いスキルの方が良い場合があると覚えておこう。
まぁ全てはこのバトルに勝ってからの話だがな。
第2ターン
「ピア【アローレイン】を騎士に集中砲火です!」
「いっくわよー、アローレイン!」
「魔法の矢か。騎士よ、そんな物避けてしまえ」
騎士は攻守ともに物理属性に優れてはいるが、その代わりAGIはそれほど高くない。当然逃げ切れる筈もなく、全弾マトモに喰らってしまった。
「さっちゃん【セクシービーム】で追撃です!」
「セクシービーム!」
騎士がダメージを負って怯んでいる隙にセクシービームを叩き込む。
これで騎士の残りHPは約4割。
「おのれ、使い魔風情が!騎士よ、その悪魔を切り捨てよ!」
「おぉ、私には分かるぞ。其方は穢れなき乙女だ。そのような種族に生まれてしまい、さぞ苦しんだことだろう。私の元へ来るが良い。我が『聖剣』にて其方を身体の中から清めてやろうぞ!」
なんか良い話風に語ってるけど、言ってること完全に下ネタだよね?
あと聖剣とか言うなら、せめてランクを聖騎士にしてからにしろよ。
まぁなんにせよ、魅了されてくれたようで何よりだ。これで勝ちの目が出て来た。
「ちっ、王国騎士とあろう者が女に目が眩むとは情けない。兵士たちよ、今度こそ悪魔を刺し貫け!」
お前ものんちゃんのカラダを要求してたじゃねーか!とか突っ込んだら負けなんだろうか?
「さっちゃん先輩には、指一本触れさせません!」
再び三段突きを繰り出して来た上級兵士たちの攻撃を、のんちゃんは盾を使って捌き切り、被ダメを最小限に抑えてみせた。
「のんちゃん、騎士に【突撃】です!」
「はいっ!」
今の騎士は俺に魅了されているので、盾を使った防御は出来ない筈だが、鎧を着ている騎士を相手に【三段突き】でクリティカルヒットを出すのは難しいと判断して、アーニャは【突撃】を指示したようだ。
「行きます【突撃】!」
騎士の背後から全力で槍を突き込んだのんちゃんの一撃は、前ターンよりも明らかに多いダメージを与えることに成功していた。
しかし、これで漸く騎士のHPは4割を下回ったというところだ。
のんちゃんの残りHPは17pt。
次のターン、ピー助と俺の攻撃で騎士を仕留め切れなければ、続く騎士の反撃でのんちゃんが倒されてしまうだろう。
そうなれば、もはや俺たちに勝ち目はない。
なんとしてでも、次で騎士を仕留めなければならない。
第3ターン
「ピア【アローレイン】!さっちゃん【セクシービーム】!」
アーニャも焦っているな。僅かだが、普段よりも指示の出し方が雑になっている。
「いい加減くたばりなさいよねー、アローレイン!」
「セクシービーム!」
俺のターンが回って来た瞬間、すかさずビームを叩き込む。ピー助と俺の連撃による土煙で騎士の姿が見えない。
「今度こそ、やったかしら?」
おい止めろピー助、それ絶対やってないフラグじゃねぇか!
次第に土煙が晴れて行き、そして…
「クッソがぁ!!」
騎士の野郎マジで生きてやがった。
ヤバい!マジでのんちゃんが奪われちまう。
「まさか、ここまで栄えある王国騎士を追い詰めるとはな。賊ながら見事と褒めてやろう。冥土の土産に我が国の騎士が誇る奥義を見せてやろう。騎士よ、アレを使え!」
「ハァァァァァァ!!」
騎士の持つ剣が光輝いている。今までの上段斬りとは明らかに違うスキルだ。
「くっ…」
アーニャには「生き残った上で勝つ」と約束したのんちゃんだったが、それは最早難しい。
いや、それどころか敗色濃厚と言った方が的確な状況だ。
もはやのんちゃんは生き残ることは諦め、せめて俺だけでも守ろうと盾を身構えている。
「喰らえ【オーラブレイド】!!」
「せめてこの一撃だけでも……えっ、何で?」
決死の覚悟を決めてくれたところ悪いが、ここは俺の出番だ。
「ガハッ!?」
のんちゃんを突き飛ばした俺はそのまま騎士の一撃を喰らい、後方へ吹き飛ばされて行った。