第8話 姐さんと眠れる風呂の美少女
「ふにゃ〜」
体を綺麗にし終え、満を辞して湯船に浸かったアーニャは蕩けるような声を挙げた。
思春期男子が聞いたら一発で股間が大変な事になりそうな悩ましい声である。
これを天然でやってのけるとは、アーニャ恐ろしい子…
「アハハ。すんごい気持ち良さそうだねぇ。そんなに疲れてたの?」
おや?見知らぬ女子大生くらいのお姉さんが話し掛けて来たぞ。
「おっと、急に話し掛けてごめんね。別に怪しいもんじゃないよ?見たことない子が気持ち良さそうにお風呂入ってるもんだから、つい話し掛けちゃったよ」
暫定JDのお姉さんは腕やタオルで体を隠したりすることなく堂々とした様子で近付いて来て、そのままアーニャの正面に腰を下ろした。
「今日は朝から歩きっぱなしだったので、さっき寝ちゃいそうになったんですけど、さっちゃんにお風呂入れって起こされちゃいました」
「さっちゃん?」
「この子です。私の大事なお友達です」
アーニャがカードをナデナデしているが、触覚は機能していないので何も感じられない。残念!
「それってサーヴァントカード?へぇー初めて生で見た。ねぇねぇ、触らないからもうちょい近くで見ても良い?
「はい」
お姉さんはアーニャの正面から隣に移動して来て俺をマジマジと見る。
「ヤバ。何この子ちょー可愛いんだけど。サーヴァントってみんなこんなんなの?」
『おっぱいの形がとても綺麗なお姉さん初めまして。サキュバスのさっちゃんだ。よろしくな!』
…あれ?反応がない。もしかしてカード状態の俺の声ってアーニャにしか聞こえないのか?聴覚は機能してるから、会話なら出来るもんだと思ってたわ。
マジかよ。ちょいとアーニャさん、通訳しておくれ。
「綺麗なお姉さん初めまして。サキュバスのさっちゃんです。よろしくって言ってます」
通訳はしてくれたけど、おっぱいの件は省略されてしまった。まぁ初対面で「綺麗なおっぱいですね」とか普通にセクハラだよな。
種族がサキュバスだからか、下ネタ関連の倫理観?がかなり緩いんだよな。
気を付けた方が良いとは思うんだけど、大抵後になってから気付くから、どうにもならんかもしれん。
「サキュバスだから、さっちゃんってことかな?」
言外に安直じゃね?って声が聞こえる気がする。
「さっちゃんはあくまでも仮の名前です。近い内にさっちゃんに相応しい世界一可愛い名前を贈る予定です!」
むふ〜!と鼻息の荒いアーニャさん。
朝から何度も呼ばれてたら慣れてきちゃったし、もうこのままさっちゃんが真名でも良いんだが…
「ダメです!」
「えっ何?急にどーしたの?」
「さっちゃんがこのままでも良いって言ってる気がしました」
マジかよ。声に出してないのに的確に突っ込まれてビックリしたわ。
召喚されてまだ半日しか経ってないのに、マスターの愛が重いぜ。
「あはは。そーいえば自己紹介の途中だったわね。私はエリカ、大学3年よ。てゆーか、こんな可愛い子に綺麗なんて言われると何だか恥ずかしいわね」
「いえ、エリカさんはとても綺麗です。私も将来エリカさんみたいな美人さんになりたいです。って申し遅れました。私はアーニャといいます。15歳です。さっちゃん共々よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
二人揃って湯船の中でお辞儀をし合い、その後色々とお喋りをした。
「あぅ〜」
湯船に浸かりながらお喋りに興じた結果、アーニャがのぼせました。
現在アーニャは脱衣所のベンチに裸のまま仰向けで横になり、タオルで胸から太もも辺りまでを覆い隠されている。
「アーニャちゃん。お店の人に許可取ったから、さっちゃんを召喚して良いよ」
アーニャはのぼせながらも俺のカードを落とさないように胸の上に置き、更に上から両手で挟んでいた。
「うぅ〜。来て、さっちゃん」
カードが眩い光と共に空気中に溶けるように消え、光が納まるとそこにはカードに描かれていた美少女(俺のことね)が顕現していた。
「よぉエリカの姐さん。アーニャがすっかり世話になっちまったな。後のことは俺に任せてくれや」
「ツッコミどころが多過ぎる!その見た目でまさかの俺っ子?あと姐さんって何?」
アーニャは俺ランキングで世界一の美少女だが、残念ながらおっぱいのサイズは慎ましやかだ(プライバシーを考慮し、詳細は控えさせて頂きます)
一方姐さんは、我がサキュバスアイによると88のFカップ。
そんな男を片っ端から魅了するような豊満なバストの持ち主の割に未だに清らかな体のままだなんて、もはや姐さんと敬意を持って呼ばざるを得ないだろう。
「細かいことは気にすんなって。とりあえず後は俺が看病すっから、気にせず今日のところは先に家に帰ってくれや」
「まぁ、さっちゃんがアーニャちゃんをぞんざいに扱う訳がないし、任せるわよ?」
「おーよ。また会ったらアーニャと仲良くしてやってくれ」
「えぇもちろん。でも、アーニャちゃんの通訳と直接話すのじゃ印象全然違うし、次はさっちゃんともお喋りしたいわ。そんじゃお先にー」
さてさて、姐さんはこれ以上残ってもこっちに気を使わせてしまうだけだと理解し大人しく帰ってくれたが、うちの愛らしくもちょっとポンコツなお姫様はどーしたもんかね?