第72話 強くなりたい。
「ダンジョンから脱出しましたが、やはりすぐには復活出来ないようですね」
HPが全損したサーヴァントは、一時的にカードに戻り、魔力を蓄える為に眠りに付く。
のんちゃんは、今まさにこの状態ってことだ。
「魔力の補充は最長で半日掛かるらしいからな。どんなに遅くても、明日の朝には復活する筈だ」
「明日の朝ですか。のんちゃんはお風呂が好きなので、今夜も入れてあげたかったのですが」
銭湯に行く時刻までまだ時間はあるが、それまでに復活するかどうかは誰にも分からない。
こればかりは、なるようにしかならないだろう。
「ここで悩んでいても仕方がありません。とりあえず魔石を売却して、家に帰りましょう」
帰宅するなり俺たちはベッドに倒れ込んだ。正確に言うと、ピー助はテーブルの上に厚手のタオルで作ったお手製の鳥の巣チックなベッドなのだが、本人に言うとブチ切れるのでタブーだ。
アーニャは土埃が付いた服を脱ぎ捨てて下着姿になっているし、俺とピー助は再召喚して綺麗になっているので、布団やタオルは汚れない。
もはや何の憂いも無し。俺たちは泥のように眠りに付いた。人間抱き枕も今日ばかりは流石に休業である。
ふと目が覚めると、いつの間にか日が沈んでいたらしく、室内が暗くなっていた。
このままでは良く見えない為、電気を付けようとベッドから足を下ろしたところ、ぐにゅっと柔らかい何かを踏んだ感触がする。
「うぉっ!?」
「もー何よ、煩いわねー?」
「どうしたの、さっちゃん?」
俺の悲鳴により目を覚ますアーニャとピー助。
「何か変なもん踏んだ気が…って何してんだ、お前?」
「不甲斐ない姿を晒してしまいましたので、反省の意を示す為に土下座しておりました」
王国って西洋風の国なのに、土下座文化あるんだ?と今は関係ないことが頭に浮かんだ。
それはそうと、寝ながら召喚するとかどんだけのんちゃんのことを召喚したかったんだよ?
そこまでアーニャに想われているのんちゃんに、ちょっとだけジェラってしまったぜ。
「さっきも言ったろ?のんちゃんは良くやってくれたよ。もし俺とピー助の2人でバトルしてたら100パー負けてたぜ?」
俺が倒されたら、アーニャの護衛が居なくなる。ピー助は飛んでいるから安全だが、攻撃が不可能だと判断したら、ターゲットはアーニャに向いてしまうので、結局ピー助がダメージを負うことになり敗北は濃厚だ。
「しかし、盾役の私が真っ先に倒れてしまうなんて」
「なら今よりも強くなれば良い。その為のキーはピー助がゲットしてくれたぜ?」
「ピア先輩が?」
「のんちゃんはまだまだ強くなれるわ。これがその第一歩よ!」
「これってR:上級兵士のカードじゃないですか?まさかドロップしたのですか?」
これがあれば、のんちゃんも俺たちに並んでRサーヴァントになれる。レベル差は多少あるだろうが、その程度は誤差の範囲だろう。
「のんちゃんの強くなりたいって想いに、ダンジョンが応えてくるたんじゃないか?」
「私、強くなります。皆さんを守った上で私自身も生き残れるくらい、誰よりも強くなってみせます!」
落ち込んでいたのんちゃんの目に光が戻ったが、HNからRにランクアップするにはレベル上限である20に到達する必要がある。
最後のバトルの経験値が入ったことでレベル15になったのんちゃんだが、まだまだ足りない。
☆2最初の公式戦にRサーヴァントが3人揃った状態で臨む為にも、1日も早くレベル20に到達して貰いたいものだ。




