第58話 真名と誓い
エリカに『あーん』をした後は、たこ焼きを焼いてはひたすら食べまくり、いつの間にか酒が入っていたエリカ主催による、女4人での女王様ゲームが勃発。
服を脱いだり、おっぱい揉んだり、ほっぺにちゅーしたりと パーティは大盛り上がりであった。
「今日で☆2に昇格もしましたし、そろそろさっちゃんとピーちゃんの真名を命名したいと思います!」
「おー、やっとか。何だかんだと2ヶ月の付き合いだし『さっちゃん』も気に入ってたんだがな」
「私は早く鳥公みたいな仮名から解放されたいわ!」
お前はどんだけ鳥が嫌いなんだ?焼き鳥とかは普通に食ってんじゃねぇか!
「まず、さっちゃん。貴女の真名は、幸せと書いて『幸』です。私は貴女に出会えたからこそ、ここまで来られました。貴女に出会えたことは私の人生で最大の幸福です。そして貴女にも、私に出会ったことは幸せであったと思って貰えるように、これからも努力を続けることを誓います」
「俺の真名は幸か…って、ちょっと待て!それって結局『さっちゃん』じゃね?」
「はい。さっちゃんはこれからも『さっちゃん』です!」
「えー…」
何か緊張して損した。
「次!次は私の番!」
「ピーちゃんの真名は『ピア』です」
「ふーん、ピアね。まぁまぁ可愛いんじゃない?」
あれ?俺の時みたいに、命名の由来的な物は語らんの?
「アーニャちゃん、ピーちゃん…ピアちゃんの名前はどーやって決めたの?」
「仲間という意味もありますが、一番の理由は音の響きが可愛いかったからですね。ちっちゃくていつも元気いっぱいなこの子にピッタリだと思いました」
まさかの音感が決め手だった。
「ピアか。まぁ俺はピー助のままで良いな。もう慣れちまったし」
「何でよ!?ピースケってピアよりも文字数多いじゃないのよ!」
ピー助め、俺が付けてやったあだ名に何が不満だと言うのか?
「そう言われても、ピー助はもうピー助って感じだし」
「ア、アーニャはちゃんと『ピア』って呼んでくれるのよね?」
コイツ意外と打たれ弱いな?アーニャに縋るような眼差しを向けてるし。
「もちろんです。これからもよろしくお願いします、ピア」
「私はピアちゃんって呼ぶわね」
「アンタのことはサチと呼ぶわ!そして新入りが入って来たら、私のことを『ピア先輩』と呼ばせてやるんだから!」
アーニャとエリカはちゃんとピアと呼んでくれると知って、ピー助のテンションが元に戻った。
「まぁ好きにしろよ」
盛大な野望があるようだが、次の仲間が喋れるタイプとは限らんぞ?スライムとかだったら、どうすんだろ?アイツらって基本プルプル震えるだけじゃね?
時刻は23時、夕方からパーティを始めたので、軽く6時間以上は騒いでいた計算になる。
エリカは酒も入っていたこともあり、既にベッドでダウンしている。
ピー助も思う存分ケーキやらアイスやらと好物の甘い物を食べまくって満足したようで、ケーキが乗せられていた皿の上に丸まって寝ている。レオタードがクリームでベタベタだが、再召喚すれば綺麗になるので放っておく。
アーニャもコップ一杯だけだがチューハイを飲んでいたようで、薄らと頬が赤くなっている。
「さっちゃん、聞いても良いですか?」
「ん?改まってどうした?」
「さっちゃんは、エリカさんのことをどう思っているのですか?」
「もちろん好きだぞ?アーニャとも仲が良いし。なんなら本当の姉妹に見える時があるくらいだ」
「私もエリカさんのことが好きです。親戚のお姉ちゃんみたいに思っているのかもしれません。でもそれは、さっちゃんがエリカさんを『好き』なのとは違うのですよね?」
「…そうだな。俺の『好き』は『キスしたい』とか『抱きしめたい』とか思う方の『好き』だ」
「私にはまだ、私の『好き』と、さっちゃんが言う『好き』の違いがよく分かりません。キスをすれば分かるようになるのでしょうか?」
「どうだろうな?ただこれだけは言っておくが、俺にとっての1番はアーニャ、お前だ。もちろんエリカのことは好きだが、アーニャのことはそれ以上に好きだ。いつか『好き』の意味が分かるようになって、俺にアーニャだけを好きでいて欲しいと思ったら言ってくれ。エリカとは普通の友達に戻るし、他の女も一切見ないようにしてアーニャだけを愛し続けると約束する」
「…さっちゃん、今から私とキスして下さい」
「良いのか?まだ『好き』の違いが分かってないんだろう?もしかしたら将来後悔するかもしれないぞ?」
「さっちゃんが相手なら、何があっても絶対に後悔はしません。目を閉じれば良いんですよね?」
アーニャは本当にただ目を閉じただけで、相手がキスし易いようにと、顎を上げたりとかはしていない。
事ここに及んで「本当に良いの?」だの「するよ?」だの口にはしない。
黙ってアーニャの唇に俺の唇を重ねた。
舌を絡めたりといった情愛を交わすような熱いキスではない。
ただ唇が触れ合っているだけの拙いキスだ。
下級夢魔の汚名も納得の為体である。
他のサキュバスならば、舌を絡めて思う存分口の中を舐り、服を脱がせつつ押し倒した挙句、下着を脱がせて脚を開かせることだろう。
だが俺にはそんなことは出来ない。まだアーニャにはそこまでの覚悟はないだろうし、何ならえっちの知識すら朧げかもしれない。そんな子を欲望のまま喰い散らかすということは『アーニャを大事に思う俺の心』がサキュバスの本能に負けたことを意味する。
俺はアーニャが世界で一番大事なのだ。
彼女を悲しませることは、たとえ俺自身であろうとも許さない。
だから俺は、サキュバスの本能である性欲をアーニャ以外の女の子に向けることで発散するのだ。
世界で一番愛している子だけは決して傷付けない為に。
そう、エリカは『俺からアーニャを守る為の生贄』だ。
全く意識していなかったが、今ハッキリと自覚した。
俺は、あの美しい少女から『男と恋をして結婚し子供を産み育てる』という、当たり前にあった筈の未来を奪ってしまったのだ。
エリカは既に俺に惚れてしまっている。今更普通の男と恋をするのは難しいだろう。
ならせめて俺を好きになって良かったと、幸せであると思って貰えるように、俺もまたエリカを全力で愛することが責任の取り方だと思う。
きっと人は俺はをクズだと言うだろう。
構わない、好きに罵るが良いさ。
それでも俺はアーニャを愛するし、アーニャを傷付けない為ならエリカを抱くし、他の女も抱くと決めた。
その代わり、俺は俺に関わった全ての女を幸せにする。
それが『幸いあれ』と名付けられた俺のサキュバスとしての生き方だと、この真名に誓おう。




