第54話 お前の弱点はお見通しだ!
アーニャ スメラギ
アンティ:妖精(♀)
R:下級夢魔(♀) レベル21 HP:51
R:妖精(♀) レベル21 HP:30
VS
グラン トウドウ
アンティ:狼獣人(♂)
R:狼獣人(♂) レベル28 HP:95
HN:グレイウルフ(♂) レベル20 HP :53
お?元☆2の面目躍如かな?Rのレベルが俺たちよりもかなり高い。でも何年もマスターをやってる割にカンストすらしてないってことは、ヌルいレベリングしかしてないようだな。
第1ターン
「ガルム、マスターに【噛み千切る】だ!」
「ガルゥ!」
なぬ?初っ端マスター狙いとは珍しい戦法を。ちょっと予想外だったので反応が遅れ、アーニャへの接近を許してしまった。
「くっ…」
マスターはバリアでガードされてるから怪我はしないけどある程度の痛みは感じるし、何より高確率でクリティカルヒットとなり、そのダメージが各サーヴァントに分散される為、俺が7pt、ピー助が8ptのダメージを受けてしまった。
「お前のバトルはほぼ全てチェックしている。そして気付いたのさ!そこのサキュバスは一度も魔法を使用した事がない。いや、魔法が使えずビンタかゴブリンの棍棒で殴ることしか出来ない欠陥サキュバスなんだとな!つまり、そっちのピクシーさえ落としてしまえば、腰を振るしか脳のない欠陥サキュバスなんぞ恐るるに足らずだ!」
凄ぇ得意げに解説してくれてるけど、それってアーニャが張った罠なのよね。
サキュバスは、どうしても男サーヴァントをエースに据えているマスターからは警戒されてしまう。
だから敢えて公式戦では【セクシービーム】を封印することで魔法を使えないと誤解させ、Rカードを賭けたバトルに引き摺り込めないかと考えた訳だ。
今までは残念ながら上手く行かなかったが、最後の最後に獲物が罠に掛かったようだ。
「ふふふっ、ピーちゃん【妖精の加護】です」
折角張った罠が不発に終わるかと思っていたところに、自信満々なお馬鹿さんがやって来てくれたので、アーニャも嬉しそうだ。
「やったりなさい、さっちゃん!妖精の加護」
ピー助のバフにより俺のAGIが上昇した影響か、次の行動順はグレイウルフではなく俺になった。
「さっちゃん、まずは数を減らして下さい!」
「おうよ!セクシービーム!」
攻撃済みの狼獣人(♂)は敢えて放置して、取り巻きのグレイウルフ(♂)に狙いを定める。
俺が魔法を撃って来るなんて想定外だったおっさんは全く反応出来ず、グレイウルフはビームを直撃。MENのステータス差とクリティカルヒットでHPが8割くらい消し飛んでしまった。
しかも魅了判定に成功し、俺に見惚れて行動不能になっている。
「ばっ、馬鹿なっ!?そいつは魔法を使えない筈だ!?」
「貴方のように勘違いしたお馬鹿さんを釣り上げる為に、今まではわざと使わなかっただけです。サキュバスが魔法を使えないなんてある訳がないでしょう?そんな浅い戦略しか練れないから貴方は未だに☆1なんですよ」
レベル10になるまで俺が魔法を使えない欠陥サキュバスだったことは事実なのだが、アーニャさんは素知らぬフリをして、ここぞとばかりにおっさんを煽っている。
たぶん新人狩りをして連勝数を稼ごうという性根が気に入らなかったんだろうね。
第2ターン
「クソっ!だったら接近戦だ!ガルム、サキュバスの喉笛を噛み千切れ!!」
「グルァァァァァ!!」
「ほいっと」
狼獣人とは飽きるくらい戦ったって言っといただろうに、普通に真っ正面から突っ込んで来やがった。
空に飛んで逃げても良いんだが、そうするとまたアーニャに襲い掛かりそうなので、小鬼王の棍棒を実体化して牙を受け止める。
「ちっ、運が良い奴め!ガルム、そんな棒きれなんぞ噛み砕いてやれ!」
「いや、無理無理。これゴブリンからドロップした棍棒?じゃなくて、ゴブリンキングの棍棒だから、噛み付いた程度じゃヒビすら入らんよ?」
「な、何だと?あのゴブリンキングを倒したというのか!?」
なんか俺が魔法を使ったこと以上に驚いてんな。
「セクシービームでハメ殺してやったから余裕だったぞ?3ターンだっけか?」
「何だか懐かしいわねー。正直雑魚だったことしか覚えてないけど」
「ボス補正とプリーストのヒールで延々回復され続けるゴブリンキングが雑魚?」
おっさんがショックで固まっている。そーいや、古参どもにはゴブリンキングってトラウマなんだったっけ?
「あんな雑魚にすら勝てないようじゃ、そりゃ☆2から蹴落とされるわ。アンタ才能ないんじゃない?今日でRカードも無くなるし、もういっそ引退したら?」
ピー助の煽り方が酷い。俺でもそこまでは言わんぞ?
「ぐっ…」
「ピーちゃん【アローレイン】です」
「やっと私も攻撃出来るわね!喰らいなさい、アローレイン!」
ピー助が打ち上げた魔法の矢が10本に分裂する。そしてそれぞれの矢とピー助の10指には魔力で出来た極細の糸が繋がっており、精密な操作が可能となっている。
動きが速い獣人相手とはいえ何発も避けられることに腹を立てたピー助がGRに猛抗議した結果、レベル20になった際に若干仕様変更された。
代償として範囲指定サークルが大きくなり、敵の行動可能範囲も拡がってしまうことになったが、それを補って余りある効果を発揮する。
ピー助の指の動きが矢と連動することにより、攻撃時間ギリギリまで矢の操作が可能となり、命中率が格段の向上を見せたのだ。
「ちっ、矢など全て避けてしまえ!」
馬鹿め、獣人の回避パターンなんぞ既に見切っている。今更ピー助が外す訳がない。
「グルォォォォ!?」
全弾命中!残りHPは2〜3割といったところだ。
「さっちゃん【セクシービーム】で獣人にトドメを刺して下さい!」
「セクシービーム!」
「ガォォォ!?」
大ダメージを受けて痛みに蹲っていた狼獣人に容赦無くビームを撃ち込み、魅了判定をする間も無くHPを削り切った。
残るはHPが半分を割ったグレイウルフのみ。向こうの勝てる見込みなど、もはや0だろう。
「何故だっ!?まだデビューしてから、たった2ヶ月かそこらだろう?何故お前らはこんなに強いんだ?」
おっさんが血を吐くような声を挙げる。
「貴方が自分よりも下の存在を必死に探している時間、私たちは自分が強くなることだけを考えていたからですよ」
反論しようがない正論で真正面からぶん殴られたおっさんは、戦意を失ったように膝を付いた。