第5話 燃やすな危険
「あれ?倒せちゃったの?」
妖怪1タリナイが現れて、ゴブリン君は生き残ると予想していたのだが、悲しげな声を残して死んでしまった。
アーニャも先の一撃で倒せるとは思っていなかったのだろう、不思議そうに首を傾げている。
「たぶんクリティカルヒットしたんじゃねーか?」
相手が攻撃に対して無防備だったり急所に攻撃を当てた場合、クリティカルヒットの判定となりダメージが通常の1.5倍になるのだ。
「あー、そういえば授業で聞いたかもです。ダメージが増えるんでしたっけ?」
「1.5倍な。他にも行動順を一つずらす効果もあるけど、今は俺しかいないから特に意味はねぇな」
ザックリ説明すると、俺→ゴブリン→仲間Aっていう行動順だった場合、俺がクリティカルヒットを出したら、仲間A→ゴブリンの順番に入れ替わり、わざわざ走って逃げ回らなくても仲間が攻撃することで倒せる可能性が出て来るのだ。
「なんとなく分かりました」
そんな難しいこと言ってないだろ。薄々気付いてはいたが、アーニャはちょっとアホの子のようだな(マイルドな表現)
こちとら前世は娯楽溢れる日本の男子中学生だったのだ。ドラ○エやポケ○ンなんかのメジャーどころのRPGは嗜みとしてプレイした経験がある。
美少女マスターとのいちゃいちゃライフの為にも、俺がアーニャを一端のマスターに育ててやるぜ。
「おっと、忘れずにドロップアイテムを拾わんとな」
ダンジョンで金を稼ぐ方法にはいくつか種類があるが、一番機会が多いのがモンスターがドロップする魔石の回収だ。
魔石は前世での発電機や乾電池に相当する品である。人々の生活には欠かせない物なので、専用の買取所で売却することが出来る。
また、モンスターが強ければ強いほど大きく高品質な魔石をドロップし、買い取り価格も相応に上昇する。
他にはモンスターが所持していた装備や、毛皮や牙など体の一部がカード状態でドロップすることもあるし、宝箱を発見すれば金目の物が手に入る可能性もある。
「レベル1ゴブリンの魔石だし1Gってところかね?」
転移ゲート代で10G払っているので、最低10匹は倒さないと収支は赤字だ。
それに加えて宿泊費や食費を考えたら、追加で何か入手しないと戦力拡充どころか、アーニャの貯金は減る一方になってしまう。
「おっ、カードもあるぜ」
ゴブリンのサーヴァントカードか、それともアイテムかは見てみないと分からないが、売れば活動資金の足しに出来るだろう。
魔石の近くに落ちていたカードを手に取ると、アイテムの詳細が書かれたウィンドウが表示された。
ゴブリンの腰布
レアリティ:N
効果:なし
備考:臭い汚いボロいの三重苦。雑巾として使用したら逆に汚れるだろう。
ゴミじゃねーか!
バシンッ!とメンコのように地面に叩き付ける。
クソったれ。うっかり拾っちまったよ。指に臭いが移ってねーだろうな?
恐る恐る指の匂いを嗅いでみたが大丈夫だった。カード状態なら問題ないようだ。
だからと言って気分的に好んで触りたくはない。このダンジョンに通う間は、菜箸か何か持って来た方が良いかもしれん。
こんなゴミが金になるとは思えないので当然放置。
つーか、どーせなら棍棒落とせよ。少なくとも素手で殴るよりはマシな筈だ。
気を取り直してダンジョン探索を再開。
とはいえ、☆1ダンジョンに出て来るゴブリンなんて個体差で多少ステータスが増減するくらいで、イレギュラーなんて起こらない。
最初の一発目はクリティカルヒットを期待して【往復ビンタ】で攻撃し、残りHPが4pt以上ならもう一発。
残りHPが3pt以下なら、時間は掛かるけど殴ったり蹴ったりして削り殺す。
MP回復アイテムなんて持ってないので、出来るだけ節約しないといかん。
5匹目を倒した際にレベルが上がったことでHPとMPが全回復したので探索を続行可能となったのは運が良かった。
ゴブリン一匹倒すのに、殴って1ダメ→逃げる→殴るを繰り返すのは精神的にキツい。
ちなみに素殴りではクリティカルヒットは出ない。クリティカル判定は攻撃スキルのみが対象だ。
MPが尽きたら、赤字確定だとしてもレベリングの必要経費として撤退も已むなしだと思う。
レベルアップまでの必要経験値が分からないのが地味に不便。
あと何匹倒せばレベルが上がるか分かっていれば地味な戦闘も頑張れるけど、数値どころかモンスターのHPバーみたいなのも無いから、マジで全く分からない。
そんな俺の不満の声を神的な誰かさんが聞き届けてくれたのか、10匹目のゴブリンを倒した際に念願の棍棒をドロップしてくれた。
棍棒?
レアリティ:N
効果:物理属性ダメージ+1
備考:持ちやすい太さと長さの木の枝。素手で殴るよりはマシ。
アイテム名では棍棒?なのに、備考で木の枝って言っちゃってるじゃん。
一応ダメージ補正はあるみたいだから別に良いけど、若干モヤッとする。
MPを使わなくても棍棒?で殴れば2ダメ与えられるから、これからは戦闘がちょっと楽になるな。
どうでも良いけど、燃やしたらとんでもない悪臭を周囲に撒き散らしそうな不燃ゴミは3匹に1個くらいドロップする。
ゴミを不法投棄するんじゃないよ。ダンジョンさんだって良い迷惑やろ。
そんなこんなで戦闘を挟みつつ小一時間ダンジョンを歩き回り、第1階層をマッピングし終えた。
「どーする、さっちゃん?第2階層に進んでみる?」
最初の頃は「ですます」調だったのだが、俺との会話に慣れて来たのか、次第に砕けた口調で話すようになって来た。
それはそうと、正直残りMPは心許ない。とゆーか、あと1回しか【往復ビンタ】は出来ん。
「まぁ1階層進んだだけでゴブリンが急激に強くなったりはしないだろうし、俺のHPもほぼ満タン。初戦でやられるってことはまずないっしょ」
マッピングはキッチリしてあるし、最悪俺が戦闘不能になっても、アーニャ1人で問題なく脱出出来る筈だ。
「よーし!目指せお宝!! 」
どーやらアーニャさんは、第1階層を隅々まで探索したのに宝箱を発見出来なかったのが不満だった模様。
完全に目がGマークになってやがる。