第39話 一週間後
銭湯で両手に花をするようになってから一週間が経ったが、特にこれと言って事件は起こっていない。
朝食後から昼過ぎまではダンジョンでレベリング。
昼食後、或いは食べながら闘技場で観戦。
トトカルチョは1日10Gまで。毎試合賭ける訳ではなく、勝率が高そうだと判断した時だけ小遣い程度の額で遊ぶに留める。
そして夜は銭湯で両手に花。
姐さんにコッソリ「指派?オモチャ派?」と聞いたら、意味を一瞬で理解出来たようで「興味はあるけど、恥ずかしくて1人じゃお店に入れない」と教えてくれたので、今度一緒に買いに行ってあげようかな?
店に入れないのなら「ネット通販で買えば良くね?」と言ったら「万が一知り合いが働いてたら、名前と住所で自分だとバレるから絶対無理」とのこと。
まぁ確かに元同級生の大半が既に働いているので「エリカの奴、こんなオモチャで毎晩自分を慰めてんのかよ?そんなに溜まってるなら住所も分かったし、ダチも誘って次の休みにでも遊びに行ってやるか?」とか起こりそうなので通販は却下だ。
サキュバスである俺と一緒に買いに行けば、最悪店内で知り合いに遭遇したとしても「友達のマスターに頼まれて俺の付き添いで来ているだけだ」と誤魔化すことが可能だ。
そうなると問題はアーニャだな。姐さんと買い物に行くなんて言ったら、絶対に付いて来たがるのは目に見えている。
しかし、アーニャに『オトナのオモチャ屋さん』はまだ早い。別行動をする理由を何か考える必要があるな。
夕食後はスマホで動画を見たりしてダラダラ過ごし22時くらいに就寝。翌朝は6時に起床という早寝早起きな、実に健康的な生活を送っている。
「セクシービーム!」
尻尾の先端から放たれたハート型のピンク色の光線にホブゴブリンが心臓を撃ち抜かれ、そのまま一撃で消し飛んだ。
「かつての中ボスも、最近はすっかりモブ扱いだな」
「それって、アンタがちんちん殴って悶絶させた5層のアイツのこと?中ボスってほど強くなかったと思うけど?」
まぁな。ボス補正があったとはいえ、実質ピー助の魔法2発で倒したようなもんだし。
「嫌な事件だったね」
「アーニャ!どこでそのセリフを?」
「???」
どうやらただの偶然だったようだ。びっくりしたわ。
「奴は今頃何してるんだろうな?」
「ショップに売ったばっかだし、まだガチャ倉庫で寝てるんじゃない?」
第5階層の中ボスであったHN:ホブゴブリン(♂)のカードは、アーニャが使用を拒否したのでその日の帰りにカードショップで売却された。
買取価格は意外にも400G。ドロップ率1%の臨時収入とはいえ、中々のお値段でした。
最悪来年の新人デビューシーズンまで眠り続けることになるんかね?
「それはそーと、漸くアンタも魔法系サーヴァントっぽくなって来たわね?このまま【強撃】でも覚えるんじゃないかと思ったわ」
ピー助の元同僚であるオーガが保有していた、鉄の棍棒を使用した物理攻撃スキルだな。
俺も棍棒?で日々ゴブリンを撲殺してるし「マジで撲殺系スキルが生えて来たらどうしよう?」とかちょっと不安に思ってたんだから、古傷を抉るんじゃねぇよ。
「レベル5で何か覚えるかと思ったけど、結局レベル10で漸くだったからね。でもその分、色々使い勝手は良さそうだよ?」
アーニャがフォローしてくれた。好き。
「まぁな。ただ魔力の塊をぶっ放すだけの【マジックアロー】とは性能が違うぜ。主役は遅れてやって来るってやつよ」
ピー助には意趣返しとして、攻撃魔法マウントを取って行く。
「ふふーん!私のはあくまでも初期スキルだし、次のスキルは単体中ダメージか全体小ダメージね。アンタの吠え面が目に浮かぶわ」
ちっ、実際覚えそうだからムカツク。
あぁ勘違いしないでくれよ?別に俺とピー助の仲は悪くないぜ?
この程度の軽口は日常茶飯事なのだ。
俺もピー助も、アーニャのサーヴァントとして互いを尊重しているので、変に取り繕った会話をしないだけだ。
日頃から黙って不満を溜め込んだりしないので、ある日突然爆発して関係修復が不可能になるという事態にはならない。
口喧嘩をしたとしてもその場限りの物で、その後引き摺ったりはしないのだ。
俺はエロい事をしたり、ピー助は甘い物を食べるか風呂にでも入れば、僅かに残っていた不満も『些細な事』として処理され『そういえば、そんなこともあったな』程度の認識に落ち着く。
人間の女の友情は、仲良さそうに見えて裏ではドロドロしてるらしいからな。サーヴァントはその辺サッパリしてるから気が楽だわ。