第3話 最後尾はこちらです
各ダンジョンへ行くには自力で歩いて行くか、金を払って転移ゲートを使用するかのどちらかになる。
草原の方なら精々徒歩30分程度の距離だが、巣穴の方は軽く2時間は掛かる。アーニャの足なら3時間は見た方が良いかもしれない。
☆1ダンジョンへの転移ゲートの利用料金は往復で10G必要だが、移動時間と消耗する体力を考えると後者一択だろう。
急いだ甲斐があったのか、転移ゲート広場はまだそれほど混み合っていない。
目的地ごとに順番待ちの列が出来ており、最後尾の人が【○○行き最後尾】と書かれた棒付きの札を持っている。
コミケのサークル会場みたいな感じだと言えば、日本の同志諸君には伝わることだろう。
ちなみに俺は行ったことがない。だって中学生じゃ薄い本は買えないし。
「あった!☆1ダンジョン行きはあっちの列みたいですよ」
アーニャが指差している方向を見ると、端の方に10人くらい順番待ちしている列があった。
「ものの見事に端っこに追いやられてるな。まぁ利益率の低い☆1ダンジョン行きなら当然か?」
俺たちが最後尾に並ぶ頃にはさらに何人か減るだろうから、それほど待たずに済みそうだ。
「小鬼の巣穴までお願いします」
「はい。ちょうど頂きました。こちらのゲートへどうぞ
係員が持っている端末にアーニャがカードをタッチすると「ピロリン」と音が鳴った。
これで決済完了らしい。異世界にも電子?マネーの波が来ているようだな。
「手を繋いでも良いですか?」
ついさっきまで明るかったアーニャだが、人生初のダンジョン探索を前にちょっと緊張しているのか、顔が少し強張っている。
あくまでもモンスターと戦うのはサーヴァントである俺だけだし、その俺が戦闘不能になってカードに戻ったとしても、その後はマスターであるアーニャが攻撃されることはない。
全サーヴァントが戦闘不能になった場合、モンスターはマスターの存在を無視するようになるのだ。
だからといって、モンスターに襲われないのを良い事にマップ作成の為に未踏区域の探索を続行したり、宝箱を発見して開けたりすれば、流石に容赦なく襲い掛かって来る。
そうなったら流石に死あるのみだ。
あくまでも真っ直ぐ出口に向かって歩きさえすれば、見逃してくれるに過ぎない。
何故モンスターがそんなことをするのかと言うと、この世界の神的な存在がそうルールを定めたからだ。
対応さえ間違えなければマスターが死ぬことはないとはいえ、それでも100%の安全が保証されている訳ではないのだから、15歳の少女に緊張するなという方が無茶ってもんだ。
怖がりな彼女と遊園地に行って「所詮作り物なんだから、お化け屋敷でキャーキャー騒ぐなよ」とか言うのに近いかもしれないな。
そんなデリカシーのない事を口にしたら、その場で振られても文句は言えないだろう。
「アーニャには俺がいる。ゴブリン如きにゃ指一本触れさせねぇよ」
「は、はひ…」
ちょっとキザ過ぎただろうか?アーニャの手をギュッと握って微笑んであげたら、顔の強張りはなくなったが、代わりに顔が真っ赤になってしまった。
まぁやっちまったもんはしょーがねぇ。俺たちは仲良く手を繋いだまま「せーの!」と同時に足を踏み出し、転移ゲートを潜った。




