第29話 嘘は言ってませんよ?
まだ話の途中だったのだが、係員が「時間です」と呼びに来たので、闘技場の戦闘エリアに移動した。
闘技場のバトルエリアには、漫画に良くある武闘大会の石畳のリングみたいなのは存在しない。
魔法とかで派手にぶっ壊れるし、戦闘開始と同時に外部に影響を及ぼさないよう半ドーム状のバトルフィールドが展開されるので、場外負けとかもないから作る意味がないのだ。
基本的にバトルに時間制限はなく、どちらかが全滅するか降参するまで戦闘は終わらない。
また、普段サーヴァントを連れ歩いていることが多いマスターだが、公式戦の時だけは別だ。
様式美として、一度カードに戻してから入場し、バトル直前にサーヴァントを召喚するのが暗黙の了解となっている。
最初からゾロゾロ連れて来て『時間になったから戦うか』では、なんとも盛り上がらない。
自分のサーヴァントを一体ずつ召喚して行くことで取れ高が発生するのだ。
☆1の公式戦なんかにTVの取材なんか来ないけど、これも将来の為の練習なのだ。たぶん。
「おいで、さっちゃん!」
数分ぶりに召喚されたが、やはりシャバの空気は美味いぜ。
「おい!これはどういうことだ!?」
何かアレックスが騒いでいる。
「あん?どーかしたんか?」
「何故1VS1になっているのだ?そのような条件は無かった筈だぞ?」
「はい。特に1VS1という条件は付けていません」
「なら何故召喚枠が1つしかないのだ?おかしいだろう!」
「別におかしくないですよ?私の召喚数に合わせて調整されただけでしょう」
「そういえば、何故アーニャさんはサキュバスしか召喚していないのだ?他の2体はどうした?」
「持っていません」
「…は?」
「私はさっちゃんしかサーヴァントカードを持っていないので、これ以上の召喚は不可能です」
これが今回の俺たちの作戦。公式戦の裏ルールってやつだ。
公式戦は3VS3が一般的だが、稀に負け続けてカードを大量に奪われてしまったり、金欠からショップに売却してしまい、カードの所持数が3枚未満になってしまうマスターがいる。
そんなマスターが次の公式戦に出場しても2VS3や1VS3のマッチングになってしまい結果は見えている。
そこで、そんなマスターにも勝てる可能性を与える為に『マスターのサーヴァントカードの所持数が3枚未満の場合、相手のマスターはサーヴァントの召喚数を合わせなければならない』というルールが生まれたのだ。
アーニャは俺しかサーヴァントを所持していないので、アレックスはアーニャに合わせて1体しかサーヴァントを召喚することが許されない。
昨日オーガを手に入れたことで、ラージスライム、ピクシー、オーガのR3枚編成での戦術を一晩考えて今日を迎えた筈だ。
でもダメ。全部ご破算である。
アレックスは事前に戦略や戦術をキッチリ練ってから公式戦に臨むタイプだ。
それが全て崩れ去った今、あいつの頭は真っ白になっていることだろう。
「マスター アレックス。あと1分以内にサーヴァントを召喚して下さい。召喚しない場合、戦闘の意思なしと見做し不戦敗とします」
だがしかし、そんなことは闘技場の係員には関係ない。予定時間を1秒でも過ぎたら、容赦なくアレックスを不戦敗扱いにするだろう。
「くそっ、落ち着くんだ僕。相手はサキュバスだ。魔法が得意な筈。特性上グラトニーは相性が悪い。最悪最初の一撃でやられてしまう。オーガならどうだ?サキュバスが撃たれ強いってことはない筈だ。いや待て!サキュバスには魅了がある。僕のオーガは♂だ。操られたら何も出来ないままやられてしまうかもしれないし、レベリングしてないから攻撃力も低い。後衛タイプとはいえ、流石に1発で倒せるとは思えない。ならアーニャはどうだ?同じ女ならサキュバスの魅了は効かないから、向こうの最大の強みを潰すことが出来る。魔法の打ち合いになっても、ピクシーには羽がある。飛んで逃げればファンブルさせることも可能だろう。体が小さいから当て難い筈だ。よし行けるぞ!いでよアーニャ!!」
アレックスがすんごいブツブツ呟いてる。
そして長考の末に時間ギリギリで召喚されたのは、俺たちの予想通りピクシーのアーニャだった。
この後、観客によるBET TIMEを挟んでバトル開始となります。




