表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/102

第21話 勝者と敗者と謀者

モブとモブとモブの話なので、今回は途中から第三者視点に切り替わります。

 漸く自分が負けたことを理解出来たのか、膝から崩れ落ち泣き喚く狼獣人のマスター、もとい元マスターの少年(名前忘れたから負け犬で良いや)


 対照的に鬼族デッキ使いの少年は、手に入れた狼獣人(♀)を負け犬に見せ付けるようにその場で召喚し、ほど良く括れた腰に手を回す…と見せ掛けて、あれはケツを揉んでると見た。


「言い様だな、シノザキ。この雌犬はてめぇみてぇな雑魚にゃ勿体ねぇ。今日からは俺が可愛がってやるよ。ヤり飽きたらオーガたちにもヤらせてやっても面白いかもな?」


「んだと!?カトウ、てめぇ!!」


 どっちもガラ悪いなぁ。アーニャの学生生活は本当に平和だったのだろうか?


 チンピラに挑発されてキレた負け犬が殴り掛かったが、すぐさま狼獣人(♀)が2人の間に割り込み、負け犬の手を捻り上げて地面に引き摺り倒してしまった。


「おいおい?マスターに危害を加えるのはご法度だぜ?散々ガッコで習ったじゃねーか?」


「放してくれジェシカ!俺はお前の為に!!」


「私の今の(マスター)はマイケル様です。またその真名は契約が解除された時点で無効になっております」


「ジェシカ?あー、そーいやお前のクラスにそんな名前の女がいたっけか?え、何お前?もしかして片思いしてた女の名前をサーヴァントに付けちゃったの?そんでジェシカ!ジェシカ!って昨日の夜腰振ったのか?」


 チンピラがゲラゲラ笑っている。


「ぐっ…」


「ならコイツの真名は『ジェシカ』にしよう。雑魚のお前に代わって俺が『ジェシカ』を可愛いがってやるよ」


 ゲスい、ゲス過ぎる。しかしチンピラは何も咎められるようなことはしていない。


 むしろ負け犬の方がヤバい。チンピラの気分次第では殺されても文句言えない立場だ。


「その辺にしておけ。これ以上敗者に追い討ちを掛けるな」


 おや?何か漫画の主人公みたいな少年が現れたぞ?




※第三者視点


「あーん?お前、確か3組の…」


「アレックス シンジョウだ」


「あー、そんな名前だったか。で?何か用か?」


「そいつを放してやれ」


「はぁ?コイツは俺に襲い掛かって来やがったんだぞ?殺されたって文句は言えねぇ。ただで解放するってのは割に合わねぇな?」


「なら明日、僕と公式戦(バトル)をしよう」


「はぁ?俺の今週のノルマはさっき終わったんだ。んなもん受けるメリットがねぇよ」


「明日の公式戦で、僕はアンティにRカードを賭けると言っても?」


「本気か?コイツのザマを見たろ?Rカードを失ったら破滅だぜ?」


「心配には及ばないよ。僕もRカードを2枚持ってるんだ。万が一負けても立て直しは十分可能さ」


「へぇ。つまり、勝った方が『上』に行くってことか」


「そうだね。R3枚持ちともなれば、もはや☆1では無敵と言っても過言じゃない。昇格前にレベリングをキッチリしておけば、☆2で躓かず一気に☆3まで駆け上がれる筈さ」


 非常に魅力的な話だった。万が一負けても立て直しは十分可能な上、勝てば一気に同世代で頭一つか二つ抜け出せる。


「良いだろう。但し俺が賭けるのはオーガだ。コイツは賭けねぇぞ?」


 身長2mを超えるゴツい大鬼(♂)と毎晩ヤりまくれる獣人(♀)、万が一失っても惜しくないのは前者だ。今回は鬼族デッキで編成を組んでいたが、たまたまオーガのスキルとシナジーがあったからゴブリンを使っていただけで、別に拘りがある訳ではない。獣人を加える時点でそれも破綻するのだから尚更だ。


「僕も獣人の方が欲しいのだけど、それを言い出したら勝負が成立しなさそうだね。分かった。オーガで良いよ」


「そんで?てめぇが賭けるのは、そこのチビか?」


 アレックスの肩に止まっている妖精らしきサーヴァントに目をやる。


「確かにこの子もRカードだけど、賭けるのはもう一枚の方さ」


「種族は?」


「それは当日までのお楽しみってことで。こちらも獣人を諦めて譲歩したのだから、それくらいは良いだろう?」


「ちっ、まぁ良い。時間は明日の夕方で良いな?昼まで起きられそうにねーからよ」


 獣人の方を見つめてニヤニヤするチンピラ。


「良いよ。それと申請はそちらからどうぞ。あり得ないことだけど、当日になって僕が対戦拒否して逃げたら、君は不戦勝となり早くも2勝目を挙げられる。どう転んでも君に損はないだろう?」


 当日ではなく翌日以降に公式戦の日時を設定して申請した場合、受けるか否かの返答は指定時刻の1時間前までは猶予がある。


 この場で申請を承諾しなかったのは、自分が提示するアンティのRカードを期限ギリギリまで秘匿し、マイケルに対策の時間を与えない為だった。


 公式戦の約束が得られた以上、この場に長居する意味はない。


 アレックスはチラリと狼獣人(♀)の元マスターに目を向けた。既にサーヴァントの拘束からは解放されているが、意気消沈しており立ち上がる気配がない。


 アレックスは彼に欠片も興味が無かった。弱い方が負けた。ただそれだけだ。


 負け犬らしくすごすごとこの場を後にすれば良いものを、泣き喚いたり相手のマスターに殴り掛かったりと見苦しい事この上ない。


 確かに今後マイケルに嬲られることになるだろう狼獣人(♀)は不憫だが、サーヴァントとはそういうものだ。


 しかしその見苦しい彼の存在は、アレックスにはとても都合が良かった。別に助けるつもりで横から口を挟んだ訳ではない。マイケルに公式戦を挑むだけのそれらしい口実が欲しかったのだ。


 普通にバトルをしようと言っても相手に警戒されてしまう。Rカードを賭けるバトルなら尚更だ。


 しかし彼を助ける為という表向きの口実があれば別だ。同じ学校の同級生だったのも都合が良かった。マイケルは勝手にアレックスと彼が友人同士か何かだと判断し、敵討ちに来たとでも思ったことだろう。


 アレックスの策略は思い描いた通りに推移し、見事Rカードを賭けたバトルを成立させることに成功した。


「君、悪いことは言わないから、今すぐこの場を離れた方が良いよ」


 この先この男がどうなろうと興味はないが、ただ一方的に利用しただけとはいえ、この男の存在のお陰で公式戦(バトル)が成立したのだから、一応借りがあると言えなくもない。


 だがその借りも、アドバイスの一つもしてやれば返済としては十分だろう。


「えっ?何?」


 余りにも愚鈍過ぎる。


 アレックスは首を振って闘技場を後にすることにした。


 しばらくすると背後から「な、何だこれ?対戦申請の通知が止まらねぇ。止め、止めてくれぇー」と叫び声が挙げられていたが、アレックスの耳には雑音としか認識されなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アレックス君HR持ってそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ