第19話 アーニャの覚悟
「良い機会だから、さっちゃんには言っておくね?半年…ううん三ヶ月以内に☆2に昇格出来なかったり、☆2から☆1に降格になった時点で私は自分の才能に見切りを付けてマスターを引退するつもり」
「マジか?」
「うん。来年の自分が、さっきのおじさんみたいに勝ち星欲しさに新人を嵌めようと画策してる姿になってるなんて耐えられない。そんなことするくらいなら、お父さんとお母さんに謝って来年大学受験させて貰うか、他の仕事を探すつもり」
まぁおっさんたちはおっさんたちで必死なんだろうけど、☆1でそんなせこい策を弄さなきゃ勝ち切れない時点で、☆2でやって行くことなんか出来ないっしょ。あと単純にダサい。
しかしマスターを引退するってことは、俺との契約を解除してショップに売るってことだ。
まだ出会って2日しか経ってないが、俺は既にアーニャを気に入っている。スケベ心を抜きにしても一緒にいたいと思う。
アーニャと別れたくないなら勝てば良い。
期限は3ヶ月か。
週一でバトルするとしたら12回しか戦えないから、途中で負けて連勝記録がリセットされるリスクを考えたら、ダンジョンと公式戦を交互にやる必要があるか?って、そんな弱気じゃ☆2に昇格しても、おっさんみたいに出戻りすることになる。
初戦から10連勝するつもりで臨むんだ。
今週のノルマ期限まではまだ5日ある。
ギリギリまでレベリングして絶対に勝つ。
ゴブリンを素殴りで倒すのが面倒臭いとか、キモいから噛み付きたくないとか思ってたけど、ちょっと気合いを入れ直そう。
「アーニャの覚悟は分かった。俺もとことん付き合ってやる」
「ありがとう。あともう一つだけ。私が中級や上級マスターになっても、さっちゃんのことは手放したりしないからね」
そうだった。すっかり忘れてたが、今の俺はRサーヴァントなのだ。Rのレベル上限はレベル30。
中級の入口である☆3の戦場ですらギリギリ。☆4ともなれば、もう完全に戦力外だろう。肉壁にすらなれるかどうか。
命令違反のペナルティであるレアリティダウンを喰らったツケが早くも回って来たようだ。
「俺が初めてのサーヴァントだから、戦力外になってもお情けで取っておいてくれるつもりなら止めてくれ。SRやSSRと一緒に戦力外のRがいるのは肩身が狭すぎるわ」
アーニャと一緒に居たいのと同じくらい、駆け登って行くこいつの足を引っ張りたくはない。
「そんなつもりはないよ?さっちゃんがレベル上限になる度にHR、SR、SSR、URってどんどん昇格させて行けば、ずっと一緒に戦って行けるでしょ?最終目標はGRだね」
「…本気か?GRってアレと同格になれってのか?」
俺がたまに『神的な存在』って呼んでるアレのことだよ。
人間の集合無意識から様々な概念を抽出。それにサーヴァントカードというカタチを与えて疑似生命体を作り、バトルシステムやマスター適性にマスターランク、それに連動した無限の資源を生み出すダンジョンを作り出した超常存在。
世界のバグ。
システム上では自分をGRと設定してるらしいが、本当に生命体なのかどうかすら怪しい。
そもそもお前が召使ってガラかよ。誰が使役するんだ?
お前の立ち位置は完全にラスボスだよ!
さっちゃんはアレを世界のバグなどと呼んでいますが、向こうからすれば「私がバグならお前はイレギュラーだよ。何でサーヴァントがマスターの命令を拒否出来んの?」って思ってます。
さっちゃんは、自分が命令拒否出来てしまったので勘違いしていますが、本来マスターの命令は『絶対』です。
「自害しろランサー」も普通に有効です。
まぁサーヴァントはあくまでも疑似生命体なので、一時的にカードに戻るだけで魔力が回復したら再召喚可能ですが。
アレの手に掛かれば、さっちゃんを消滅させることなど容易いことですが、面白がってレアリティを落としたりスキルを剥奪したりするだけで済ませているのは、完全に観察対象として面白がっています。