第16話 骨まで綺麗にしゃぶり尽くそう。
闘技場エリアに転移して来た筈なんだが、今日は公式戦じゃなくて花火大会でもやるんだろうか?
闘技場の外壁に沿って焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、唐揚げ、フライドポテトなどなど、食べ物の屋台がずらっと並んでいる。もちろん酒も売ってる。
完全にスポーツ競技場か競馬場みたいな雰囲気である。
トトカルチョも行われているらしく、スマホで専用サイトにログインし、10Gから誰でもベットすることが出来るようだ。胴元は『町』なので、八百長などの不正の可能性は限りなく低い。
何かやらかしたら神的な存在が神罰?を下すので、担当者が五体満足で生きているという事実こそが胴元の潔白を証明しているとのこと。
「さっちゃん、こっちこっち!」
屋台の誘惑を振り切る様に、2階の観戦席に向かうアーニャ。
「おぉー?」
ここって本当に☆1闘技場か?何でこんなに観客がいんの?☆3辺りと間違えてない?
もちろん満員には程遠いが、それでも明らかに100や200どころではない人数がいる。下手すれば1,000を超えているのではなかろうか?
「嬢ちゃん、見ない顔だな?ひょっとして新人か?」
予想以上の観客数に驚いていたら、30くらいのおっさんが話し掛けて来た。
「あん?おっさん誰よ?ナンパなら間に合ってるから回れ右して失せろや」
「はっはっは、そう警戒すんなって。俺は☆1マスターのグランってもんだ」
「で?何か用?」
アーニャは俺の後ろに隠れている。震えてはいないが、知らないおっさん(しかもマスター)に警戒しているようだ。
「ここが賑わってることに驚いてただろ?その理由を知りたくはないか?」
「金ならねぇぞ?」
確かに気にはなるが、情報マウント取ってたかられるのは気に入らん。
「ガキにたかるほど落ちぶれちゃいねーよ」
「ほぉ?そんじゃ先輩らしく、可愛い新人にご教示してくれや」
金目当てじゃねぇなら、とりあえず話くらいは聞いてやろうじゃないか。そもそもここに来た目的の半分は暇潰しだしな。
「いいか?☆1闘技場の観客席がこんなに賑わうのは4月のしかも上旬だけだ。理由は主に2つ。どちらもお前らに関わることだぜ?」
「あん?ここにいる奴ら全員、今年デビューの新人マスターを見に来てるってことか?」
「まぁザックリ言うとそういうことになるんだが、マスターと一般人の観客では見に来る意味合いが大きく違う」
「マスターは新しいライバルの偵察。パンピーはトトカルチョ目的とか?」
「ハッ、OBと池ポチャだな」
イラッした。
「めんどくせぇな。さっさと答え言えよ」
さっちゃんは気が短いので、焦らされるとキレて帰る生き物なんだぞ?
「全く最近の若者はせっかちだねぇ。そんじゃ答え合わせだ。前者は品定め。後者はアリバイ作りが目的だ」
「意味わかんね。いや品定めの方は何となく言いたいことは分かるが、アリバイ作りって何だよ?完全犯罪でもすんのか?」
「まぁ待て、順番通り行こう。まずは前者からだ。俺みたいな『先輩マスター』をベテラン、嬢ちゃんたち『新人マスター』をヒヨッコと呼ぶが他意はねぇぞ?みんなそう呼んでるからな」
ベテランっつーかロートルじゃね?と思うが、話の腰を折ってもしょーがないので、内心に止める。
「まぁベテランなんぞと気取っちゃいるが、その実☆2に一度も上がれない奴らが大半だ。☆2と☆1を行ったり来たりを繰り返してるのもいるが、全体から見りゃ極一部だな」
「おっさんはどっちよ?」
「先月見事に出戻りして来たぜ」
「このたびはごしゅーしょーさまです」
手を合わせて拝む。なーむー。
「まだ死んでねぇよ!お前ら☆2への昇格条件は当然知ってるよな?」
「公式戦で10連勝すりゃ良いんだろ?」
マスターはライセンスを申請する際に最低限の知識があるかテストを受けるし、知らないマスターがいたらヤバいだろ。この程度は俺の基礎知識の守備範囲内だ。☆3への昇格条件は知らん。☆2に昇格したら誰かが教えてくれんじゃね?
「そうだ。そして去年デビューの奴ですら最低でも50戦はやってるってのに未だに☆1で燻ってる自称ベテランの実力なんざ、どいつもこいつも似たようなもんだ」
「実力伯仲同士が相手じゃ10連勝なんざ不可能ってことか」
実力がほぼ同じなら勝率はほぼ50%
多少運良く連勝出来たとしても、10連続も幸運は続かない。ジャンケンで10連勝するようなもんだ。
もし勝ち続けた奴がいたとしたら、それは本人が気付いてないだけで、何かしら他の奴よりも秀でた物があったということだろう。
とはいえ、その程度じゃ☆2ではやっていけないかもしれないが…
「だが今だけは違う」
「よちよち歩きの雛鳥は狙い目の獲物ってことか」
「ヒヨッコだからって無条件に片っ端から喰い付いたりはしねぇぞ?中には牙の生えた猛獣が混じってることがあるからな」
「R3枚持ちか?」
「気付いたか。10連ガチャでR3枚抜きなんてミラクル起こす奴も皆無じゃねぇし、何なら30連引けばR3枚確定だ」
親が金持ちなら不可能じゃないな。あるいはHR以上のカードを引き当てる奴もいるかもしれん。
「HRを使うマスターはいないのか?」
「そいつは悪手だな。いくらHRでも低レベルの内はレベルカンストしたNやHNにゴリ押しで負けちまうよ」
Nはレベル10、HNはレベル20、Rはレベル30、HRはレベル40が成長限界だ。
将来的な話は兎も角、初戦までの一週間だけじゃHRのみを重点的にレベリングしてもレベル10に出来れば上々。実際は8前後ってところだろう。
HRレベル8、HNレベル1、HNレベル1
VS
HNレベル20、Nレベル10、Nレベル10
さて、どっちが勝つと思う?
ここで重要なのがAGIだ。
6人の中から数値が高い順に行動出来るから、ベテランはひたすらHRを集中攻撃しちまえば良い。当然HRも逃げるだろうが、相手は脳筋のゴブリンじゃねぇんだ。そう何度も逃げられやしないだろう。
HRを落としちまえば多少手負いであろうとも残りはどうにでもなる。もはや新人に逆転の目はない。
「つまりレベルがほぼ一緒なら、HR1枚を使うよりも、そいつをショップに売ってR3枚揃えた方が総合的には戦力は上ってことか」
「そうだな。それなら普通に五分五分の勝負になるだろう。甘めに見ても6:4か7:3だ。楽して勝ち星を拾いたいのに、そんな博打を打つ奴は居ねぇ。だから初戦は様子見。ヒヨッコに牙があるのか無いのか、あぁやって獲物を品定めしてるのさ」
「ってことは初戦で負けた奴は」
「当然獲物認定される。闘技場のノルマを熟そうとバトルエリアに顔出した瞬間そこら中のベテランが挙って熱烈な対戦申請を送って来るだろうよ。そうなったら一度でもベテランを返り討ちにするか、せめてギリギリまで追い詰めるかしないと公式戦のお誘いは永遠に無くならない」
「おいおい、たった一回の敗北で悲惨過ぎるな」
「そんな未来が嫌なら勝つのは当然として、圧倒的かつまだまだ余力を残してると観客に思わせるような勝ち方が出来れば満点だ。ベテランは警戒してそうそう勝負を吹っ掛けては来ないだろうよ」
勝ち方か…どーゆー戦略で行くか、帰ったらアーニャと相談した方が良さそうだな。