できる姉
三題噺もどき―きゅうじゅうに。
※流血表現があります。軽くぼかしているつもりですが、ご注意ください※
お題:お姉さん・天才・才能
「お姉さんは、あんなに頭がいいのに……」
「お姉さんは、あんなに気配りも出来るのに……」
「お姉さんは、あんなに優れているのに……」
「お姉さんは、才能にあふれているのに……」
「お姉さんは、「お姉さんは、「お姉さんは、「お姉さん「お姉さん「お姉さん「お姉さんは「お姉さん「お姉さん「お姉さんお姉さんお姉さんお姉さん「「うるさい!!!!」
「―――!!!」
私は、私の叫び声で目が覚めた。
「はっ、」
息が詰まる。
全身に汗をかいていた。
ベタベタしてて、気持ち悪い。
(何なのよ、お姉さんは、お姉さんは、)
いつまでも、見続ける夢。
悪夢。
「……」
私には、一つ上の姉がいる。
姉は昔から天才と呼ばれ、その名に恥じることなくその才能をどんどん開花させていった。
何だってそつなくこなすし、勉強も運動もできた。
―それに比べて私は。
「……」
親に迷惑をかけるわ、教師には叱られるわ。
散々だった。
たまに会う親戚一同には、失敗作だと言われた。
何も知らないくせに、私がどんな思いをしているかなんて知らないくせに。
「……」
いつも、比べられる。
私と姉は違うのに、私は姉ではないのに。
私は、わたしなのに。
姉より劣っている事なんか、自分が一番わかってる、言われなくたって。
(分かりたくもないけど……)
それでも、人にそれを言われるのは腹が立つ。
最近の夢は、いつにもまして酷かった。
毎日のように、うなされる。
(最悪……)
そう思いながらも、息を整え、家族のいるリビングへと向かう。
(切り替えないと……)
せめて私は、いい子でいないと。
できない子ではあるけれど、せめていい子でいようとはしているのだ。
「ふぅ…」
リビングへと繋がる扉の前で一呼吸。
部屋に繋がる扉を静かに開く。
「おはようございます、
お母さん―
そう言おうと思ったけど、そこには母の姿は無かった。
まだこの時間はキッチンに居るはずの、母の姿は、そこに立っていなかった。
「へ…?」
キッチンの床に。
無残な、赤く染まった何かが。
あれは、母のお気に入りのエプロンだった気がする。
なぜ倒れているのだろう。
「
机の近くに倒れているのは、父だろうか。
スーツに身を包み、身体を支える力がなくなったのか、床に居る。
「
その横に一人。
白くてかわいいワンピースを、真っ赤に染め上げて。
「……お、ねぇ、ちゃん……?」
もう一人の家族の名を呼ぶ。
「あら、おはよう。」
こちらを振り返り、ニコリと微笑む。
チークを塗ったように、その頬を赤く染めている。
「何を、して、」
状況が理解できなかった。
なぜ、姉が。
よく見れば、手には何かを握っていた。
「何を……うるさかったのを殺したのよ。」
笑顔のまま言う。
誰からも美しいと褒めそやされたその笑顔で。
「いい加減疲れるのよ。親に命令されるのは。」
―私は、こいつらに言われなくたって出来るのに。
そう言って、足元の死体を蹴り、こちらへと向かってくる。
無意識に足を引く。
「あなたはどうする……?」
「どうするって……?」
1歩、1歩、と近づく姉に、恐怖を感じた。
「私とこれからも生き続けるか、それか、あんなになるか……」
そりゃもちろん、生きていけるならそうしたい。
死にたくなんてない。
でも、
「でも、私も、誰かに命令されるのは好きじゃないんです。」
ガタガタと震えているのが分かる。
「そう、じゃあ、さようなら。」
目の前に迫っていた姉が手を振り下ろす。
(あぁ、もう少し、ましな家族に生まれたかった…)